第27話 うわでた
この日はわりかし暑かった。
じめじめしていて、風見組のコートが見るからに暑そうなのに、連中はなんでもないような顔をして煙草をふかしたりなんかしたりしちゃっていて、そういうところを見るに、異常者だとおもった。
2020年に「涼しい日」は存在しないようだった。
昨日の夜もじめじめしていたから、汗でべっとりしていた。
体拭きシートを持ってきてよかったな、と思った。
身体は女になっていた。
8時を過ぎたあたりで、コメント欄に「王者の刃到着したよ」という文言がチラホラ見えはじめて、改めて姿勢を正した。
砂利を踏む音、土を擦る音。そのすべてに威圧が篭っているのか、先頭に立っていた男が此方に近付いて来る度に胸が締め付けられるように痛かった。
「威圧するのはやめてくれないか。慣れてない人もいるんだ」
高倉圭一郎が言う。
「こないな程度の威圧で気圧される弱者になんで僕が配慮せないかんのや。なあ? 菅原君~。強者繁栄。君も僕と同意見やろ?」
●うわでた
●でたわね
●あっ! 喧嘩勃起サイコホモだ!
●うわ
●ひぃー!
●うわ、足立区民じゃん
●やっべぇ、篠原先輩じゃん…話したくねぇなぁ…
糸目の男は旭にそう言って寄っていった。
旭は鬱陶しそうに答えた。
「今は譲歩してください」
「なんや、つまらん。つまらんなあ、菅原道真が泣いてんで」
「どっちの?」
「平安貴族の方やがな」
「そっち俺と関係ないっすよ」
しばらくして、胸の苦しみがなくなった。威圧を解いた、ということらしい。糸目は心底つまらなそうに「菅原君もつまらなくなってしもた」と言っていた。
「それはそうと、謝礼がまだやなあ」
「謝礼? なんの……」
「なんの? なんのって、ちょっと前に君がトチ狂って是が非でも死のうとしてたん止めてたの俺達やないか~。先輩君と風見組の連中にもちゃんと『ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした』って謝らなあかんで~」
「…………」
卓也くんが亡くなった後のあの時に取り押さえていた中にいたらしい。そういえば大きな声で「今は死んだらあかん」と聴こえていたのを思い出した。
「えろう力持ちになったらしいやないか。菅原君。第六段階?」
「はい。第六段階『
「どないな能力なん?」
「硬い鎧を全身に纏う変身能力です」
「ええなあ、ええなあ。俺、昔から変身ヒーロー好きやねん。鉄神ガンライザーも観とったで」
「関西の人じゃないんですか?」
「うちの兄貴が特撮オタクやねん。よく兄貴に混ざって観させてもろてたわ~」
独特のペースで話を進める人だ。どことなく旭と雰囲気が似ている。
「せや! 風見組の連中も俺らもまだ菅原君以外は第六段階に至ってへんのやから、謝礼として俺達の底上げをしてもらうか! な! 第六段階は感染していく言うて、海外では連鎖して10人くらい第六段階になったらしいやないか。アメリカかフランスやったっけ? ままええわ! 風見組もそれでええか?」
「ううむ、お前に同調するみたいで嫌だけど、たしかに魅力的な話ではある……よし。どうせ俺達は体力使い切らん。やろう」
「マジですか?」
「え、旭ブッ殺していいんですか」
「やめてや松田君。菅原君は僕が潰すんや」
「無茶なことすんなよ……王者の刃の連中もそれでいいか?」
12名ほどいる王者の刃のパーティメンバー全員がやる気に満ちあふれていた。
「おふたりさんはどないする~?」
「僕は多分才能ないタイプ~」
「俺はどうだろう? どうだろう?」
旭に聞いてみる。
「どうだろう……おい魔人。どうだ」
「ヒイ! そこの女男は……高純度の魔力を持ってる。第六段階には至れる気質はある」
「おい僕は?」
「ない」
●かわいそう
●かわいそう
●草
●即答か
●かわいそう
「才能はそう都合よく誰にでもあるもんやないんや。ほな、やったろか! 菅原君によろしくお願いしまーすって言おか!」
ちょっと糸目がお見せできない行為をしたりしたのでカットするが、2時間の取っ組み合いの大喧嘩で王者の刃と風見組、そして俺は無事第六段階に到達した。
第六段階は連鎖する、といってもあっけなく連鎖しすぎだった。
浅丘林檎はすこしばかり拗ねていた。
「んーまっ! でもいいか! 要するに僕以外全員が国内トップの実力を持ってるってことだもんな! 17人の第六段階到達者! これつまり、相当良い状態じゃない?」
「ああ。魔人も敵ではないかもしれない。慢心はいけないが……」
魔人が叫ぶ。
「人間ごとき第六段階に到達したところで魔人軍には魔王様がいるもの! かないっこないわ!」
「なんやこいつ、ぽっと出の弱者の癖に生意気やないか」
「そいつは魔人だよ。アーカイブ観てないの?」
「僕、お前らがチヤホヤされてると腹立つねん」
なんだこいつ……。
「しかしほんとうに、何度も言うが本当に戦力が東北に偏ってるな」
「東北というか岩手にな」
「日本の首都は岩手だし良いんじゃない?」
少なくともここには……
王者の刃代表
風見組
田中裕次郎
高倉圭一郎
松田錠
菅原旭
……この5人が揃ってる。
「ダンジョンのある地域にはいつでも行けるようにしよか」
「風紀委員の転移術持ちかき集めて各地に第六段階増やしてった方がいいんじゃねぇの?」
「でも現時点で才能あるやつ岩手に集まってるから最悪岩手県内の探索者各地に分散させた方が早いな」
「集まってんの?」
「岩手は空気中の魔力が流れてきて溜まっていく土地なんだ。だから、地方とあなどることなかれ。才能はほとんど岩手に寄っていく」
旭が口を開く。
「とりあえず第六段階を増やしていく方針でいこう。まずは岩手県内の探索者の育成か。派遣なり何なりして、各地に送り込もう。あっちにも野生の天才くらいいるだろ」
「せやね。はよやろ。魔人がいつ責めて来るとも限らないし」
「ああ」
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