第33話 いつもの発作かな?

 俺は全く良くなかった。「モンスターの出現により○○人が負傷しました」だの「モンスター被害により家屋がこのくらい損壊しました」だのと、ニュースキャスターが言う度に、罪悪感が募っていった。


 タイミング的に察すると、俺はどうやら「モンスターと戦う力」を得てしまったのだ。この世界に神様なんてのがいたとしたら、詰問してやりたい。どういうつもりで俺を選んだのか。俺のような、勉強も運動も誰よりも不得意な平凡少年に、なにをさせるつもりなのか。


 スーパーパワーを持っていたとして、俺にはそれを使えるほど責任感があるわけじゃない。俺は臆病者だ。モンスターは一度見たことがあるが、あの時心を折られている。クラスメイトが襲われて、腕をひとつ失っていた。あの時から恐怖で心が支配されている。戦う気概はない。


 ……もしかしたら、本当はシンさんが力を貰うはずだったんじゃないのか? あの板きれを拾ったのはシンさんだ。もしかしたら、あの力は本来シンさんが受け取る筈だった能力なのではないのか。だとしたら、辻褄があう。


 俺が力を手に入れてしまったのは、偶然で最悪だったのではないか。シンさんは優しくて、気合いと根性燃えたぎる、男の中の男だ。正義感が強くて、目の前で誰かが困っていれば、絶対に助けようとする。そして、大きな敵には絶対に勝とうとしてしまう。そこまで考えると、確信してしまう。


 やっぱり、俺が力を得たのは、間違いだったんだ。


「俺のせいで……」


 卓也がいなくなったタイミングで言った。


「ん?」

「俺のせいで、本来助かるべきだった人が……」

「お! いつもの発作かな? なにをどう考えてそうなったのか教えてくれや。旭ちゃん」


 シンさんは俺を慰めるとき、「旭ちゃん」と呼ぶ。

 俺は、シンさんに包み隠さず答えた。


「ほぉー。それでさっきの発言ね。ハハハ」

「笑い事じゃないっすよ。本当に思ってるんですよ。俺じゃなくてあんただったらって……でも、でも」

「現実はそうじゃない」


 シンさんはぴしゃりと言った。


「理想は俺があの能力を得て、お前はいまもナポレオンフィッシュの留守番小僧。でも、現実はお前があの能力を得て、俺はいまじゃ漁にも出られない不漁小僧だ。これはわかるな?」

「だから、間違ってるんだ。そうでしょ」

「間違ってないね。あのさ、旭ちゃん。俺いつも言ってるよね。俺は完全無欠じゃない。お前もな。全員そうだ。超人じゃない。そこはわかるな?」

「でも、少なくとも俺よりあんたがこの力を持ってればよかった。俺のせいだ。俺が悪いんだ」

「そうじゃねぇんだよ……なあ、旭ちゃん。俺いつも『気合いと根性』って言ってるだろ」


 シンさんは着ていたスカジャンの袖にあった「気合いと根性」の文字を見せつけてきた。


「俺が俺であるための言葉だ。『気合いと根性』っ! この言葉があるだけで、俺は強くなれる気がするんだ。つまりさ、俺達は何かに支えられて強くなるんだよ。お前は今たしかに弱いかもしれないけど、じゃあこれからもずっと弱いばかりかっつーとそうじゃない。だろ? お前はこれから何かに支えられて強くなる。それでいいんだよ。今は俺が支える」

「…………」

「落ち着いたか?」

「少し……」

「いつも自分ばかり責めんだからな。いいかー? 課題だぜ、旭ちゃん」

「課題……?」

「テメェを支える言葉をテメェで作るんだ」

「そんな、無茶だ」

「無茶で上等じゃないかっ! 燃える心に刻む言葉は轍! 生きた奇跡がぶっ飛ばす、気合いと根性! 灼熱魂! お前は無茶を通せる男だ! 覚悟しろ、旭ちゃん」


 シンさんは俺の胸に人差し指を突き立てながら不適に笑う。


「これから君は燃え上がるぜ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る