間章 勇者ブレイブ、救助隊の噂を聞く

【視点主変更 注意】

この章間は勇者ブレイブの視点で書かれています。ブレイブがダンジョンから戻った後の話です。ややこしいですが、よろしくお願いします!



 *



 僕は勇者ブレイブ。第5層から見事パーティーを生還させた、勇者パーティーのリーダーだ。


「ふむ、今回の敗因は、君達のレベルが足りなかったせいだ。僕としたことが、新層を侮りすぎたよ」


 ここはギルドの個室だ。僕達のような熟練冒険者は、予約をすれば会議や休憩のために利用することができる。いわゆるVIPルームというやつだ。


 第5層からの敗走から1週間が経った。壊滅状態だったメンバー達や彼らの装備を元通りにまで立て直すのには苦労した。だが、これ以上時間は無駄にできない。次の挑戦に向けた作戦会議をしなければならない。

 

 しかし、有意義な会議に水を差す者がいた。聖騎士パラディンパラディナだ。


「貴様っ、その淡々とした口調は何だ! 置き去りにしたヒイロに申し訳ないと思わないのか!」


 パラディナが乱暴に机を叩いた。貴婦人を思わせる長い銀髪を怒りに揺らめかせ、黄金の瞳をつり上げて僕を睨んでいる。


「落ち着くんだ、パラディナ。何度も言っただろう。大聖女フィリスが加入した時点で、ヒイロはパーティーを追放する予定だったんだ」

「話を逸らすな! 私は彼をダンジョンに置き去りにしたことを責めているのだ!」

「だとすれば、君にそれを言う資格があるのかい? 同じように彼を置き去りにした君に」


 パラディナが一瞬鬼のような形相に変わるが、何も言い返すことはできない。確かに、ヒイロを追放したとき、彼女は大怪我のせいで正常な判断を下せる状態ではなかった。だが、僕の言ったことが真実、結果が全てなのだ。


 パラディナが力なくうなだれた。握りこぶしを解き、頭をかかえて椅子に倒れ込むと、うわ言のように呟く。

 

「ヒイロ……彼は我々になくてはならない存在だった……」

「いや、彼はただの聖職者ヒーラーだよ。いくらでも代わりがきく」

「お前にはわかるまい……お前には、な」


 彼女はそれだけ言うと、これ以上の口論は無意味とでも言うかのように黙ってしまった。あるいは、僕に理不尽に当たり散らすことでストレスが発散できたのかもしれない。面倒だが、メンバーのメンタルケアを行うのもリーダーの務めなのだ。


 しばらく会議室に沈黙が流れたが、それを破ったのは大聖女プリーストフィリスだった。


「……わたくしは受け入れられません。ヒイロがあの洞窟で死んだということが」


 そう言って、フィリスは十字架のペンダントを額に押し当てた。あの日以来、彼女は口数が減り、代わりに祈る回数が増えた。もとは世間知らずの無邪気な少女だったが、彼女もようやく冒険者らしくなってきた。


「でも、君も見ただろう。ケイブワームに囚われた死体を」

「ブレイブ、やめてください。思い出したくない……」

「現実逃避は良くないよ、フィリス。そんなことより、ヒイロの離脱をどうやって君が埋めるかの話をしよう」

「いや……いや……」


 フィリスもそれっきり何も言わなくなってしまった。おそらく、いきなり負担を増やされて困惑しているのだろう。タスクの整理ができるまで待ってやる必要があるのかもしれない。


「……あのさ〜、ヒイロは本当に死んだのかな〜?」


 唐突にそう言い出したのは、大魔導メイジメイメイだ。彼女は退屈そうに薄紫のカールヘアを指で弄りながら、ピンクの瞳だけてこちらを見てそう言った。その言葉に、パラディナとフィリスだけでなく、暗殺者アサシンシンまでもが顔を上げる。


「あの死体は本当にヒイロだったのかな〜って」

「ふむ、どういうことだ、メイメイ」

「だって、人間の死体だってことが分かっただけで、顔や装備までは見えなかったでしょ〜? 人違いかもしれないじゃ〜ん」

「ヒイロが……生きている……」


 フィリスがポツリと呟いた。確かにその可能性は否定できないが、限りなく低いだろう。なぜなら、勇者パーティーですら苦戦する第5層に挑むような無計画な冒険者がいるとは思えないからだ。


「ありえないよ。それに、もし彼が生きているとしても、僕らには関係のない話だ」

「でもっ……!」


 僕が話を切り上げようとするが、フィリスがしつこく食い下がる。そういえば彼女は、ダンジョンでヒイロと別れるときも彼から離れようとしなかった。やはり聖職者同士だから哀れみの感情があるのだろうか。


「……そうだ、シンは何か知りませんか? あなたなら、ヒイロを見つけられるのではありませんか?」


 名指しされたシンは、腕を組んで唸った。その様子から察するに、彼ほどの情報通でもヒイロの噂などは聞いていたようだ。これはやはり、ヒイロは死んだと考えるのが妥当だろう。


「……まあ、俺も全ての冒険者の動向を知っているわけじゃないからな」

「そう……ですか……」


 珍しくシンが言葉を濁す。はっきり否定されなかったとはいえ、その意図を汲み取ったフィリスが肩を落とした。あからさまに沈む彼女の様子を見たシンは、とっさに話題を変える。


「そういえば、最近気になる噂を耳にした。救助隊を名乗るパーティーが、ダンジョンで冒険者の救助活動を始めたらしい」

「えっと……どういうことですか?」


 急に話が変わり、困惑するフィリス。だが、そんな彼女の様子にめげることなく、シンは穏やかに話を続ける。


「もしヒイロが生還しているなら、彼らのような者に救助されている可能性がある。あるいは、もっとはっきりした死亡の根拠も持っているかもしれない」


 僕はシンの意見に首をかしげた。第5層に僕ら以外の冒険者がいたとは思えない。それは、謝礼金のためにダンジョンを徘徊するハイエナとて同じことだ。


 だが、フィリス達の反応は違った。彼女達はシンの話がまるで最後の頼みの綱であるかのように顔を輝かせ、食いついたのだ。


「本当ですか、シン!」

「だが、もしヒイロが本当に死んでいたら……」

「でも~、やっぱ気になるよね〜!」

「掴むな! 押すな! 頭を撫でるな!」


 たちまち3人に取り囲まれ、もみくちゃにされるシン。小柄な彼は一瞬で彼女らに圧倒されてしまう。


 僕は呆れて席を立った。おそらく、救助隊とやらがヒイロの情報を持っている可能性は限りなく低いだろう。それに、彼の生死を知ってなんの役に立つというのか。

 

「……まあ、好きにすると良い。ダンジョン探索以外の時間に君達が何をしようと自由だからね」

 

 彼らが会話を脱線させたせいで、会議は中断せざるを得なくなった。僕達はダンジョンを攻略するためにパーティーを組んでいるのだから、余計なことにリソースを割くべきではないはずだ。なのに、彼らと来たら呑気なものだ。


 僕は、盛り上がる彼らを置いて会議室を後にした。まあ、これでヒイロの死がはっきりしたら、彼らもダンジョン攻略に集中できるようになるだろう。



 *



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