3-4 ヒイロとウィズ、協力してモンスターを足止めする

「ど、どうしましょう、ヒイロ様……!」

「ウィズ、ここは力を合わせるぞ!」

「え?」


 俺はウィズに向けて手をかざして、素早く意識を集中させる。聖職者が得意とするのは、回復魔法だけではない。味方の能力を高める補助魔法も使いこなすことができるのだ。補助魔法の種類は回復魔法以上に多岐にわたるが、その中で今のウィズに最適な魔法を発動する。

 

「……魔力強化マジックゲイン・中!」

「わっ! 何ですか、これ!」


 俺の補助魔法を受けたウィズから、普段の何倍もの魔力があふれ出す。魔力強化は魔法の威力を上げる単純な補助魔法だ。本当は魔法全体化や複数回行動の補助魔法をかけられたらよかったのだが、今の俺では唱えることができない。


「すごい……、こんな感覚、初めて……」

「ウィズ、もう一度全体魔法だ!」


 ウィズが自分自身の魔力に驚きながら、今度は静かに杖を握る。先ほどとは違って、杖の先に集まる炎の揺らめきは湖水のように穏やかだ。


「……中火球ファイヤーアロー


 ウィズがつぶやくと、炎の鳥が翼を広げた。そのまま空高く舞い上がり、モンスターの群れに向かって優雅に降り立つ。着弾とともに闇にのまれたかと思いきや、一瞬にして炎の壁が立ち上がり、モンスター達の行く手を完全に阻んだ。


「え、私の魔法……すごすぎ……?」

「やはりお前は身の程知らずだな。今のは補助魔法あっての威力だ」

「あ、シンさん!」


 後方から近づいてきたシンが、ウィズの全力の炎魔法を見て厳しい評価をする。確かに補助魔法は攻撃魔法の威力を高めることができるが、それは魔術師が元々持っている素養を倍加するだけだ。

 

「そんなことないぞ、シン。俺はウィズをサポートしただけだ」

「……そんな軟弱な態度だから、ブレイブに追放されるんだ」

「うっ……そ、そうなのかなぁ……?」


 不本意だが刺さる言葉だ。しかし、気のせいだろうか。シンの態度は俺を非難するという感じではない。てっきり、ブレイブを擁護するために言ったのかと思ったが、違うようだ。なら、なんのためだろうか?


「ま、まぁいいや。今は襲撃レイドから冒険者達を守る方法を考えよう。シン、襲撃レイドはどうやったら終わらせることができるんだ?」


 ウィズのおかげでモンスターの動きは完全に止まっている。しかし、炎魔法が収まれば、奴らは再び進軍してくるだろう。シンから話が聞けるのは今しかない。


襲撃レイドは転移門の暴走だ。だから、門が閉じれば終わらせることができる」

「転移門を閉じる? どうやって?」

「方法は2つ。自然に閉じるのを待つか、高位の魔術師が制御するかだ」


 魔術師と聞いて、俺はウィズを見る。だが、俺と目が合ったウィズは、とんでもないというように首を横に振った。さすがに、転移門を制御するのは、ウィズには無理だ。


「となると、自然に閉じるのを待つしかないか」

「すみません、私が未熟なばかりに……」

「気にするなよ。転移門を制御できる魔術師なんてそうそういない。君は充分よくやってるよ」


 俺の言葉に少しだけ元気を取り戻すウィズ。彼女は中級魔法を次々に習得し、救助で大活躍している。落ち込む必要などないのだ。


「さて、俺とウィズはこのまま全体魔法を連発する。その間に転移門が閉じればラッキーだ」

「でも、もし私のMPが尽きてしまったら、モンスターを、食い止める手段がなくなってしまいます」

「そうだ。俺達だけでは対応できない。だから……」


 俺はもう1人の仲間……シンに向かって助けを求めた。


「シン。すまないが、この襲撃レイドを乗り切るために、俺達を助けてくれないか」

「……ふん、今回だけだからな」


 シンは俺の言葉を聞くと、まるで仕方なく加勢しているかのような態度で了解してくれた。だが俺は知っている。シンはドライなように見えて、1度仲間と認めた者には情が熱いのだ。


「……第5層での鬱憤を、ここで晴らしてやる」

 

 彼は俺達の前に歩み出て2本の短剣を構える。周囲を満たす殺気は、今にもモンスターの群れに襲いかかろうとしている。……だが、俺はそれを止めた。


「待て待て。君の仕事はモンスターと戦うことじゃない」

「……は?」

「シンはこっち」


 俺はシンの脇に手を入れ、ひょいと持ち上げると、そのまま180度回転して下ろした。ファイティングポーズのまま固まった彼は、つままれた猫のように無抵抗で運ばれる。


「シンはダッシュでギルドに戻って、転移門を制御できる魔術師を連れてきてくれ」

「えっ?  はっ?」

「発生した現象に対処するより、原因を元から断つ方が確実だろ」

「……」


 シンは曇った瞳で俺の事を見上げてきた。さっきまで意気揚々と武器を構えていた彼とは別人のようだ。なぜこんな反応をするのだろう。もしかして、使いっ走りにされるのが気に食わないのか?


「シン、機嫌直してくれよ。君の俊足スキルを使うのがいちばん早いだろ」

「……わかった。俺はギルドに向かう。これでいいんだろ」

「シン! ……あぁ、行っちゃった」


 シンはそう言い捨てると、即座に隠密スキルを使って気配を消してしまった。結局、彼の不機嫌の理由を聞けずじまいだった。さすがに仕事を途中で投げ出すようなことは無いだろうが、気に入らないことがあったのは明らかだ。


「俺、なんで怒られたんだ……?」

「分かりません……。戦闘かが好きな人なのですか?」

「いや、そんなこともないと思うが……」


 俺と一緒に首を捻るウィズ。悩んでも仕方ないことのようだ。今は襲撃レイドへの対処に専念し、帰ってから本人に聞くことにしよう。


「敵が動き始めたぞ。……魔力強化マジックゲイン・中!」

「行きますっ……中火球ファイヤーアロー!」


 時間とともに勢いを失った炎の壁から、デザートスコーピオン達が姿を現す。俺がウィズに再び強化魔法をかけると、すかさず彼女は範囲魔法を放った。炎は最前列のモンスターを軒並み吹き飛ばし、再び壁となって足止めをする。


「焦らず、一定のペースを崩すな! ……魔力強化マジックゲイン・中!」

「……中火球ファイヤーアロー!」


 そうして何度も繰り返しているうちに、徐々に前線が押されてきた。ウィズの圧倒的火力を突破できる程のモンスターはいないようだが、何せ無限湧きのような状態なのだ。炎の壁が鎮まった隙に、モンスターの群れがまた1歩前進する。


「……やはり、数が多い。こっちに近づいてきている。……魔力強化マジックゲイン・中!」

「だったら、着弾位置を群れの中心に……。……中火球ファイヤーアロー!」

「待て、ウィズ! そんなことをしたら……!」


 焦ったウィズは、これまで群れの進行方向に放っていた魔法を、群れの中心に放った。炎魔法はその範囲いっぱいにモンスターを巻き込み、最大の効力を発揮する。だが……。


「えっ?! 先頭のモンスターを取り漏らした……?!」



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