第19話 動物園

 それから二日後。


 宮城県気仙沼市。

 最新型のバッジの付け方がわからないと吐かす菅原旭のコートにバッジをつける。


「おー! すげぇ! ありがと! 寒河江さん」

「へっ、お前まだ一人でバッジもつけれないのかい」


 田中裕次郎というらしい男が嘲笑うように言った。


「うるせェ! 最近まで一人で電車も乗れなかったボケが!」

「あァ!? 切符が買えなかっただけだわ! 電車にゃ乗れらァ!」

「切符が買えねーとか幼稚園児以下だぞカス!」

「喧嘩すんなってみっともねェ!」


 菅原旭と田中裕次郎の首根っこを掴むのは高倉圭一郎というらしい。松田錠は煙草をふかしていた。

 俺は、隣に立つ浅丘林檎と一度顔を見合せる。

 ひと言で現すと、「動物園」のようなところだった。

 喧嘩する猿と犬。それを諌める牛。煙草ふかす猫。

 動物園は動物園でも小規模なタイプなやつだ。

 菅原旭はギャイギャイと田中裕次郎に腕を伸ばしている。


「ほら! 配信始まるからおとなしくしろ! 錠も! こっちこい!」

「仕方ないねぇ」


 バッジが起動する。


「えー、もしもし! 聞こえてますかー」


 高倉圭一郎が俺のバッジに手を振る。


「これから侵食ダンジョンの配信をはじめ──」


 田中裕次郎が菅原旭の腹を蹴る。


「コラッ! 裕次郎!」

「んにゃろ」


 菅原旭はやり返すように田中裕次郎の顔面を殴り下ろした。


「旭も! もー! もォォー!!」


 ●初見です

 ●風見組の配信だ

 ●!?

 ●初っ端から暴力沙汰になってんの懐かしすぎる

 ●何年たったと思ってんだこいつら成長無しか?

 ●こいつらが成長出来る訳ないんだよなぁ

 ●貸切風呂おるやん!

 ●貸切風呂兄貴生きてて草

 ●でも普通に生存は世界新聞で確認できてたけどな。まさかまたダンジョンに潜るとかこの人頭おかしい。


「おっ! 俺の視聴者ちゃん達じゃん! 元気してた~!?」

「見世物になっただけなのに有名人気取ってんなって」

「ワリ。ウキウキ以外の語彙ないんすか?」

「耳が猿だからわかんなかったか?」

「裕次郎の物真似します。ウキキッ! ウキウキ! きゃはは」

「張っ倒すぞテメェ!」

「やれもしねェ事を言うなよ! 俺ァお前なんかに張っ倒されるようなタマじゃねーよ! ばーか!」

「覚悟しろこの野郎!」

「煙草がまずくならァ……」


 ●風呂兄貴イメチェンしてて草

 ●大丈夫かこいつら……

 ●こいつらの絡み見てるとなんか小学生のの頃思い出すよな

 ●二十歳~三十歳の面子を見て小学生の頃を思い出せるのめちゃくちゃすごいんじゃないか?

 ●精神年齢はみんな10歳だからね、しかたないね


 視聴者のコメントが流れて来ると、松田錠が小さく笑う。


「俺もかよ」

「お前が一番ガキだからね」

「チッチッチ、わかってないなァ、旭」

「きも」

「くたばれッ!」


 松田錠が菅原旭の顔面に蹴りを叩き込んだ。

 菅原旭はそれを回避しながら俺の方へやってくる。


「寒河江さんは映らなくて大丈夫?」

「俺は良いよ」

「俺が移すわ! 視点切り替えて!」


 ●寒河江さんだ

 ●寒河江と貸切風呂の顔が並んでると思い出しちゃうゾ

 ●トマトは!?


「トマトちゃんは俺達から距離取っちまったな。おーい! トマトちゃん! こっち!」

「喧嘩はもう終わったの?」

「俺もガキじゃねェからね。トマトちゃんちっちゃいね!」


 菅原旭が浅丘林檎の頭をぽんぽんと撫でた。


「いやマジでお前がデカすぎるんだって。なにしたらそうなんの」

「さぁ? 普通に生きてみた」


 ●普通に生きてなさそう

 ●世界各地回ってダンジョン攻略だからな

 ●明らかにそこで何らかの進化遂げてるよな

 ●風呂兄貴が風見組の時の感じになってて複雑すぎ

 ●今もまだ治癒の神に嫌われてるのかな?


「治癒の神? まだ! 普通に嫌われてるよ! だから治癒の魔法嫌いだわ」

「まだ嫌われてんだ」

「そうそう! お前らにも報告しなきゃ! おいバ風見組!」

「お前もそのひとりだバカタレ。なんだ」

「俺魔法使えなくなったから前衛になるからよろしく」

「マジか。おけけ」


 軽くねェ?


「軽くない?」


 浅丘林檎がそういうと笑う。


「別にかんけーねーもん。俺が近接戦闘もできるのなんてミミックの時に知ってんだろ?」

「距離近くない?」

「君の声が小さいんだもの」


 ダンジョン内は良く爆音が鳴る。

 それにより聴力が低下することがある。

 治癒さえできれば良いのだが、治癒の神に嫌われているから。

 やってないのか……治癒の神に嫌われているから……。


「つーかいつまで此処にいんだよ。早く行こうぜ」

「だな。足元気をつけてなー」

「ダンジョンに侵食されてるからいきなりモンスター湧いて来るとかあるらしいから気をつけてね」

「お前が一番気をつけろ」

「俺にはナポリタンがあるから」

「ナポリタンにすべてを託すのをやめろ!」


 まだナポリタン好きなんだ……。


 ●まだナポリタン好きなんだ……

 ●ナポリタン好きらしくて安心した

 ●今回も作るのか……!? ナポリタン!

 ●そういえばなんかペットボトル持ってきてて笑う

 ●作る気ありすぎる


 そうしていると、松田錠が足を止める。


「サービスショットで俺達のミエルプレートを見せてやったらどうだろう」

「いいね、イキろイキろ」


 田中裕次郎 1996年7月23日

 身体強化・第三段階 身体硬化・第三段階 水流・第三段階 土壁・第三段階 炎集・第三段階 衝撃殴打・第三段階


 ●全部第三段階じゃん

 ●つよそう

 ●風見組はこれが基本


 松田錠 1997年9月5日

 身体強化・第四段階 身体硬化・第三段階 火炎・第三段階 土壁・第三段階 炎弾・第四段階


 ●第四段階2つも!?

 ●めちゃくちゃ凄くて乾いた恵美出る

 ●恵美さんカラカラで草

 ●笑うしかない


 高倉圭一郎 1990年6月3日

 身体強化・第四段階 身体硬化・第四段階 影触手・第三段階 土壁・第三段階


 ●こいつも第四段階フタチマル…

 ●なんだこのエリート集団

 ●影触手 ←えっちすぎ

 ●全員土壁持ってるの好き


 菅原旭 2000年7月23日

 身体強化・第四段階 身体硬化・第四段階 稲妻・第四段階 土壁・第四段階 炎集・第四段階 魔力見極め・第四段階 斬撃・第四段階 衝撃殴打・第四段階 旋風蹴り・第四段階 危機感知・第四段階 夜目・第四段階 呪力感知・第四段階 呪術解除・第四段階 呪術禁止領域・第四段階 呪術反射・第四段階


 ●!?

 ●!?

 ●!?

 ●!?

 ●!?

 ●!?

 ●!?

 ●!?

 ●!?

 ●えぇ…

 ●キモっ

 ●……

 ●父が二度見してた

 ●こいつだけやばくて好き

 ●風呂兄貴のスキルの後半かなり悲しい

 ●本当に恨んでるんだなあ

 ●!?

 ●!?

 ●!?

 ●全部第四段階はきも過ぎる

 ●どうやったらこうなるんだ

 ●二年間気が狂うほどダンジョンに潜っただけだが

 ●二年間気が狂うほどダンジョン潜るとかヒトは気が狂うんだよ知ってた?

 ●風呂兄貴はもう気狂いみたいなもんやし

 ●ここまでやっても第五段階ないの「人間の限界」みたいで悲しいな



「旭やば」

「圭一郎はやっぱり少数精鋭みたいな感じなんだ」

「ぽんぽん手を出す奴馬鹿」

「あァ?」

「ケンカ売った訳じゃないよーん」

「お前はお前ですげェんだから落ち着けって、旭ァ」

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