第39話 俺友達いねーもん
川辺で持ち物を焼く。
俺には家がない。帰る家がない。実家はもうない。家族もいない。平成28年の頃に壊されてしまった。東京に現れた竜種によって世田谷にあった家もろとも壊されてしまった。12年前のこと。当時7歳だった。たまたま結婚記念日の夫婦旅行だとかでそこに来ていた菅原夫妻が引き取ってくれて、俺がいつのまにかミエルプレートを持っていたものだから、夫妻が俺をスガティーに任せた──……というのが、簡単なあらすじ。
たまたまミエルプレートを持っていて、たまたま能力が第六段階で、たまたま菅原夫妻に出会えていて、たまたま運よくスガティーが滝見学校の教師になって、たまたま運よくスガティーの教え子になれてたまたま運よく卒業できただけ。俺の人生は偶然の塊だ。やる気ももちろん失せていく。
王者の刃の寮を追い出されたら帰る場所がない。「子犬ちゃんのカッコして拾ってもらおうかしら」などと考えていても、こんなところじゃ俺の悪評は広まってるらしくててんで駄目らしい。騙されてくれそうな人もいない。研修生くんはぶっちゃけもう絡みに行ったら可哀相だ。
うーむ。
「もしかして、生き方めっちゃ間違えた?」
「よく気づけたじゃない」
「あっ! スガティーじゃ~ん!」
「先生と呼びなさい。菅原先生と」
いつの間にか背後を取られていた。
「18のガキが終活かい」
「似たようなモンでさア。俺ア……テメェがあんまり寂しいモンですから思わず川辺で物焼きでさア」
「哀しいねぇ。いつからそんなに捻くれちまったのかねぇ。そんな生意気に育てたつもりは無ぇよ」
「育ててくれたのは夫妻じゃねーかよ。あんたにはシゴかれただけだわ」
「そうかな? そうかも……」
スガティーは微妙な顔をしながら首を傾げた。
「というか……あんた何でこんなところにいるんだよ」
「出張」
普段は遠野の奥深くにある滝見学校の寮で生活しているが、どうやら今日のスガティーは盛岡市内をお散歩らしい。
「奥さんは?」
「オッ!? オッ、オオ、オオオオ!? 誰の事?」
「寒河江姐さんの事ですよー。先々月コクられたんじゃないんですかー」
「ハッ!? ハッ、ハッ、ハァァア!? ちげーし! コクられてねーし! なんやねんお前ガチありえんわー! お前ホンマやめろやそういうの!」
「そこ否定すんなよ……もう28だろ……色恋に恥じらいでどうすんだよ……童貞かー? 童貞界の最強かー?」
「霊長類の最強だわ! 童貞ちゃうわ!」
こんな童貞最強見たくなかったなあ。
「まったく……場を茶化さないと気が済まないその癖、そいつはお前の長所だが、短所でもある。一張一弛。時と場合を弁えて強めたり緩めたり。そうしていかないと友達に嫌われていくぜ?」
「俺友達いねーもん」
しばらくの間を置く。
「お前、王者の刃追い出されたらしいな」
「おーおー。保護者情報ラインは強いねえ」
「普段ふざけてるのは百歩譲って許してやるとして、組抜けるときまで礼儀欠いちゃなんねェって俺テメェに教えたよな」
「怒んないでよ。ヤクザじゃないんだから。俺、こう見えて反抗期って奴でさア。頼んでもいねーのに勝手に教え子にさせられて何回も『あの菅原旭の弟子なのに弱いなんて!』って言われたか、そういう目で見られたか」
「…………まったくクソガキが……。いいか? いつまでもそんなんじゃ、いざって時誰にも助けてもらえなくなるぞ。シンさんも先輩もよく言ってたぞ、生意気な奴は度合いに応じて嫌われてるって」
「先輩って誰の事だよ」
「11年前に結婚して2年前に離婚した田村先輩だよ」
「ああ、その人……」
シンさんってのは、スガティーの尊敬する人。先輩っていうのは11年前に結婚して2年前に離婚した田村先輩。よく話に出てくるけどどっちも見たことはない。不本意ながら12年このアホの弟子をやっているが、どうも見たことがない。実在してんのか?
「これ以上嫌われる程俺のこと見てる奴いませんって」
「まったく君は……」
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