第3章 迷宮の世界のはじまり

第31話 ナポリタンつくれる?

「迷宮」というものが発生するようになったのは、今は昔。

 太平洋の青い海に天に向かってそびえ立つ白い搭。

 宇宙線による内部構造の3Dスキャンによって、いくつもの階層があり、生態系が形成されていることが判明している。

 まるで迷宮のように入り組んでいるため、そのまま「迷宮」と呼称されるようになり、100年以上は経っている。

 現状、どの兵器を用いても迷宮は破壊できていない。まるで、中の物を外に出さないために存在しているようだった。


「旭くん! 今日ひとりかい!」

「むっ、その声は……シンさん!」


 俺の名前は菅原すがわらあきら。陸前高田にある喫茶「ナポレオンフィッシュ」の店主、菅原直樹の息子。父は現在母と結婚記念日だとかでデートに行っちまって、店は俺ひとりがいるばかり。弟はクラブだかなんだかいって野球道具を揃えて6時半には家を出た。


「ひとりっす!」

「ナポリタンつくれる?」

「いっすよ!」


 この人はシンさん。本名を風見かざみ深夜しんやという。俺や、俺の悪友は尊敬の念を込めて「シンさん」と呼んでいる。


 俺は読んでいた漫画雑誌を置いて、すぐにナポリタンに取り掛かった。ナポリタンは俺の得意料理! 昔から大好きだった。ナポリタン考えた人多分IQ500000000くらいありますよ。


 完成したナポリタンをカウンター席にいたシンさんに出す。シンさんは食いっぷりが凄まじい! 彼は街の漁師で、いつも重労働をしているが、どうにも金がないらしく、ひと皿200グラムのナポリタンが180円で食えるウチに目を付けて俺が中学生のころから通ってくれている。


「ぷはーっ! 食った食った! 俺もともと少食だから200も食えば充分なんだよなあ」

「さっすがシンさん! 良い喰いっぷりだぜ!」

「はは。……おっと、そうだ! 旭、迷宮とかのオカルト詳しかったよな?」

「オカルトすか? まあ、かじった程度の知識ならあるっす」

「じゃあこれなんか知らねぇ?」


 シンさんはそう言って、鉄のような材質の板を取り出した。クレジットカードと同じくらいの大きさだ。おかしいのは、その板に刻まれていた文字が、うようよと動いていたことだ。


「これ、文字のとこ溝になってんだよなあ」

「いや知らないです」


 その板を表裏と眺めて見る。

 摩訶不思議アイテムだ。こんなのSNSに載せたら大バズりしそう! 見たことがないくらいのいいねもらえっかなー。


 などと思いながら板をくるくると眺めていたら、突如として稲妻が走る。指を怪我してしまい、血がべったりとその板に付着した。


「アワアワアワ。すいません。すいませんこりゃ」

「いいって。てか怪我消毒しねーと」


 てんやわんやしていると、また板が稲妻を放つ。それがおさまった頃、恐る恐るそれを取ってみる。


「なんだったんだよ……」

「なんかどっかの爆弾かもしんねーな」

「超薄型っすね」


 そして、異変に気がついたのはシンさんだった。


「あれ、君の名前じゃないか?」

「え?」


 貸切風呂 菅原旭 2000年7月23日

 天之御中主神・第六段階


「てん、の……ごなか……しゅしん?」

「あめのみなかぬし……」

「読めんのエグ」

「第六段階──【天之御中主神あめのみなかぬし】……」


 ばちり、という音と共に、服がすべて破れて地面に落ちた。


「ヒャァア!?」

「なにやってんだ旭!?」


 胸が裂けて、ランプのような物が現れた。


「ヒェエエエ!?」

「ウワァア!?」


 全身が見る見るうちに黒く染まっていく。そして硬く、しなやかに。それは鎧のようだった。


「キャアッ!?」

「ウキィッ!」


 目が光ったらしかった。


「ホアワ……?」

「これはほんとうになんで……?」


 いきなりヒーローものの悪役みたいな見た目になってしまった。下級怪人みたいな、そんなシンプルなデザイン。


「これは本当になに……?」

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