第25話 風見組のエンジン

「人間のうちで勝てないなら……人間でなくなればいい。『強くないなら』……『強くなればいい』っ! まったくその通りだ。……ああ、その通りだった」

「旭……?」

「もう大丈夫」


 胸のランプが光を増すごとに、キュイーンという音が鳴り響く。緑色の眼光が高く光るごとに旭の感情が脳に流れてきた。いまの旭は怒っている。魔人と、もっとはやく第六段階に至れなかった自分に。


「俺が居るっ……!」

「第六段階に至ったのか」

「ああっ」

「もう安心していいのか?」

「この場はね」


 ●日本唯一の覚醒者!

 ●うおおおお

 ●使える男は旭だけ

 ●松田あたりが「お前だけずるい」っつってキレそうだ

 ●魔王様と勘違いしてるらしいけどなんか不穏だ

 ●旭の魔人疑惑出てるから覆してほしい

 ●↑でも家系関係は父方も母方もバレてんじゃん

 ●先祖かもしんないだろぉ!?

 ●というか配信切られないんだな、これ

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 ●うわあ・・

 ●いきなりスパチャするなバカ!

 ●というかスパチャできたんだ…

 ●貢ぎ物?


「醜いおばけだって……魔王様の紛い物め……! その姿を『醜い』と言うなっ! ブッ殺すぞっ!!」

「やれることを言えよ。死なすぞ」

「ナメるな……さっきまで散々……ひざまずいていた癖に!」


 魔人は肉体を強化し、旭に拳をたたき付けた。しかし、旭はピクリとも揺るがなかった。


「壁……?」

「どうした? 猫パンチか?」

「ナメるなって言っただろ……! 【毒爆破】ッッ!」


 紫色の爆発が起こる。マフラーが揺らぎ、俺の頭を包み込む。

 そして鈍い音が響くと、魔人の悲鳴があたりに響き渡った。


 ●なんか強くなりすぎじゃない……?

 ●腕を引き、足を踏み付けて、腹を蹴り、背骨を折る

 ●解説兄貴ありがとナス!

 ●本当にキモいことしてる

 ●ナポリタン馬鹿がこうなるとは誰も思ってなかったろ

 ●こいつ数年間ずっとスライム狩りしてたんすよ!

 ●↑こんなに強い奴が?

 ●↑覚醒状態を見たらそう思うだろうなあ

 ●旧風見組時代から馬鹿見たいに強かったぞ

 ●こいつなんなんだ

 ●マジでなんでずっと2層で燻ってたんだ

 ●たしか多くもなく少なくもない金を稼ぐには2層がちょうど良かったからだったはず

 ●いまこれ聞くと「卓也くんもっとお金欲しかったろ」とか思っちゃうな

 ●↑卓也に金渡しても使うのはどうせ施設の人間だぞ

 ●それもそうか……

 ●それも込みで生活費として渡してたのかな

 ●でももっと稼ぎがあれば割と早い段階で卓也くん引き取れてそれなりに早い段階で幸せになれたよな?旭浅慮すぎない?

 ●↑自分でもそう思ってるから「醜いおばけ」なんだぞ

 ●マジで菅原家、浅慮なんだよな


「まぬけめ……足手まといを気にして自分が避けるのを忘れたなっ」

「必要がなけりゃ避けないさあいにく魔法が使えなくなってるんでね。お嬢さん、【天之御中主神】はいわゆるカッコばかりの鎧でね。だから、此処からは素の身体能力がウリになるんですよ。俺が魔法ばかりのまぬけだと?」

「なっにをぉ~っ!?」


 旭は右拳を握り固めて、左手で魔人の首を掴むと、8回顔面を殴りつけた。


「やめっ……」

「ヤだよ」


 左腕を振るって、魔人を叩きつけてから言う。


「お前さん顔だけ見りゃいい女ですから、あんまりいたぶるのは止しておくよ」

「ナメるな……この……紛い物っ!」

「ほら、帰んなよ。ここにあんたが支配できる土地なんてひとつの欠片もないのさ」

「う、うう……!」

「負けるのなんて初めてじゃないだろ、かもめさん」


 魔人は逃げ出した。


「逃げなよ。無様にさ。見下してた『か弱い異世界の人間』に『負け』たあんたに相応しい行動は、もっとあるけど、それができないってんならはやく逃げな。俺はいま怒ってんですよ。ほら、逃げないと。殺してしまいたくなるよ」

「殺せるかっ、たまたまうまく行ってるだけだ……人間風情が」

「犬ころが。その人間風情に負けたからこうして無様に転がってんでしょうが」


 空間に穴が開く。転移術だろう。


 這って逃げようとする魔人の背を踏んで旭は煙草を出して、口につける。


「そういえばあんた言ったはずだ。『君は人のために動ける偉い奴だ』って」

「黙れぇっ……離せっ……」

「俺なんてのはね、偉くとも何とも無いですよ。少なくとも皆よりは。みんなは、後先をちゃんと考えられる脳みそがあって、それでいて誰かのためにそれを捨てる勇気がある。手と手を取り合って助け合う優しさがあって、諦めない度胸と不屈の心がある。だからね、嫌なんだなあ。なにも知らない外から入ってきた輩に、俺の宝物を……うちの縄張しまァ荒らされるのはよ……」

「知らないよ……しらねーよ! お前らの事情なんか知ったこっちゃねーよ! 頑張って描いた絵は必ず評価されるってのか!? クソボケェーッ! ちんぽみてーなハナクソ脳みそに詰まってんじゃねーのか!? 生意気ぬかしてんじゃねーぞボケッ!」

「ずいぶん細かく罵倒するじゃないか、仲間がみんなそうなのか?」

「アァッ!?」

「この顔を覚えろよ」

「アァッ?」

「お前の大好きな魔王様だ」


 魔人は最後まで旭を憎むような顔をしていた。


 ──はるか上空に、穴が開いた。


「なんで」

「逃がすと言って逃がす狩人がいるかよ。お前さんは捕虜だよ」


 風見組の連中が起き上がる。


「するってぇと、お前、異世界の魔人と喧嘩張るって訳か」


 みんなさっきと雰囲気が違っている。


「そうさ。魔人を侮辱してみればいつかこいつの大将がこっちに手を出して来るかもしれねぇ。錠、今日のところはこのままこいつを拘束できる空間に拘束していて欲しい」

「しかたねぇ」


 松田錠は頷くと、魔人は正方形の中に捕われた。松田錠は結界術も心得ていた。


「つまりどういうこと? これから戦争?」

「馬鹿にされたんだ、俺達もこいつ同様キレてんだ。大将・田中裕次郎を筆頭に人類最強風見組、この縄張のため魔人を相手にとってやろうって話をしてんだよ」

「トマトくん。君の従兄弟、王者の刃のメンバーだろ」


 高倉圭一郎が煙草をくわえながら言うと、浅丘林檎は驚いたように言った。


「そうだけど、なんで知ってんの?」

「コラボ相手は探るのがマナーだぜ。裕次郎、とりあえず明日トマトさん連れて王者の刃のところに行って話つけてくれねぇかな。視聴者様方、あいつらの探索はどんな様子?」


 ●あとすこしで目標達成

 ●もう少し進もうかな、って感じの話してたよ


「じゃあ『風見組の連中が話があるらしいから明日8時前には地上に戻って来てくれ』ってコメント打ってきてくれねぇか」

「あいつら俺達のことやけに嫌ってるからな」

「こんな状況だ、さすがに無視はしねぇさ」


 ●正真正銘の風見組って感じ

 ●田舎のやくざって感じ

 ●俺達が見たかった糞みたいなムーヴしてるときの風見組だ!

 ●ここに風見いれば完璧だったね

 ●みんな風見の真似してるの見るに堪えないから本物はやくムショから出てきて欲しいんだよな

 ●風見深夜帰ってこーい!

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