第21話 どうしてだろうね
孤独がつらいんだ。
誰もいない暗闇の中で、俺はいつも一人きり。
誰かが隣に来る訳でも、誰の隣に行く訳でもない。
ただただいつも一人きりなんだ。笑ってくれるかな。
もし貴方の隣に俺が行けるのだとしたら、それはいつになるのかな。
そもそも、貴方はとても優しいから、似合わないな。
俺は金に目がない醜いお化けで、父を失ってしまった母を守り寄り添うことも、ましてや弟を守ることも出来なかった愚かなお化けだ。
わかるだろ? マヌケなんだきっと。お化けなんだずっと。
貴方の隣に立ってみたいんだけどさ、いまの俺じゃ無理なんだ。
なぁ俺さ、いろいろな国に行ったよ。
どこもかしこも眠化ダンジョンで親を失った子供とか、子供を失った老夫婦とか、そういう人たちばかりだったんだ。
だから、切なくなって、眠化ダンジョンを鎮める旅をしたよ。
いろいろな国に行って、いろいろな人たちと出会ったんだ。
みんな必死に生きていて、みんな幸せをつかもうとしてたよ。
戦争中の国にも行ったよ。俺に良くしてくれた家族がいたんだけどね、俺の目の前で兵士に撃たれて死んでしまったよ。
魔法魔術が使えなくてね、弾丸を防ぐ術を持たなかったんだ。
詠唱も魔法陣も用意している時間が惜しいなって思ってね。
無詠唱・夢陣の魔法魔術を開発したら神様に怒られたよ。
なにもうまくいかないんだ。
なにをやっても失敗ばかりで、成功体験のひとつもない。
何かを成し得たと思っても、すぐに大きな壁が現れるんだ。
どうしてだろうね。
みんなを助けたいのに、頑張れば頑張るほど道が狭まるんだ。
何度も何度も繰返し繰返し、営みを壊しつづける恐怖がね、全身を支配してやりたいことを何も出来ないんだ。
俺はやっぱり馬鹿だったんだなぁ。
父も母も、弟も。こんなに馬鹿な奴が家族なんじゃ天国でどんな顔をしているかわかったものじゃないなぁ。ままならないなぁ。
この涙は偽物の顔だ。いつもの……馬鹿見たいに笑ってばかりいて、何も考えていない化け物の顔が、いまの、ほんとうの顔なんだ。
お化けが泣くわけないんだから。
◆
「やつれた?」
聞いてみると、菅原旭は困ったように笑ってから「そう見えるかな」と答えた。そうとしか見えねェよ。
「ちゃんと飯食ってるか?」
「食べてるよ。結構転々としてるけど、観光地に行ったら名物料理を食べるようにしてるんだ。体重増えた方なんだぜ」
そうは見えねェよ。
……とか言っても、たぶんコイツは認めないんだろうな。
生っ粋の性格なんだろうか。眠化ダンジョンにいた頃の配信では「昔は荒っぽかった」「荒い方が素」みたいなコメントをちょくちょく見受けられたが。
もしかしてこいつは繊細ヤンキーなのだろうか。
「なあ、旭」
「なーに?」
「辛いこととかあったら、俺とか林檎とか、相談乗るからな」
俺がそう言うと、菅原旭は少し笑って言う。
「大丈夫だよ。俺、ひとりでも頑張れるようになったから」
菅原旭は完成したナポリタンを運び出す。腕には刺青がある。
人名の様だった。
2019.10.31. Rachel Fox. 9 years old
2019.11.26. Tjeerd van Zweden. 5 years old
2020. 02.21. Heini Aamu Hannuksela. 10 years old
2020.08.10. Javier León Giménez Blanco. 17 years old
「なんだそれ……」
「ああこれ。これは」
「そういうの、やめろよ……」
「何故」
「何故って……だってそれ」
「説教なら止してくれ。君は俺の兄じゃない。姉でもない。俺に兄弟はいない。家族もいない。じゃあ、君はなんなんだ」
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