第35話 うんこフォワード
「はいもしもしい? 歯槽膿漏になって全部の歯が抜けたか? あれほど歯磨きしろって言ったじゃないっすか先輩。死ね!」
「あれ? おかしいな。愛しの後輩が怒ってる。男の子の日か? 給食の柏餅喉に詰まらせて死んでしまえよ」
「男の子の日じゃねーよ。っていうか柏餅ってお前、それこどもの日じゃねぇか! うんこか? 頭にうんこ詰まってんのか? 便所で頭かっ開いて脳みそ垂れ流してさっさと死ねよ。それうんこだから。脳みそもろともうんこだから」
「おや? うんこソムリエにはばれちまいやしたか? さっすがですねえ、うんこソムリエ。でもそれ以上に哀しいコ。日常がうんこだったはず。お前今日からうんこフォワードな」
「あ? まともな思考は何処に転送した? 何の用だよ。さっさと吐けやナス頭」
「そんな言葉遣い良いのかな? お前がいま一番ほしい情報持ってきたのにいいいのか──あっ、ちょっ、待てボケコラ!」
電話の奥でドッタンバッタンと聞こえてきた。
そして、ややあってから不吉な声が聞こえて来る。
「菅原くーん! 元気~!? いま何色のパンツ履いてるん?」
「あんたですか、篠原さん」
「アーン! 菅原君の低い声聞いとると脳みその中のお●●こが下りて来ちゃうやんかあ……なあ~……菅原君のおちんちんペロペロしたいわあ~……」
「あんたなんなんだ……!? あんた喧嘩で負けた奴にしかそういう態度取らないんじゃないんですか!」
「君には最後の最後で負けたからなあ……んーまあ、あんたは憶えとらんわなあ。しゃあないなあ……僕は憶えとんのに一番素敵な君が憶えてへんのは惜しいなあ、切ないなあ……」
頭のおかしい人だ。この人は頭のおかしい人だ。できることなら関わりたくない。できることなら言葉のひとつも交わしたくない。
「でもまぁ仕方ないか! 僕と君が出会うのは本来君が17歳の頃。いまの君は16歳。君と僕が出会うたのは15歳の頃……いろいろとねじ曲がったこともあったなあ。せやけどホンマにねじ曲がっとるのはこないな世界そのものでは? ダンジョンがひとつだけなんてつまらん世界やんなあ。もっとパァーッと景気よくあった方がええやろ」
「あいつ記憶ないから! ぜんぜん憶えてないから! 変なこと言って混乱させるのやめてくれる!?」
「やかましいわ転移術しか脳のない猿が!」
「アァ!? 転移術がなけりゃてめーら何回ダンジョンで死んだよ!? 何回俺が瀕死のてめーら助けに行ったよ!?」
「頼んでへんわ! いちいちいちいち……視聴者の通報真に受けて風紀委員は阿保しかおらんのか!?」
「ファンを馬鹿にするのやめろや!」
俺の理解力じゃまだ理解しきれない話をするな。
「それで、俺が一番欲しい情報って?」
「せやった! 村田書店の近くでモンスターが出たで。菅原君。きみ、もちろん行くよな」
「戦う力ないですよ。戦いたくたって、喧嘩は苦手だし、なにより、こわい!」
「喧嘩は僕が教えたやろ」
「モンスターって怖いんだよ……もう、動けないくらいに怖いんだよ……」
「ふむ……君は少々恐怖を勘違いしとんなあ。ええか? 恐怖っちゅーのはなあ、『相手』に抱いちゃあかんのや。『自分』に向ける感情や」
「何いってるんですか」
「ま! 僕から言わせてもらえれば……せやなあ、自分一人が悪いと思っとる奴が本物の恐怖を味わえる訳ないんや」
篠原さんは少し落ちる声でそう言った。
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