便宜上〈現世界〉なんて呼ばれるようになったこの世界が窮地に陥ったのは、おれが生まれるよりもう少し前のことらしい。

 エネルギー資源の枯渇と、原因不明の染色体異常による全人類少子低寿命化。そのどちらもがきっと発端だった。

 歯車がまともに回らなくなったこの世界で、エネルギーを賄うためにはどうすればいいか、新しいアイディアを各国の研究者達が出し合ったのだという。

 その成果――インガライト相転移エネルギーシステムの発明によって、世界のエネルギー事情は将来的に解決されるだろうと期待されていた。多元宇宙からエネルギーを取り出すインガライト相転移炉によって、何の資源も消費しない画期的な発電システムを実現したからだ。

 ただこの相転移炉は、試験稼動の段階でとんでもない問題を引き起こした。相転移炉が実現したエネルギー交換の副産物として、多元宇宙のゲートまで開いてしまったからだ。

 このゲートは〈世界境〉と命名され、別世界からの来訪者の通り道となった。

 ただの通り道じゃない。世界境を越えてきた彼ら来訪者は、現世界に最適化された新しい身体と魂とを得た、文字通りだったからだ。

 そんな彼ら――異世界転生者には、現世界のどこにも居場所がないっていう、身も蓋もない現実が待ち受けていた。彼らを元の世界へと帰還させる技術も、まだ実現に至っていない。

 だから世界境を誘発しない完全な相転移炉が完成するまでは、現世界に迷い込む異世界転生者も増え続けるのだろう。

 そんな矛盾ばかりが膨れ上がっていくこの世界で、おれもできる限りのことを続けていた。

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