第30話 一旦ね
殴る。蹴る。頭が潰れる。内臓がはじけ飛ぶ。骨が折れて、肉がちぎれる。
魔人はしばらくすると旭のスピードに慣れてきた。
肉体強化系の能力者が拳を突き出して来れば腕でいなして、蹴りをたたきつけ破裂させる。喧嘩は得意じゃない。風見組内でしかやったことがないから。突くような蹴りが来たら身をよじりその脚を掴んで股に蹴りを入れる。浮いた逆の脚をまた掴み、蹴りで押し、脚を引き、そして裂く。尻餅をついた魔人の顔面を蹴り潰し、死骸から溢れた血を目つぶしの為魔人共に投げつけ、視界が遮られたところで飛び掛かり溝落ちに腕を突き刺す。肋を1本拝借して後ろから迫って来ていた魔人に突き刺す。腕を蛇にさせた魔人はその蛇部分を引きちぎり、首を握り潰す。
獣みたいなヤバい戦い方だ。
しかし、なにか変だ。魔人の血を浴びた所為か? 身体に魔力が漲っているようだ。奪われた魔法が体内に巡って来る。俺の第六段階の能力は治癒だ。全身に激痛が走る。黒い鎧に緑色のひび割れのような分岐する模様が浮かび上がった。
やりたいことがやれる、と呟いたような気がした。
「じゃあ、ちょっとパワーあげるけどいいか?」
「ハッ、ハッハァ!? いまので全力だろうが……」
「アホぬかすな。訳あって魔法が使えなくてな。今までは、1%」
「1%……!?」
「以下だよ。1%以下。かわいそうに。劣等人種の1%以下の実力に殺されたお前たちの仲間はチンカスか? おい、これからお前達死ぬぞ。責めてみろ。死んだ仲間を責めてみろ。なにも言わないよ。配慮してやる。才能も実力も欠落した猿共め。1%だけで戦ってやる」
魔人たちは腰を抜かしてしまった。
「俺を殺せる猿はどこにいる?」
「魔王様……助けて、助けて魔王様……」
空に金色の大穴があいた。
「来たか」
大きな鎧が見える。なるほど確かに変身した旭によく似てる。
「魔王様っ!」
「ほへー! でっかいなあ! 菅原君のちんちんくらいでかいで、魔王さん」
「見たことないでしょ」
「風見組合わせて5億体達成!」
「一番討伐数少なかった旭の負け!」
「うるせぇ中卒!」
「アァ!? 卒業手前で高校バックレてんだからてめぇも中卒だろうが死なすぞボケカス!」
「そもそも行ってないのと行ったけど行けなくなったは違うんですけどね、松田ちゃんは赤ちゃんだからわかんなかったか」
「ナポリタン食ってる奴は頭ン中が真っ赤でいけねぇや。乗ってる救急車は黄色の癖にな」
「相乗りしたことあったっけ?」
「アァ!?」
「君らこんな時くらい仲良くせえや……」
そうやっていると、遠くの方から、なにかが飛んできた。そらは魔人の頭のようだった。
「ヒッ!」
「やば雨か?」
飛んできた方向を見る。
「あっちって刑務所あったよな……?」
「あ? まあ、盛岡方面な……」
「…………」
「……あっ、そういうこと?」
「お返しあげなきゃ」
「配信観てんのかな? 兄貴観てたらわかりやすいコメントしてー!」
●兄貴って風見!?
●風見そもそもなにしたんだっけ?
●同業「雨見朝日」殺し
●ああ
●兄貴コメントしてー!
雨見朝日といえば、高校生を男女あわせて20人をダンジョン内に連れ込んで動けなくさせてむりやり乱暴し殺害した事件の犯人だ。通り魔に刺されて死んだらしいけど、この風見って人が殺したのか。どうやら聞く限り風見組のカシラらしい。
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プレゼント気に入ったかい
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俺のことは思考するなって言ったのに割とみんな言うこと聞かないね。田中ちゃんとか特に
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はい。わかりやすいコメント
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「これすか?」
「あっ、この人のID、俺の配信でちょくちょく『これでうまいナポリタン食え』みたいに言ってくる人だ。シンさんだったんだ」
「なんでムショの中でスパチャしてんだ!! おとなしく収監されとけ!」
「兄貴ならムショでもスパチャ打ってそうだなあ」
「でも普通にだめだよね。兄貴だったとして」
「出所してきたらこんどこのお金で飲みいきましょ」
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成人おめでと
「ありがとうございます。出てくるまでにナポリタン居酒屋作っときます」
「あ? お前世界改変するんじゃねーの?」
「あ、そうだった」
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改変後の世界でね
●改変について説明しろやボケカス!
●俺達に被害ないらしいし
●がんばえー
空から威圧がふる。
「我が同志を滅ぼすは誰か」
「「「おれたちー」」」
その場にいた探索者が手を挙げた。
「そうか、死ね」
「ハハ。マジギレやん。お嬢さん! お嬢さんの第六段階使っちゃって!」
「え? あ、ああ。第六段階──【
魔王が繰り出していた拳は結界に遮られ、ここまで到達してこなかった。
「寒河江さんの能力は結界術かあ」
「いいなー、第六段階」
「よし! じゃあぼこすか」
「大丈夫?」
「おん!」
「やれ! 俺ら雑魚狩りするから」
「来てくれないの? ……俺、みんなで必殺キックしたかった」
「俺ら変身系じゃねーし強化系でもないから……」
「じゃあ仕方ないか……」
「ごめんな菅原君ンー」
「あんたはいいです」
「ちんちんが硬くなってまうやん」
旭は「うへー」と言いながら、構えたビキビキ、と筋肉が駆動しているようだった。
「そんじゃやってきまーす」
「おー」
「あいつ倒したらそのまんま改変なんで一旦みんなとはお別れっす。記憶保持できるか掛け合って見るけど、出来なかったらそん時はバイバイです」
「がんばー」
そうしていると、ふと、声を上げた。
「旭」
「んっ? なに、どうしました?」
「なれるよ」
「??? なににです?」
「おばけも、ヒーローに」
ややあって。
「そうなれるように、がんばります」
一瞬の稲妻の後、旭は消えていた。次の瞬間、魔王の顔面に大穴が開き、魔法陣が空一面に広がった。いままで見たことがないくらい大きな、そして緻密な魔法陣だった。
魔法陣が輝き出して、光の中に包まれた。
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