4-1 ギルド長の愛娘マナ
「ヒイロ様、見てください! こんなにいっぱい謝礼金を貰ってしまいました……!」
いつもの酒場で、ウィズがほっこりしながら今日の稼ぎをテーブルに広げる。他の冒険者が見ているかもしれないのに不用心だと思うが、はしゃぐ気持ちは俺も同じだ。
第2層に活動範囲を広げてから、俺たちの活動は更に順調だった。第1層では敵が弱すぎて、俺たちの力が余っていた。それに、第2層の冒険者は比較的稼ぎがいいので、支払いも太っ腹なのだ。
「やったな、ウィズ。今日もよく頑張ったな!」
「はい! 仕事の難易度は上がりましたが、やりがいがあって楽しいです!」
何より、ウィズの表情がこれまで以上にイキイキしている。第2層での救助は、彼女の向上心を満たすことが出来る最高の仕事なのだろう。
「私、まだまだ元気です! 今日はもうちょっとだけ救助を続けませんか?」
「ええっ、今からダンジョンに戻るのか?! ダメだ、無理をしすぎると、疲れが溜まるぞ」
「ムム……。それはそうですけど……」
俺がキッパリ止めると、ウィズは頬をぷくっと膨らませて見せた。彼女の意欲に答えてやりたいが、救助というのは、いざと言う時に力を発揮できなければ命にかかわるのだ。ここは俺もぐっとこらえる。
「じゃあ、明日は早起きした分だけ沢山活動する、これでどうだ?」
「あ! 私が早起き苦手なのをわかって言っていますね!」
「ばれたか」
「大体、ヒイロ様は夜寝るのが早すぎるんですよ。朝は朝日より早く起き出すし……」
「なんか長時間寝られないんだよなぁ。年かな?」
「まだ20代じゃないですか」
こんな調子で、何とかウィズを納得させることが出来た。よし、今日はもう帰って寝るか。
俺たちが酒場を後にしようとした時、突然大きな音が鳴り響いた。
「ごきげんよう、皆様!」
大きな音の正体は、酒場の扉が勢いよく開かれた音だった。そこには、1人の少女が立っていた。冒険者の街に似合わない豪華なドレスを身にまとっているかと思いきや、背中には身の丈程もある長斧を背負っている。どちらも一級品の防具と武器だ。
「ここに救助隊を名乗る冒険者がいるそうですわね。名乗り出なさい!」
ドレスの少女は、よく通る声で酒場中の冒険者に呼びかけた。突然の出来事に唖然としていた冒険者たちは、ゆっくりと俺とウィズの方を見る。確かに、彼女の探している救助隊は俺達のことなのだろうが……。
「片目に傷の聖職者……あれが噂の救助隊ですわね……。イサミ、ついていらっしゃい!」
「はい、マナお嬢様」
ドレスの少女マナは、俺達を見つけると、酒場にズカズカと入ってきた。イサミと呼ばれた使用人の青年は、マナの背後から姿を現し、静かにマナの後ろについてくる。
「ヒイロ様のお友達ですか?」
「ち、違うよ! ウィズの友達じゃないのか?」
「違います……」
「じゃあ、誰なんだ?」
どうやら知り合いでは無いらしい。だとすれば、救助の依頼だろうか。確かに、頑張って救助活動を続けたおかげで、救助隊の知名度は少しずつ上がっている。噂を聞き、俺たちを訪ねてきたのかもしれない。
「あの、私たちに何か用でしょうか……?」
「救助隊は2人組ですのね。どちらが主人かしら? 早くお答えになって」
「ヒェ……」
恐る恐る声をかけるウィズに、マナは強気な態度で応える。わけも分からず気圧されるウィズは、変な声を出して縮こまってしまった。マナに悪気がないのはなんとなくわかるが、人に好かれにくい性格だなと思う。
「パーティーリーダーは俺、ヒイロだ。あと、主人じゃなくて仲間だよ」
「そうでしたのね。失礼」
俺はそんなウィズに助け舟を出す。すると、ウィズに興味を失ったマナが俺の方へ歩み寄ってきた。
「お隣、よろしくて?」
「あ、ああ……」
「イサミ!」
「はい、お嬢様」
イサミさんが俺の隣の椅子を引くと、マナがそこに座った。燃えるような赤髪は1本の乱れもなくツインテールに結われ、金色の瞳は目尻を引っ張ったようにつり上がっている。年はウィズと同じか年下くらいだろうか。女の子の冒険者は珍しくないが、マナのようなタイプは見たことがない。
「えっと、君は救助隊を訪ねて来たんだよな。俺達に何か用か?」
「大用ですわ。なんせ、この私が直々に会いに来たのですのよ」
「……まず、君は誰なんだ?」
俺がそう聞くと、名乗りもしないお嬢様は信じられないというふうに目を見開いた。
「まぁ! 私のことを知らない冒険者がいるなんて、非常識もあったものですわ。ねえ、イサミ?」
「左様でございますね、お嬢様」
「お、俺が悪いのか……?」
だめだ、ウィズと同じように、俺も勢いに気圧されている。俺は助けを求めるようにマナの後ろに控えるイサミさんを見るが、穏やかな表情で目をそらされた。彼は俺と同じくらいの若さに見えるが、俺よりおてんば娘の扱いが上手いらしい。
「よく聞きなさい。私こそが、冒険者ギルド長ギルバードの愛娘マナですわ!」
「そうなのか。よろしくな」
「よろしくお願いします。……って、ギルド長の娘?!」
マナが名乗ると、それを聞いたウィズがひっくり返った。どうやら、ギルド長という言葉に反応したようだが、何か驚くようなことがあるのだろうか。
「冒険者ギルド長って……つまり、全ての冒険者を束ね、冒険者の街を統治する……実質、王様みたいな人ですよね?!」
「ふふん、分かればよろしいのですわ」
ウィズの評価に満足したマナは、腕を組み足も組み、満足そうにふんぞり返る。なるほど、彼女が有名人とういのは確からしい。それに、ギルドの関係者ということは、彼女の用はギルドの用ということだろう。
「話を戻そう。ギルドが救助隊に一体何の用があるんだ?」
「ヒ、ヒイロ様、もうちょっと丁寧に話した方がいいのでは……?」
「そんなにへりくだるな、ウィズ。マナは依頼者だ。だったら、これまでの依頼者と対応の差をつけるのは良くない。マナもそれでいいな?」
「構いませんわよ。私が確かめたいのは、言葉遣いなんて上っ面じゃありませんからね」
話のわかる相手で助かった。実は、対応の平等は大して重要では無い。本当の目的は、ギルドと救助隊が対等な立場で話をするための牽制だ。俺には、救助隊がギルドに目をつけられているという事実が、どうしても不穏に感じられてならないのだ。
「確かめる? 何をだ?」
「冒険者ギルドが、冒険者同士の救助活動を奨励しているのはご存知ですわよね? その中には、被救助者が救助者に対して十分な謝礼を支払う、という規則がありますの」
その通りだ。だが、この規則のせいで、被救助者は払えない額の謝礼金を請求され、負の連鎖に陥ってしまうのだ。ウィズがまさにその被害者であり、俺はその苦しみを間近で見てきた。
「そして、その支払いが滞った時、ギルドが仲介料を受け取って、支払いを催促する決まりになっていますわ」
「それなら問題ない。これまで救助隊への支払いが滞った被救助者は居ないからな」
これは半分嘘だ。実際のところ、モブリットのように支払額を値切ったり、分割支払をする被救助者は少なくない。だが、双方合意の金額、スケジュールであるならば、滞っているとは言えないはずだ。
「それを確かめるのは私の仕事ですわ。もし、規則外の支払い滞りが確認された場合は……あなた達を、保護、しなければいけませんの」
「ええっと、つまり……?」
「仲介料を取れないような救助隊は、取り潰しですわ」
「そ、そんな! 酷いです!」
……もしかして、大変なことになってないか?
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