第34話 クソボケが
…………そんな事を言われてしまった。彼は俺を買い被りすぎるところがある気がする。けど、まあ、あんまりクヨクヨしててもいけねぇな。
「あっ、そうだ。これから買い出し行くんだわ。手伝ってくんない?」
「買い出し?」
「ダチにお使い頼まれちゃっててね。数週間引きこもるから食糧よろしくって」
「なるほど。お手伝いさせていただきまっす」
母に断りを入れて、シンさんの車に乗る。街のあちこちは壊れていたが、スーパーが何カ所か空いていて、そこそこの食糧もあった。みんなどうしているのだろうか。
「こんだけありゃ大丈夫だろ」
「その人ってどこにいるんすか?」
「かもめ荘っていうやっすいアパート」
「あっ、知ってます」
「ホオ? なして?」
「俺の友人に……
「浅丘! おお、そいつだそいつ! 浅丘林檎!」
「へーっ。そないな偶然もあるんですなあ」
俺達はかもめ荘に向かった。道路を挟んだ向かい側にあったコンビニは崩壊していた。この前スライム状のモンスターが現れたらしい。緊急災害対策隊が火炎放射でブチ殺したのだそうだ。
「あーさおーかくーん! あーそーぼー!」
「開いてるよ」
「お邪魔しまーす」
浅丘林檎、という人は女性のようにも見えるような、中性的な人だった。「菅原旭です」と名乗ると、「背丈の大きな逆ハの字のナポリタンオタク!」と小さく叫んでいた。
「Tシャツすら『ナポリタン』なのは気合い入ってんね! それどこで売ってんの」
「作りました」
「おお。作ったか……」
なんだというのか。
「な! 面白い子だろ」
「面白い子ではあるけどさ」
なにやら歯切れの悪い。いったいどうしたというのか?
まさか腹でも減ってるのだろうか。
「菅原くんさあ」
「ナポリタン喰います?」
「ホ?」
鍋とコンロ、水を出す。
「何処から出した!?」
「こいつは懐に物をしまうのが上手なんだ」
「上手ってレベルじゃなくねぇ!? 寸胴鍋何処に入れてたんだよ!」
「何処って、そりゃジーパンのポケット……」
「無理だから! さすがにそのデカさの鍋はジーパンのポケットには入んねぇから! ドラえもんかテメェ!」
「どちらかと言えばエル・マタドーラです」
「テメェそのヒョロッヒョロの腕でスペインの怪力男な訳ねーだろ!」
にしたって暑すぎる。
「窓開けていいですか。冷房ないんですか」
「古いアパートだからねえ。まあ、あったとしても電気止まってんだよね。あっつー」
「どうやって生きていくつもりだったんですか」
「適当に」
えぇ……。
「岩手ってマイペースしかいないんすかね? 俺を見習ってほしいもんだ」
「家に鏡ねぇのか? このガキ……」
浅丘さんの何かしらの琴線に触れてしまったらしい。困ったもんだ……感情的な人は嫌いなんだよなあ。ヒステリックになられたら困るんだよなあ。キンキン騒がれたら堪ったもんじゃない。
「なんで耳ふさいでんだこのガキ!!!!!」
「天然なんだこいつ」
「性悪の間違いだろ」
そういえばどういう友なんだろう。
「お二方はどういうフレンズなの?」
「中学時代の友人関係」
「つっても仲良くなったの最近なんだけどな」
「へー」
そんな昔の関係がいまも続いてるってのはこういう地方のいいところではある。東京とかいうクソボケアホアホボケカス映す価値無しアホアホチンポウンチッチゲロ下痢便弁当クソカスチンカスアホチンポゲロゲロバカウンコ阿呆の集積地じゃありえないことだと思う。いや、都会への嫉妬とかではないけど。こんなこと言ってほしくないなら岩手にもバーガー●ングをよこせ。なんで北海道に次いでデカい土地持ってんのにバー●ーキングないんだよ。妬みとかじゃないけど。妬みではないけど。妬みじゃねーけど。
「君はちゃんと友達いるか?」
「あんたの従兄弟」
「あいつ良く君のこと『阿呆』だの『馬鹿』だの『渡り鳥みたいな奴』って言ってるよ」
「そう思わせてしまう俺が悪いんですね」
しかし、渡り鳥みたいな奴、か。
困ったな、少しかっこいい。
そうしていると、スマートフォンから着信音が響いた。
「通づるんだ……!」
「テレビも見れたからねぇ」
「誰からだい?」
「…………おっ。ウンコからだ」
「ウンコ?」
「錠くんからかい」
「正解」
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