3-6 圧倒的勝利

「久々に思いっきりやってもい〜い?」


 メイメイが俺とシンに聞く。俺は周囲を見回した。これだけ広ければ、彼女の好きにさせても構わないだろう。シンも特に反対しない。


「じゃあ、詠唱時間の確保が必要だな。俺とシンで時間を作る。シン、前に出てくれ」

「ふん、分かっている。細かい仕事はお前が何とかしろ」


 そう言ってシンが歩み出る。武器も防具も構えず、自然な立ち姿勢だ。このままモンスターの大群が押し寄せれば、たった1人の暗殺者などたちまち踏み潰されてしまうだろう。


幸運上昇ラックアップ・小」


 俺はシンの次の行動をを予測して、彼に補助魔法をかけた。幸運上昇とは、対象の幸運値を上昇させて、様々なスキルの成功確率を上げるものだ。盗賊職であるシンは元々幸運値が高いが、さらに強化することで失敗のリスクを下げる。

 

「ウィズ、こっちに来てくれ。……小加護ブレス!」

「え? なんですか、これ?」


 さらに俺はウィズに補助魔法をかけた。小加護を受けた味方は、1度だけ軽微な状態異常を無効化できる。何が起こるかわからないウィズは、されるがままに俺の魔法を受ける。シンの方を確認すると、今まさに動こうとしているところだった。よし、間に合った。

 

「……殺気キルオーラ


 シンが小さくそう呟いた。ただそれだけなのに、近くまで来ていた敵が一斉に動きを止めた。まるで目の前に突然壁でもできたかのように、敵たちが土煙を上げて急停止したのだ。よく見ると、デザートウルフたちは恐れのあまり震え、口から泡を吹いている。


 殺気キルオーラは剣使い職のスキルだ。相手のレベルが使用者のレベルの半分以下なら、高い確率で相手を怯ませることが出来る。シンのレベルは110だから、レベル55までの敵なら一瞬だけ足止めが出来るということだ。第3層のモンスター程度なら余裕で条件クリアできるし、幸運値が上昇している今なら成功率はほぼ100パーセントだ。


「ウィズ、なんともないか?」

「あ、はい。……あれ、小加護ブレスがなくなってます」

「シンの広範囲スキルを相殺したんだ。ダメージ技じゃないけど、やっぱり気分がいいものじゃないからさ」


 ウィズのレベルは42だから、殺気キルオーラによる怯みの状態異常にかかってしまうのだ。シンのことだから、そんなこと気にせずスキルを放っただろう。だがやはり、各々が存分に戦うためには、こういった調整が必要だと思う。


「メイメイ、あとは任せた」

「景気よく行くから、調整はヒイロがしてね〜」


 そう言って、次はメイメイが歩みでる。肩に担いでいた大水晶の杖で地面を突き、ゆったりと詠唱を始めた。あれだけの数のモンスターを前にしながら、まるで鼻歌でも歌っているかのようだ。


「この場合は、そうだな。下級補助魔法でいいか?」

「え〜?! 中級補助魔法を使ってくれればいいのに〜!」

「全く、しょうがないなぁ。魔力強化マジックゲイン・中!」


 俺は、次のメイメイの行動を予測して彼女に補助魔法をかけた。彼女の魔法は、俺の補助がなくても十分に強力だ。だが彼女の言うとおり、モンスターの大軍を確実に殲滅するには、攻撃の威力は高い方がいい。まあ、今の彼女の言い分には、多少ワガママが含まれているが。


「となると、もう1つ準備が必要か。火耐性プロテクトファイア・中!」


 俺は手早く次の補助魔法を唱える。今度の対象はシンだ。彼は今、敵の進軍を止めるために前に出ている。本当は上級補助魔法をかけたいところだが、今の俺には使えないので仕方ない。

 

「……いくよ〜、大火球ファイアーウォール〜!」


 メイメイが詠唱を完了する。すると、周囲の空気が一気に乾燥し、焼けるように熱い風が頬を舐める。やがて、太陽のような炎の塊が出現し、夜の草原に昼が訪れた。


「とんでけ〜っ!」


 メイメイが楽しげに杖を振り下ろす。それに合わせて、太陽が地上に降りてきた。あまりに巨大なため、まるでスローモーションのようだ。その輪郭が地平線と接すると、地上は炎がのたうつ地獄と化した。当然、モンスターは大小に関わらず全て蒸発して消え去る。


「う、うわあああっ!!!」


 遠く離れた俺たちにですら、その余波に吹き飛ばされそうになる。もし少しでも前に出ていたら、あまりの威力に巻き込まれていたかもしれない。


 爆風によって炎がかき消されたあとは、焼け野原が残るのみだった。熱された大地がところどころ溶岩のように煮えたぎっている。転移門から溢れ出ていたモンスターは、もう1匹もいない。


「えへへ、やりすぎちゃった〜」

「ほらな、俺の言った通りだろ。ところで、シンは無事か?」

「……なんとかな。全く、加減を知れ」


 ひと仕事終えたメイメイが、気分よく戻ってくる。俺が心配していると、シンが目を擦りながら帰ってきた。彼は俺たちよりも前に出ていたから、より強く熱波を受けたのだろう。抗議の視線と共にメイメイに文句を言う。だが、補助魔法の効果でダメージはギリギリ無さそうだ。

 

「シンだって、ウィズちゃんのことなんて考えずにスキル使ってたじゃ〜ん」

「いいだろ、どうせヒイロが何とかするんだから」

「それもそっか〜」


 いつものように俺に丸投げする2人。こんなやり取りをしていると、やはり昔のことを思い出す。癖の強い戦い方をする2人からは、いつも目が離せなかった。ここに猪突猛進の聖騎士パラデイナが加わるのだ。だからこそ、息を合わせることが出来た時の俺達は無敵だった。


 こうして、襲撃レイドは呆気なく消え去ったのだった。



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