3-3 襲撃! 異階層からやってきたモンスター
ウィズと世間話をしているうちに、遠くに転移門が見え始めた。第1層から来た門ではなく、第3層につながる門だ。つまり、俺達は第2層を踏破したのだ。
「ヒイロ様、第2層の端まで来たようです」
「本当だ。じゃあ、この先には誰もいないだろうし、転移門にタッチしたら引き返すか」
第2層はすでに攻略済みのエリアなので、ギルドにより地図が作成されている。なので、初心者でも転移門までの最短ルートを進むことができるのだ。また、この先には稼ぎの良い特殊エリアもない。転移門の向こう側をパトロールする必要はないだろう。
「初めての第2層でしたが、楽勝でしたね。このまま第3層……渇きの砂漠にも行ってみますか?」
「いや、やめておこう。さすがに難易度が高すぎる」
「でも、第3層の適正レベルは30ですよね。ヒイロ様のレベルは60以上、私のレベルは42ですよ?」
ウィズが先に進もうとねだる。確かに、俺達のレベルはどちらも30以上だ。だが、実はそれだけで判断するのは危険なのだ。
「適正レベルは、あくまでバランスの取れたパーティーで挑む場合の目安だ。聖職者と魔術師だけでは、戦力に偏りがありすぎる」
「て、適正レベルって、そういう意味だったんですね……」
ちなみにソロで冒険する場合、適正レベルの倍のレベルが求められるともいう。これを基準に考えると、渇きの砂漠は俺のサポートがあってもウィズには厳しいだろう。
「……わかりました。ヒイロ様の言う通り、ここは引き返したほうが良さそうですね」
「元気を出せよ。俺達の出来ることで助かる人は沢山いるだろ」
実をいうと、今回に限っては第3層に行くこともできたのだ。なぜなら、シンが同行しているからだ。暗殺者は近・中距離戦闘を得意とする職だから、戦力に加えればパーティーバランスは完璧になる。また、彼のレベルは盗賊レベル100、弓使いレベルおよそ10の合計110だ。
「……というつもりはないか?」
「ヒイロ様? 急に虚空に話しかけたりして、どうしたんですか?」
「……ないかぁ。そうかぁ」
シンは沈黙で否定した。まあ、元から第3層に行く予定はなかったし、その必要もないし、ましてや彼に無理強いをするつもりもない。
「よし、じゃあ戻ろうか」
「……待ってください、ヒイロ様。転移門の方から走ってくる冒険者達がいます」
「えっ? どういうことだ?」
ウィズの不自然な言葉に、俺は混乱した。なぜなら、危機に遭遇した冒険者は、街に帰還するために転移門の方に向かって逃げるはずだからだ。それがなぜ、わざわざ転移門から遠ざかるような逃げ方をするのだろうか。
「暗くてよく見えないが……」
「任せてください。こんな時のために……
ウィズが杖を高く掲げると、先端の光が一際強くなる。魔力を帯びた光が柔らかい波紋になって広がると、一瞬だけ夜闇に色が戻る。第5層からの帰還の後、彼女が練習していた新しい魔法だ。
「見えた、冒険者が3人! ……後ろにいるのは、まさか……?!」
俺は身構えた。第2層のモンスターにここまで警戒する必要はない。だが、俺の見間違いでなければ、今の状況は大ピンチだ。
「ナイトウルフじゃない。あれは、デザートウルフだ!」
「デザート……って、砂漠のモンスターですか?」
「ああ。第3層の強力なモンスターだ。なぜ奴らが第2層にいるんだ……?」
通常、各層は互いに隔離されており、転移門が唯一の移動手段になっている。そして、その転移門を使えるのは冒険者だけ……のはずだが……。
すると、戸惑う俺達の前に、これまで気配を絶っていたシンが姿を表した。彼もデザートウルフを見て驚いているようだが、俺達よりは冷静だった。
「
「シン、何か知ってるのか?」
「稀に転移門が誤作動して、閉じなくなってしまうことがあるらしい。俺も見るのは初めてだ」
「誤作動なんて……そんなことあり得るのか?」
「転移門はもともとダンジョンの罠の一種だ。ギルドが把握していない機能があってもおかしくない」
信じられないが、シンの話が本当ならこの状況に説明がつく。あのデザートウルフは第3層からやってきた。そして冒険者達は、その発生源である転移門から逃げている。そういうことだ。
「開きっぱなしの転移門から上層のモンスターが襲ってくる……それが
「そんな……。冒険者達を助けないと!」
「はい。行きましょう、ヒイロ様!」
俺達は迷わず転移門に向かって走り出した。必死で逃げている冒険者達が、ウィズの光に気づいてこちらに向かってくる。傷ついた2人が、歩けなくなった1人に肩を貸している。
「助けてくれ! こいつはもう歩けないんだ!」
「今行く! ……
俺は一目散に負傷者に駆け寄り、回復魔法をかける。治療を受けた負傷者は、たちまち癒えていく傷に驚きながらも、元気を取り戻していく。
「すげぇ……。あんた、一体何レベルなんだ?」
「話はあとだ! できるだけたくさんの冒険者を連れて、ここから離れるんだ!」
「わ、分かった!」
俺の指示に従い、冒険者達はそのまま全力疾走で逃げていった。俺達はパトロールの途中で何人もの冒険者を追い抜いてきた。彼らは、
「来るぞ、ウィズ! 頼んだ!」
「はい! ……お願い、うまくいってください……
ウィズがおそるおそる杖を握りしめて、極限まで意識を集中させる。すると、杖の先で炎がうねり、爆発四散してモンスターの群れに降り注いだ。ウィズが得意とする
「やった! ヒイロ様、私、やりました!」
「ああ、すごいじゃないか! ……でも、敵は止まってくれないらしい」
本当はウィズの魔法上達を喜びたいところだが、そうもいかない。魔法をまともに食らった第一陣の動きは止まったものの、すぐ後ろのモンスター達が前列の屍を超えてやってきたのだ。
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