第28話 神

 そうして立てた計画を実行に移しているうちに、また日が暮れる。

 侵食ダンジョン内のモンスター討伐も並行して進めているウチに時折余所から探索者を連れてきて、王者の刃と風見組が揃ったことで大幅に強化されたモンスターを相手に取らせて、戦闘力の大幅な強化をさせ不条理に対する経験を積ませるなど、他にもいろいろな事を各所に飛んで、行っていた為、松田錠と旭はぐったりとしていた。


「お疲れ様だ」

「なんか腕がぷるぷるして動かないぜ?」

「寝とけ」

「みんなナポリタン食うかい?」

「寝とけっつってんだ」

「菅原君はほんまナポリタン好きやなあ。ナポリタンに嫉妬してまうわぁ。なぁ、お嬢さん」

「なんで俺を見るんだ……」


 浅丘林檎は魔人の様子を配信に映しながら「同接280万だぜ。全国に生きを恥さらせ」と煽っていた。悪魔のように性格がわるい……。


「いや、腹が減ったからナポリタンを作ろう。手足も震えて来たことだし」

「ナポにヤク入れてんのか?」

「入れてねぇわ。寒河江さん、トマトさんカモン!」


 そういえば、この3人だけになるっていうのは、再会直後の盛岡での一件以来だった。浅丘林檎はどこからともなく鍋を4つ出した旭に、久しぶりにツッコミを入れていた。

 なんとなく、旭もこういう事がしたかったのだと思う。とても嬉しそうにしていた。


「さて、と。我々3人組の頭脳担当トマトちゃん」

「なに」

「ダンジョンがある限りおそらくこの場を凌いでも魔人はいずれ何度でもここにやってくるだろうね。俺は頭が良いからわかるんだそういうの。さて、この件どうすればいい?」

「世界からダンジョンを消せばいいんじゃないの。僕は頭が良いからわかるんだそういうの」

「世界からダンジョンをなくすのってそう簡単じゃないらしい。前もなんかいろいろあって変になってた時同じ結論に至ったけど、結構強く根付いてるからダンジョン消すと世界も消えるんだって。いやだねぇ」


 ●闇チラ

 ●昭和元年にはもうあったからな、ダンジョン

 ●大正からあったぞ

 ●ダンジョンは奥深い 投稿者:ダンジョン地球

 ●ダンジョン地球?


「じゃあ世界作り替えれば良いじゃん。神様とマブなんでしょ?」

「…………それは……まぁ……マブではねぇけど、ねぇ! 神様!」

「神様?」


 赤が一面に広がったかと思うと、老人が現れた。


「──仲良くないぞ」

「紹介するけど、こいつが俺から魔法を奪った神様」

「これマジ? 神様にしてはフットワーク軽すぎるだろ……」


 ●神?

 ●前から思ってたけどやっぱこいつ神とコンタクトできるんだ

 ●神いるんだ

 ●第六段階は守護神の名前がつくからまあまあ神様はいるんだろうなって

 ●それにしたって登場が軽すぎる

 ●別視点の配信だと背景でさらっと神様出てきてる

 ●じゃあ魔人問題も神様になんとかしてもらえ!

 ●神が人々の争いに手を出して来るのもなんか嫌だ


「世界を作り替えることは可能なんですか?」

「出来なくはないが、出来るとしたらこの馬鹿だけだ」

「じゃあやればいいじゃん!」

「でもこいつ魔法返してくんねぇし」

「そもそもなんで魔法奪われたんだっけ? 僕なんかあんま憶えてねーや」

「魔法陣無しで魔法使えるようになったら神様に『やり過ぎだお前!』って言われちゃって。7年間の魔法禁止令を発令された」

「そうそう、それだ」


 聞いてみる。


「どうにかなんないすか?」

「どうにかできるが、功績が必要だ」

「功績って?」

「人類に手を貸して利益を得られるかどうか、そこら辺を見極めたいんだと」

「世界からダンジョンを消せば、それに付随して『魔法』も消える。そうした場合、この馬鹿の最大のアドバンテージを無駄にすることになる。それだけではない。この国やこの世界には神界に接続した人間は山ほどいるし山ほど増えた」

「神界に接続?」

「第六段階」

「ああ~!」


 それらを損なった場合、不利益の方が利益より大きいのだという。というか、利益はほとんどないに等しい。


「そしてダンジョンのない世界に作り替えたとしてもそこから生まれてくる生物までは消えない。この世界に生物が根付けば、ダンジョンのような建造物とは違い、改変されない。人間が消えないのと同じ事だ」


 それに、言ってしまえば、ダンジョンという「固定の生息地」がある分、ダンジョンのあるこの世界の方がまだ安全だ。モンスターだけが残った場合、モンスターは街に突然発生するかもしれない。


「民を脅かせるか? 菅原旭」

「……いじわるな言い方をするお方だ」


 旭はあまり乗り気じゃない。

 こういう事が起こるから。


「じゃあ、モンスターが限定的に発生する地帯を作れば良いじゃん。それこそ、ダンジョンをいくつか残したりさ」

「それだと魔人がやってくる」

「魔人に気取られないように、少数」

「気取られそうだな」

「いや、規模は関係なく、『ひとつだけ』ならば境界からは漏れない。此処とは別の世界には探知されない」

「じゃあめっちゃデッケーダンジョンひとつ作って後はおしまいでいいじゃん」

「となると、接続者も能力を保持したままにできる、か……浅丘林檎と言ったか。なかなか賢い?」

「あんたが馬鹿なだけじゃない?」

「クラッ! なんてことを言うんだ!」


 ●本当にそうか?

 ●褒められた途端煽ってるやつが賢いと思えない

 ●たぶんそいつアホだぞ

 ●こんなのが頭脳担当なこのトリオはおバカちんなのか?

 ●おバカちんトリオだからな

 ●おバカちんトリオだし内ひとりはオチンチンだし

 ●オチンチン×スケベガタイ男(女)×ばか

 ●そういえば魔人が「質の高い魔力を『色っぽい』とか、まあ『エッチだ』って思うようになってる」とか言ってたけど、すがちゃんってもしかして魔人なのかな?

 ●質の悪いエロゲみたいな設定

 ●質の悪いエロゲの頭の悪い魔人

 ●すがちゃんのこと今日からエロエロ魔人ってよぼ

 ●いじめか?


「ただ魔人に根付かれては困る。今はせめて戦い給え」

「ウッス!」

「して」

「ウッス?」

「大丈夫か?」

「……ウッス」

「ならばよし。頼むぞ。魔人キメたら魔法戻してやる」

「……ウッス!!」


 魔人との抗争は変わらず、しかしどうやら世界は変わるらしい。

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