i6-5

「――つまり〈ラキエス〉というのはね――タクト君の隣の子のお腹にいる、竜の幼生の名前なんだって」


 國弘の口から聞かされた、アールビィでさえ遮れなかった秘密の名前――それを耳にしておれが何か決めるよりも先に、ラキエスが支えを失ったかのように膝を折った。


「……なんと愚かな。今さらそんな話を告げて、彼らの情緒に訴えられるとでもお思いですか」


「ちがうちがう。沙夜を失った僕をもうこの絶望から救ってくれとお願いしているんだよ。こんなに酒を飲んでも吐き出せそうにない。僕が求めているのはね、君と娘さん、僕とタクト君、この四人の感動的な大団円なんだよ。タクト君のすごい能力ならさ、ドラゴンスレイヤー? だっけ。きっとその剣をうまく使いこなして、そしたらラキエスだけをやっつけて世界に平和を取り戻せる! ――ねっ? 寄生する竜だけがこの世界からいなくなれば、ほんとうの君の娘さんだって絶対に目を覚ましてくれるんだって!」


 アールビィと何か言いあっているのだけが、空虚に届けられる。もう聞きたくもない。

 何なら姉妹にだって見えそうな紫銀の髪の二人は、血の繋がった親子だった。だからラキエスは命がけで世界境を越えて、そんな境遇を悪魔ヴラッドアリスにすら見初められて、自分にかけられた呪いを解くために――十五の先の舞台にたどり着くためにこうしておれと出会った。

 この数奇で劇的な運命の結末が、こんな最悪なものだったなんて嘘だろう?

 崩れ落ちたラキエスの顔は、ずっと冷静な――そう、諦念めいた表情だけが残っていた。


「……ふふ……それで〝竜の魂を聖堂に返還せよ〟だったんだ。ぼくに親がいないのも、よく知らないし、別にヘンって思ってなかった。そっか。アールビィ・シャルトプリム――あなたがお腹を痛めたのはぼくじゃなくて、ぼくをこれまで運んでくれたこの子のことだったんだね」


 あの紋様に覆われているだろうお腹をさすってから、その手のひらが自分の頬を、まるで他人のものみたいに優しく撫でるラキエス。


「ラキエスはぼくだ。未来が視えたのは、ぼくがヒトじゃなくて竜だったからなんだ。ヒトの体を介してヒトとの繋がりを持てたからなんだ」


 こんなの嘘だ。國弘こそが実は正気で、現実の方が酩酊しはじめたんだって思えて、堪えがたい焦燥感におそわれる。


「だからぼくの容れ物になってくれたこの子とぼく自身を一括りにして〈聖堂〉――ルメス=サイオンって呼んでたんだ。聖堂と、聖堂に封じられた旧い神世の竜との関係。ごめんねアールビィ、あなたの娘はぼくのための生贄だった。安全装置の役割をあの老人どもに背負わされてた。ぼくが勝手に聖堂を抜け出したから、娘を自分の手で殺めなければならなくなった。それを、ここで、ちゃんとわかってあげられてよかった」


 その事実を最初から知っていたというでもなく、怒りや悲しみに暮れるでもなく、ただ自分の正体とアールビィとの関係を受け止めて、でもどうにもならないから、ただそれだけで。


「――……何の思惑があって総帥殿が貴方に明かしたのかわかりませんが、本来なら知らないまま結末を迎えるべきだったという我々の意思は変わりありません。それを、この私に魔法を解けなどと伝えた人物がいたのなら、そうとう悪趣味だと言わざるを得ない」


 ずっと口を噤んできた苦悩から解放されたという素振りもなく、冷酷に告げるアールビィ。


「そしてルメス=サイオン。セメタ一〇〇〇年の理をことごとく突破してきた貴方なら、もう理解できているはず。竜姫がなぜ十五年周期の生なのか、今こそ己が理を受け入れなさい。竜とは蜥蜴の王にあらず、神に等しき幻想種。成長した幼生はやがて竜の瞳という封印をも食い破り、ヒトを凌駕する知性を獲得し、いつか外の世界を滅ぼす成竜となる。今の貴方の望みがそうとは思えない」


 なんの感慨も込めずに言い放つ。


「いずれにしろ神世の竜が聖堂から出るなどあってはならなかったこと。今ここで討伐されるべきです。交渉の余地などあるはずがない」


 〈竜の魂を眠りにつかせるつるぎラプタ・エンデ・ヴァース〉――ドラゴンスレイヤーを携えた妖精人形が、今度こそラキエスに引導を渡すべく、おれ達と対峙する。

 おれは、ラキエスがここで生きている理由をもう知っている。

 それにつながる物語がどんな悲劇の上に成り立っていようと、いちいち首を突っこんでやる。

 この子の事情にとことん深入りしてやる。

 それこそ結末は破滅しかないのだとしても、今はその場面じゃない。させるものか。


「――ラキエス……おれは君の味方だ。この手を取ってくれ。ちゃんとこの先に連れて行く」


 言葉は魔法だ。原始的な魔法だ。君はおれをロゴシエイターなんて喩えたのを忘れるもんか。大きな嘘を嘘のままにしないために、何度だって立ち上がれる魔法をかける。


「――ありがとうタクト。ぼく、生きるよ。自分が竜だって知っても、何が変わったのかぜんぜんわかんない。へへ……魔法が解けたのに、こんな気持ちのまま。キミのおかげで気付けた」


 ラキエスがおれの手を取る。絡み合った指先から、離したくないって気持ちが伝わってくる。


「呪いを乗り越えて、絶対に大人になってやる。あるいはぼくが世界にとって呪いになるなら、ぼくがそうさせない。ぼくとタクトの二人で、未来をこの手に掴み取ってみせるっ!」


 繋ぎ合った手を解き放って。絆なら、おれ達の胸で固く契り合っているのだから。


処女血のアリスヴラッドアリスとの血ぎりを今ここに。汝こそ我が絆騎士きずなきし。我が物語キズナで煌めき放て」


 お願いタクト。このぼく――ラキエスに、キミの輝ける全てを託して。

 胸の中に淀む闇を塗りつぶすかのような、ありったけの光が溢れ出す。希望の奔流。形を得たぼく達の絆。ぼく達の願った一振りの剣が、再びキミの手に力強く携えられる。


「タクト……ぼくにもう一度だけ、キミの力を貸して」


「きみが視た未来によれば、おれはきみのヒーローなんだろ? それって最高じゃん。きみが何ものだって構わねえ。とにかくそう願ったのはラキエスなんだ。なら、実現できなきゃ嘘だ」


 タクト、今度は間違えないから。怒りとか憎しみとか、そういう迷いなんて後で好きに味わえばいい。泣いて、泣きながら時間をかけて前に進めばいい。それくらいキミが大好きなんだ。


「「――――さあ、キミとぼくで劇的な物語をはじめようか!」」


 キミの魂に、ぼくという撃鉄が落とす言霊ロゴス

 途端、キミの世界が変わる。哀れな竜と恋をした現世界の少年がハッピーエンドを掴み取る最高に劇的な物語を、ぼく達で紐解くんだ――――


「また歪んだその力を繰り返すか、ルメス=サイオン。貴方がセメタを見捨て、聖堂を失ったあの国がそれからどうなったか。なんならここで結末を教えて差し上げましょうか?」


 アールビィはセメタの聖堂魔術師で――そして、になってくれたこの少女を産んだ母親ということらしい。

 やっと理解できた。アールビィみたいなルメス族の女性がその役割を担っていたんだ。だから自ら〈竜の瞳〉を施した候補者を産み落としてすぐに、枢機卿院は母体を冥界の門送りにした。ぼくが未来視でアールビィを見つけ出せないように。


「竜姫を失ったセメタは、とうとう二分してしまったそうですよ。貴方を殺して次代を立てたい枢機卿院派と、貴方という最後の竜姫を錦の御旗にした革命派に」


 だから何だというんだ。ぼくを弄んだやつらが、その報いを受けただけなのに。


「ぼくを犠牲にしなけりゃ滅びるんなら、最初からそうならないセメタになればよかった」


「そのような子どもの理屈が成り立たない場所に貴方は生まれたの。やがて冥界の門を越え、この世界にも彼らの手のもの達が押しよせましょう。そうなれば現世界の多くの人間達が巻き込まれることになる。そうなっても、貴方は戦い、抗い続けるのですか? やがて貴方にはちっぽけな人間の言葉など届かなくなるというのに」


 だから、ぼくはずっと自分だけのために戦ってきた。

 そしてぼくは奇遇にも、未来と縁深いようだ。ヴラッドアリスと等価交換で未来と手を切ったあとも、未だに未来の背中を追いかけているのだから。


「……あの、ちょっと君達? ここは僕の部屋だ、勝手に盛り上がらないでもらいたいんだけど。さっき外交交渉の場だって言ったよね。チャンバラごっこならせめて一旦外へ出て――」


「わりいなオッサン。大事な跡取り息子にゃ損害賠償請求できねえもんな」


 この期に及んでまだ空気の読めないことを抜かす男に、キミは余裕の挑発を決め込むと、そのまま有言実行した。

 床を蹴り、妖精人形へと瞬時に詰めた間合い。刺突の構えでキミの切っ先が捉えたのは、妖精人形が携えたドラゴンスレイヤーだ。

 ――そこに神秘の光が弾ける。不可視の拮抗。散らされる火花。ドラゴンスレイヤーに付与された神秘の加護によって、受けた力の反動が分散、放出され、執務室内の壁や家具やあらゆるものが押し出され、倒れ込み、ひび入っていく。


「ひいぃぃぃッ――これがオフィスでやることか、このアンチ文明人どもがッ!」


 斬り結ばれる、二振りの剣先。キミが上げる咆哮すらも押し潰そうとする圧。

 キミの剣と拮抗を続けるドラゴンスレイヤーだったけれど、その柄を構える妖精人形の腕が軋み、わずかな亀裂が入るのを見た。


「おおおおおぉぉぉぉぉッ――――――――お前が砕けちまえッ!!」


 そう、ぼく達のとった作戦は、ドラゴンスレイヤーを振るう妖精人形の破壊だった。

 神世の竜を屠るための神秘が仕組まれた宝器――ドラゴンスレイヤーラプタ・エンデ・ヴァースを前にして、前回の戦闘ではぼくにも太刀打ちできなかった。つまり〝竜を屠る〟という神秘の定義=〝竜姫ぼくが逆らえない因果構築〟が織り込み済みだと考えていい。

 ならば、今この場所でドラゴンスレイヤーを行使できる唯一の使い手――つまり妖精人形を無効化できれれば、もうタクト――キミを凌駕できる敵はいなくなる。

 拮抗していた敵の剣先が、視認できない速さで右薙ぎに払われた。これもドラゴンスレイヤーに備わる自動神秘行使によるものだ。己が光剣と一体化しているキミは、刺突に傾けられた勢いをねじ曲げられ、ガラス壁をぶち破り外のデッキ側へと吹き飛ばされていった。


「タクトッ――――――!」


 油断した。妖精人形は意図的にぼくとキミを引き離したのだ。

 だが妖精人形は、何のつもりなのか絆騎士と引き離されたぼくに迫り来るでもなく、デッキ側に悠々と歩を進めていく。


「悪くない着眼点でした、ルメス=サイオン。けれども意味のない戦いです。我々枢機卿院が竜を手懐けられるからこそ、セメタは一〇〇〇年滅びなかった。〈竜の魂を眠りにつかせるつるぎ〉によって竜殺しの英雄と化した者は、たとえ魔道人形であろうと絶対勝者を約束される。あなたに勝てませんよ。貴方はもう、そのような因果に縛られているのですから」


「くッ――――――させるもんか!」


 キミを追ってぼくも駆ける。砕け散ったガラスを踏み越えて、海風が吹きすさぶデッキへと。

 太陽で視界が真っ白に塗りつぶされて、それでも彼らのシルエットを追う。強い風になぶられ、体勢を崩してしまうぼく。

 と、地面に膝を付き立ち上がろうとしていたキミに、妖精人形の蹴りが入る場面で。体をくの字に曲げ、再度吹き飛ばされたキミがデッキの縁へと転がっていく。

 ――もう間に合わない。いや、間に合わないなんて嘘だ。

 ぼくは妖精人形の脇を死に物狂いで掻い潜って、落ちるキミの手を掴み取っていた。

 途轍もない荷重が全身にかかり、遥か眼下の海原へと引きずり落とそうとしてくる。

 女の子の腕一本で支えられたキミ。デッキは安全柵すらなくて、この先は荒々しく波打つ海面だ。この高さから落下したら、たとえ絆騎士のキミでも無傷では済まないだろう。

 それに、ぼくとの絆が解けてしまえば、生身のキミなんて――。


「無茶すんなラキエス! おれの身体能力ならこれくらいどうにだって――――」


「――キミはただの人間なんだよ! 落ちたら死んじゃうんだよッ!!」


 小さかったころなら、視ることができたのに。この手を離しても、キミは想像もしなかったやり方で窮地を切り抜け、笑顔でぼくのところに戻ってくる未来を。

 でも、大人になろうとしたぼくは、知らない未来がずっと不安だった。


「だから、もう…………ぜったい……に………………離す……もん……か…………」


「――――ラキエスっ!? もういいからこの手を離せ――そいつから逃げろッ!」


 絶対に離してやるもんか。ぼくにとって最悪の結末は、このままキミを失うことだけ。

 焼け付くほどの熱さが背中に浴びせられ――そして正体不明の閃光に目を焼かれる。

 肉が断たれたかのような痛苦。デッキ床にしがみ付いたまま藻掻くこともできず、ただ悲鳴を圧し殺す。耳をつんざく悲鳴のような甲高い音が聞こえる。

 ぼくに何が起きているのか見ることもできない。でも、これはドラゴンスレイヤーだ。妖精人形がぼくを背中から串刺しにしようとしているのか。


「……恐るべき竜の力。かの宝器をもってしても、その殻一つ打ち砕けぬとは」


 アールビィの声が聞こえる間も、背中にまるで火花が散っている感覚。耐えがたい痛み。あの刃でお腹のぼくを貫き通そうとしてるんだ。生ぬるいものが肩をなぞってこぼれ落ちてくる。ぽたり、ぽたりと、キミの額や頬を汚すぼくの血液――いや、ぼくのじゃなくてこの子のか。最後に見るキミがそんな顔だなんて、絶対に厭だ。


「ラキエスッ――――――やめろてめえッ!!」


 妖精人形のドラゴンスレイヤーが、ジリジリとその刃を押し進めていく。感覚が少しずつ他人事みたいに薄れていって、だからぼくの手に掴まるキミの体温すらわからなくなって――


「殻を砕けぬのなら、この場にしばし磔にさせてもらいましょう。このまま我が娘が十五の誕生日を迎えれば、今度こそ〈竜の瞳〉が貴方を断つ。ようやく次代ルメス=サイオンへの代替わりが果たされるのです」


 おれの目には、もうラキエスの顔しか映っていなかった。まだ温かい手。繋がれたその先にいたきみの瑠璃色の瞳が、輝きを失いつつあって。

 妖精人形によって背に突き立てられようとしていたドラゴンスレイヤーは、ラキエスの不思議な力に弾かれ拮抗していたのに。


「ラキエス、まだ戦えるよな? 不死身のヴラッドアリスなら窮地だって覆しちまえるよな?」


 だが途中で剣身を二つに分離させたドラゴンスレイヤーから魔術めいた光線が放たれて、アールビィが言った通りラキエスの全身を磔にしてしまっていた。

 ゆっくりと絆の力が解けていく。この手を掴み取った力すらおれの体が忘れていって。でも、まだゼロじゃないから。


「神世の竜の子よ。我が子は名前すら与えられなかったのに、その我が子を苗床にしてきたお前が〝ラキエス・シャルトプリム〟などと我が姓まで名乗っていたと聞かされ、さすがに吐き気をもよおしたぞ。せめて私自らお前を滅ぼしてやる。このまま悠久の眠りにつくがいい」


 無残にも感情を露わにするアールビィが哀れだった。このひともきっと多くの悲しみを抱えながら生きてきたのだろう。おれに許すことができるのかわからない。ただ、もう戦いなんて終わってほしかっただけで。

 と、思いがけないことにアールビィが駆け寄ってきて、宙吊りだったおれの手を掴んできた。


「さあ、掴まりなさいタクト君! もう一度、私の手にっ! 私の戦いが間違っていなかったのだと、貴方自身が生還して証明しなさい――」


 仮面を脱ぎ捨てたアールビィ・シャルトプリムは無我夢中で、そして泣いていた。枯れ果てたはずの涙も拭わないあのひとから、こぼれ落ちた塩からい雫を浴びる。

 いつだったかの光景の焼き直しめいていて、だからおれもこのままラキエスと心中するくらいなら、アールビィを踏み越えてでもラキエスとの未来にたどり着こうって――

 ――銃声。青緑色のスパーク。おれの腕を掴み取ったアールビィが目を見開き、身震いする。


「…………クニ……ヒロ………………きさ……ま………………」


 振り返ろうとして、できないままゆっくりとくずおれていくアールビィ。絆の力が消えかけていたおれには、彼女を支えることも、その手を掴み取ることすらもできなくて。


「………………やつを……あの剣に………………近付け……させる……な…………」


 誰に向けた言葉なのか、アールビィの体をインガライト光が覆う。彼女に呼びかける間もなく真っ白なローブをはためかせ、海面目がけて真っ逆さまに落ちていった。

 あれは強制送還だ。烏丸國弘がアイ・アームズで撃ちやがった。


「――ふぅ…………やったぞ、僕にもようやくこのチャンスが巡ってきた。実はこの恐ろしい女にずっと脅されていたんだ。でもやった! やったやったやったぁ! 僕の手で沙夜への復讐を果たせたぞ! ちゃんと見てくれていたかい沙夜っ」


 この期におよんで、あの男はなにを宣っているんだ。おれだけでも救おうとしたアールビィを背中から撃ったんだぞ。酔った勢いとかじゃ説明しきれない、狂気そのものの所行。

 ドラゴンスレイヤーから放たれた光線の檻に閉じこめられたラキエスは、まだ生きてくれている。互いの手首を繋ぎあっている。この子にはもう握力すらなく、おれに残された絆の力だけで均衡が保たれている。


「タクト君、もう戦いは終わったよ。君を救うのは家族である僕しかいない。さあ、僕の手を」


 デッキの縁から覗き込んできた國弘の、ぐしゃぐしゃに泣きはらした後のニヤケ顔。手に握られた短銃型アイ・アームズ。このまま國弘に助けを請うつもりなんてない。おれ達の物語に劇的な結末があるのだとしたら、こいつの力で命を繋いででも勝ちとる未来なんかじゃない。


「ん……どこから聞こえる音だ――――――――ぐわっ?!」


 こいつに使う予定じゃなかったおれの奥の手――外壁に吸着させていたアイ・ドローンをぶつけてやった。まんまと取り落としたアイ・アームズが転がって、海へと落下していく。


「クソ食らえだ、クズ野郎」


 そしておれはもうきみの手を離すことにした。ドラゴンスレイヤーですらきみを倒せなかったんだ。だからこのままおれより一秒でも生きのびて、未来の可能性を掴み取ってくれ。


「十五の誕生日を祝って、いつか大人なったきみはこの海を眺めるんだ。おれはこの手を離すけど、きみひとりでも約束を叶えてくれ。待ってるぞ、ラキエス――」

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