3-5 大魔導メイメイとの再会
「えっ?! 先頭のモンスターを取り漏らした……?!」
ウィズが動揺の声を漏らす。最前線のモンスターの何匹かが、魔法の範囲から逃れてしまったのだ。ウィズの機転で敵の数を一時的に減らすことが出来たが、大きく前線を押されてしまう。
「ご、ごめんなさい、ヒイロ様……。私、こんなつもりじゃ……!」
「大丈夫だ、俺が何とかする!」
怯えた顔で俺を見るウィズに、励ましの言葉をかける。本当はしっかりフォローをしたいところだが、危機的状況がそれを許さない。
先頭のデザートウルフがたてがみを逆立てる。自分たちを焼き去ろうとしている俺達を睨みつけながら、こちらに向かって体毛を高速で射出した。このままでは、針のように固くとがった毛が俺やウィズの体を貫いてしまう!
「……
俺は魔力強化を一時中止し、別の補助魔法をウィズにかけた。身につけている装備の防御力を向上させる魔法だ。
「ウィズ! 術士服で顔や手足を守るんだ!」
「いけません! このままではヒイロ様が丸腰です!」
「俺の言うことを聞くんだ! 君が戦闘不能になれば、攻撃手段がなくなってしまう!」
小柄なウィズは、ゆったりとした術士服で全身を覆う。飛んで来た毛針は、鉄板に弾かれたように弾かれ、全て地面に落ちた。幸いなことに、俺の方には攻撃は飛んでこなかった。恐らく、敵は派手に攻撃魔法を連発するウィズに狙いを絞ったのだろう。
「……
ワンテンポ遅れて、ウィズの範囲魔法が発動する。強化を受けていないため威力と範囲は通常のものだが、最前線のモンスターを蹴散らすには十分だった。
「大丈夫か、ウィズ?!」
「へ、平気です……。ヒイロ様のおかげです」
俺が駆け寄ると、ウィズが冷や汗を拭いながら少し笑う。無傷を装う彼女だが、裾から殴られたように赤く腫れた肌が見えた。恐らく、元の防御力が低い術士服では、針の勢いを防ぎきれなかったのだろう。
「すぐに回復魔法を……」
「いいえ、ヒイロ様。すぐに強化魔法をかけてください」
俺はウィズの怪我を気遣うが、彼女は治療を受けようとしない。俺に心配をかけまいと強がっているのだろうか。それとも、自分の判断ミスを挽回しようと意地になっているのだろうか。しかし、どちらも違うようだ。
「……
「……
ウィズが呪文をつぶやくと、再び炎の壁が立ち上がる。しかも、これまでの炎魔法の中で最高の威力だ。俺の支援の効果もあるが、それ以上に技のキレ自体が増しているのだ。
分かりやすく言うと、ウィズは今、キレているのだ。
「私のせいで、ヒイロ様がまた危険な目に……。そんなこと、私自身が許しません……!」
魔法を唱えている途中だというのに、ウィズの体からは熱気が溢れだしている。長い黒髪は燃えるように揺らめき、翡翠色の瞳は戦場の炎を写して真っ赤に染っている。彼女は敢えて怒りで身を焼くことで、炎の威力を増しているのだ。
「ウィズ、落ち着くんだ! このままじゃ、君の体が……」
「もっと……もっと強い魔法を……」
だめだ、今のウィズは冷静じゃない。俺の言葉が全く届いていないようだ。こうなったら、力づくでも彼女を止めるしかないだろう。だが、
そんなピンチのなか、俺の前に現れたのは意外な人物だった。
「ホントだ〜! ヒイロ、生きてたんだ〜!」
緊迫した場に似合わない、間伸びした声。俺が振り返ると、こちらに向かって近づいてくる人影があった。
「メ、メイメイ?!」
それは、勇者パーティーの一人、
「ど、どうして君がこんなところに……」
「え〜い! おしりパンチ!」
「ぐえっ」
驚く俺に構わず、メイメイははしゃぎながら体当たりをかましてきた。予想外の攻撃に受け身も取れず、俺は突き飛ばされて転んでしまう。
「良かった〜! あたし達のせいで、第5層で死んじゃったかと思ったよ〜!」
すかさず俺を取り押さえ、俺の背中を叩きながら泣き喚くメイメイ。初撃で受け身すら取れなかった俺は、されるがままに彼女に全身をこね回される。
「ちょっ、誰なんですか、この人!」
「す、すまん、ウィズ。今紹介するから……イテッ」
ウィズがパニックになって、つい魔法を中断してしまう。突然のことに驚いたのは俺だけではなかったらしい。俺は感情のまま暴れるメイメイから何とか逃れる。
「勇者パーティーの一員、
「メイメイさんだよ〜」
「勇者パーティー……この人もですか……」
やはり、勇者パーティーと聞くと表情が固くなるウィズ。そんな彼女の態度に気づいてか、目尻を拭いながら俺から離れるメイメイ。
「え〜と、どうしてあたしがここにいるかだよね〜。それはもちろん、ヒイロたちを助けに来たんだよ〜」
「それは助かるが、一体どこから
「ふふっ、シンが教えてくれたんだよ〜」
メイメイがそう言うのと同時に、シンが音もなく姿を現した。確か彼には、
「君が連れてきてくれたのか、シン!」
「……暇そうだったから声をかけただけだ」
「転移門の暴走なんて、滅多に見れないからね〜」
かつての仲間たちと話していると、自然に会話が弾んでしまう。シンはぶっきらぼうだが気が利くし、メイメイはマイペースだが頼りになる。みんなで冒険していた時のことが、自然と思い出される。
「……あ、あの、ヒイロ様!」
俺たちが談笑していると、ウィズが躊躇いながら割り込んできた。俺たちと違い、焦っているようだ。
「あっ、ごめんウィズ。放ったらかしにして悪かったよ」
「そうじゃなくて! まだあんなに沢山のモンスターがいるんですよ! 呑気に話している場合じゃありません!」
ウィズの言葉に、俺たち3人は顔を見合わせる。ああ、そういえば今は
「そうだったな。さっさと片付けてしまおうか」
「片付ける……って、そんな簡単な数じゃないでしょう!」
「第5層でのストレスを発散するわよ〜」
「真面目にやってください! 敵はすぐそこまで来てるんですよ!」
「……これだから身の程知らずは困る」
「あ! 最後のはただの悪口じゃないですか!」
心配性のウィズに苦笑しながら、俺達3人は構えた。向かい来る敵は、俺たちなど物の数とはないと言わんばかりに突撃の速度を上げる。
さて、消化試合を始めるか。
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