間章 勇者ブレイブ、ギルドの依頼を受ける
【視点主変更 注意】
この章間は勇者ブレイブの視点で書かれています。救助隊とマナの冒険が終わった後の話です。ややこしいですが、よろしくお願いします!
*
僕は勇者ブレイブ。ヒイロの生死を確認するすべを失い、気持ちを切り替えることができたパーティーメンバー達を導く、勇者パーティーのリーダーだ。
「みんな、いい知らせが2つある。まずは、先日、襲撃を防いだシンとメイメイがギルドから表彰されたことだ」
ギルドの個室に集まるメンバー達。いつもなら手短に打ち合わせを済ませ、ダンジョンに向かうところだ。だが、今回集まったのには、別の目的があった。
「表彰状を預かったんだが……ギルドのギャラリーに寄付しておいたよ。気になるなら後で見に行くと良い」
シンは特に反応なし、メイメイは軽く肩をすくめた。僕達ほどの実力派パーティーなら、階層踏破以外にも実績を認められることは珍しくない。だが、所詮はダンジョン探索のついでだ。そのたびに表彰状を処分する僕の身にもなってほしい。
「お二人とも、見事な活躍ですね!」
「ああ。同じパーティーのメンバーとして、誇らしいよ」
フィリスとパラディナが2人を称賛した。特に、パーティー加入から日が浅いフィリスは、初めての経験に目を輝かせている。
「……た、大したことはない」
「えへへ〜、褒められるとやる気が出ちゃうな〜」
そんなフィリスの興奮に水をささないよう、シンとメイメイは喜ぶ素振りを見せた。きっと、2人なりの健気な気遣いなのだろう。そういえば、少し前までは、みっともなくはしゃぐのはヒイロの役目だった。
「ふむ、どうでもいい話はさっさと切り上げよう。重要なのは、2つ目の知らせの方だ」
僕が次の話題を始めると、メンバー達はすっと静かになる。どうやら、表彰の話よりも、僕が重要だといった話のほうが気になるらしい。ならば、僕はリーダーとしてその期待に応えねばならない。
「ギルドから勇者パーティーに依頼があった。近々、大規模なモンスター掃討戦……つまり、大討伐があるらしい。それに加勢してほしいとのことだ」
メンバーたちは目を見合わせる。これまで、ダンジョン整備のために小規模なモンスター討伐が行われることはたびたびあった。だが、討伐隊はギルドお抱えの自治団のみで形成されており、今回のように冒険者に呼び出しがかかるのは初めてだった。
「もちろん、引き受けたよ。みんな、がんばってくれ」
「あ、あの……、ちょっと待ってください……」
僕が話をまとめようとすると、割って入るものがいた。フィリスがおずおずと手を上げながら、周りに助けを求めるように目線を送った。
「大討伐とは何なのでしょうか。わたくし達は何をすればいいのですか?」
「ふむ、そんなことも知らないのか」
「そんな言い方をするな、ブレイブ。彼女はまだ冒険者としての経験が短いんだ」
フィリスはメンバーの中でも冒険者としての経験が短い。だとしても、このくらいの常識は知っておいてほしいものだ。あきれた僕に代わるように、説明を引き受けたのはパラディナだ。
「いいかな。討伐とは、冒険者達を脅かす強力なモンスターを、複数パーティーで駆除することだ。モンスターは冒険者にとって共通の敵だから、討伐は参加パーティー全員にとってメリットがあるということだ」
「なるほど……」
「大討伐というくらいだから、大規模な討伐になるということだろう。ギルドには、我々勇者パーティーのほかにも優秀なパーティーがたくさんいる。きっと彼らにも声がかかっているはずだ」
「すごいですね! 一体、どんな人たちなのでしょうか? 会えるのが楽しみです!」
パラディナの話を聞いて、フィリスは小さく飛び跳ねる。最近の彼女は、また世間知らずのお嬢様に逆戻りしてしまった。僕としては、以前のように冒険者らしい振る舞いをしてほしいところなのだが。彼女が明るくなってしまったのは、ちょうど僕がヒイロの捜索を打ち切ったあたりからのような気がする。
「ふむ、少し緊張感に欠けるんじゃないか、フィリス? 僕達は大討伐の先鋒を任されたんだ。遠足気分では困るな」
「せ、先鋒を?! それって、とても危険な役割ということですよね?!」
フィリスが一瞬で青ざめる。どうやら、先鋒という言葉を聞いて、緊張感を取り戻したらしい。ただ、意外なことに、動揺したのはフィリスだけではなく、ほかのメンバー達もだった。
「先鋒?! そんな話は聞いていないぞ!」
「先鋒ともなれば、メンバー内で慎重に話し合ってから決めるべきじゃないのか……」
「先鋒なんて嫌~っ! なんで事前に相談してくれないのよ~!」
パラディナ、シン、メイメイが順番に不満を口にする。どうやら、ギルドが僕たちに先鋒を任せようとするのが気に食わないらしい。その気持ちは僕にもわかる。なぜなら、フィリスの言う通り、先鋒とは討伐隊の中でも最も死傷率が高い役割だからだ。
「みんな、話を最後まで聞くんだ。そうすれば、君たちも納得せざるを得ないだろう」
「ま、まだわたくしたちに話していないことがあるんですか……?!」
フィリスが目元を抑えながら壁に手をつく。どうやら緊張でめまいでも起こしたらしい。さっきから喜んだり驚いたりしているから、気疲れをしたのだろう。偶然近くにいたメイメイが、とっさに彼女の肩を支える。彼女を気遣っているようなそぶりを見せるが、内心は僕と同じように彼女のことを面倒に思っているに違いない。
「今回の大討伐は第4層で行われる。これが、僕達、第4勇者パーティーが先方に抜擢された一番の理由だ」
「……私達は第4層の踏破に初めて成功した、第4勇者パーティーだ。私達以上に第4層に詳しいパーティーはいない、ということだな」
パラディナが僕の説明に補足を加える。もちろん、その後第4層は様々な冒険者達に開拓されたため、効率的な資材回収ルートや周辺地図情報はギルドも把握しているはずだ。だが、今回のような討伐では、普段の冒険ルートから大きく外れて探索することが多い。こういった場合は、その階層に詳しいガイドが必須になる。
「どうだい。今の説明で、僕達が先鋒を努めなければいけない理由が分かっただろう?」
僕は先ほどまで文句を言っていたメンバー達をぐるりと見まわした。僕の説明を聞いて、それでも反対意見を言うものはいない。全員が無言で僕のことを見つめている。
「そういうわけで、すでにギルドには参加することを伝えてある。まあ、前もって君達に相談しても、結論は変わらなかっただろうからね。時間の節約、というわけだよ」
僕は事の経緯を話し終えた。さて、ここからは大討伐に向けた準備や戦闘の打ち合わせをしなければいけない。パーティーがうまくまとまるかは、リーダーである僕の手腕にかかっているのだ。ある意味、ここまでの準備は前座と言っても過言ではない。
だが、いざ僕が口を開こうとすると、また割って入るものがいた。パラディナが僕の前に立ちはだかって、まるでメンバー全員の意見を代表するかのように文句を言ったのだ。
「……ブレイブ、パーティーの方針を変えたのか? 確か、私達にとって第5層の踏破以外はサボりなのではないのか?」
毅然とした性格のパラディナには珍しく、妙にとげのある言い方をする。まるで僕の判断に不満があるかのようだ。もともと自分の意見を隠さない彼女だが、面と向かって僕に歯向かったのは初めてだ。
「第4層は僕らの得意階層だ。そこでの戦闘は効率的な経験値稼ぎになる。さらに、ギルドからは大量の報酬がもらえる。パラディナ、君の防具にいくら費用がかかっているのか自覚があるのかい?」
「……」
僕の言葉にも、パラディナは不満そうな顔を変えずに、むしろさらに敵意を増した表情でこちらを睨みつけてくる。これだけ丁寧に説明をしても、まだご機嫌斜めらしい。仕方がない、ほとぼりが冷めるまで放っておくしかないだろう。
「パラディナ、その辺にしておけ」
「シン、おまえ、あいつの味方するつもりか?」
そばにいたシンが、パラディナを止める。間違いなく、彼女の横柄な態度を見かねて、僕に加勢してくれたのだろう。第5層でピンチに陥った時も感じたことだが、彼は本当に僕の苦労をわかってくれている。一触即発の彼女を僕から遠ざけ、話し合いがスムーズに進行できるよう彼女をなだめ始める。
「どうやら、……達も大討伐に参加するらしい」
「……何っ?!」
二人は小声で何か話しているようだが、よく聞こえないし、僕には関係ない話だ。
「みんな、頑張ろう。この戦いは確かに危険なものかもしれない。だが、全員で生きて帰るんだ」
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