i6-3
時計が八時を回る前、まだ田端局長やエリアス指揮室長が不在の間の強行突破だった。
烏丸ニーナ研究局長を伴って、カザネさんの車で向かった先は十番島――このマルクトルという人工群島を統治する組織・SEDO本部が存在するプラットフォームだ。
海上にそびえる十番島は、プラットフォームそのものが巨大な白亜の巨城さながらの景観を生み出している。SEDOというマルクトルの統治機構自体が、相転移炉の利害関係をエネルギーに稼動し続けてきた怪物なのだと、おれは漠然と理解していた。
本来ならば厳重なはずの十番島ゲートを難なくパスできたのは、事実、研究局長が先頭に立ってくれたからだ。どういうつもりなのかはわからない。ただ、SEDOにとってあまりに特別な地位にあるこの人を止められるものなど、十番島にはいなかっただけ。
地下駐車場まで辿り着くと、勝手にすたすたと先行してしまう研究局長を追って、おれとラキエスは車を降りた。カザネさん達にはここで待機してもらう。この先に何があろうと、退路の確保は必要だから。
「――お待ちください局長! アポなし訪問は構いませんが、いくら何でも本日のは強引すぎます。だってテロ騒ぎが起きたばかりなんですよ!」
エントランスを抜け受付を通り過ぎたあたりで、黒服集団に取り囲まれてしまった。
「お連れの方々はどなたなんですか? 身元が明らかでない人間を施設内に入れる場合、まず事前手続きを――」
研究局長は、彼らの苦言のとおり強引な人物だった。ポケットに突っ込んだままだった手を抜くと、そこには黒く金属質な光沢を放つ塊が握られていたのだから。
――拳銃だ。それも、あからさまに人体への無害さを自己主張する白基調のアイ・アームズではなく、どう見ても実弾の込められそうな、前時代的な造形のもので。
「うわっ――――あんた、こんなとこでなにヤバいもん出してんだよっ!」
さすがに研究局長の二の腕を掴んでしまった。ラキエスの肩が強ばるのが横目に見える。いつでもおれを絆騎士化させられるよう、周囲に神経を尖らせてくれている。
「おやめください局長! そんな構え方では、発射の反動でご自身が怪我されるだけですよ!」
銃に心得があるのか、黒服の代表格が構え方の誤りを指摘してくる。戦意喪失を狙った説得でしかなく、端っから研究局長に聞き入れる意思がなかったのだろう。
「だとしても構わんよ。私が怪我をして、あわよくば死ぬだけじゃないか。SEDOにとって大きな損失になる。そうなれば、
そんな我が儘すぎる言葉を叩きつけられた途端、黒服達がバグった。現場の人間の判断能力を超えたのだろうか。研究局長を押さえ込もうとしていた連中の足が止まってしまう。
「責任の取りようがない末端の君らに判断しろとは言わんよ。いいから、いますぐにあの男につないで指示を請いたまえ――ここで総帥づらをしている、烏丸國弘に、だよ」
烏丸國弘。インガライト相転移エネルギーシステムという莫大な利益を手中に収めるために、その開発メンバーだったかつてのニーナ・チェルネンコ教授を妻に迎えマルクトルを建造した大資本家。そして研究局暮らしだったおれと沙夜を、慈善事業の目的で引き取った人物だ。
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