第15話 脳みそがナポリタンになったんだこいつ

 ゴーレムの核石は七層に行ったら簡単にゲット出来た。

 寒河江さんの【シードレス】で簡単に死んだ。


「寒河江さんって強いんですね」

「そうだろそうだろ。俺この中で一番ランク高いもん」

「すごい」


 ●嫌味か?

 ●貸切風呂さんはそんな性格悪くない

 ●うわ、風呂の囲いだ…

 ●風呂の囲いとか一番無益だろ

 ●風呂自体は有益だけど囲いは無益

 ●モグッターの風呂エミュ中学生痛すぎる

 ●才能も実力も足りてない貸切風呂はただの社会不適合者なんだよな

 ●貸切風呂風にいえば低知能社会不適合者

 ●俺達も風呂の囲いだという事を忘れるな


「後は百層のボス倒すだけですね」

「そうだな」

「感慨深いね。思い出させるは僕の活躍の数々……」

「活躍……。活躍……まあ、そうですね」

「思ったこと正直に言おうや」

「あんましてないですよ。活躍」

「なんでそんな事を言うの?」

「貴方が言えって……」


 ●トマト兄貴に振り回される貸切風呂おもろい

 ●年上に囲まれた風呂、犬猫の雰囲気になるのいい

 ●トマトが2歳のころ貸切風呂0歳なのこわ

 ●寒河江が0歳の頃貸切風呂-5歳わぞ

 ●意味がわからなすぎるだろ


 まぁともかく、あとは百層のボスを倒すのみ。

 百層ボスはフェンリル。目や鼻から炎を垂れ流しにしている。脚や首には大きな傷痕があり、そこだけ毛が生えていない。

 とても狂暴で、六階建てのビルほどある。二足で立てばおそらくもっとある。

 とても人間でどうにかなる相手ではないように見えるが……まぁ、やるしかない。


「気合いと根性」 


 剣を握りしめ、踏み込む。フェンリルの大振りがかかると、【身体硬化】で身を固めていたにも関わらず、肋骨がミシミシと音を立てて軋み、激痛を走らせた。


「グ、ウ!」


 壁に当たる前にくるりと身を翻して、着地する。

 壁を踏み締め跳躍して、前右脚に剣を突き刺した。

 聞いている様子はない。


「フーム」


 吹き飛ばされながら、【炎集】を発動してフェンリルから垂れ落ちていく炎を集め、球形にして腹に投げつけた。


「効いてる様子がみうけられねェな。どうなってんだ」

「魔法魔術の天才なんじゃないの」

「ふむ」


 やはり人様に向けた教科書通りのやり方はまったくあてにならん。ならばここからは俺のやり方を。

 みんなが嫌いな俺だけのやり方をやらせてもらおう。

 そうと決まれば立ち止まって、一度深呼吸をする。

 心身を落ち着かせるんだ。凪のように、朝霧の様に。静かに。


「グオオオオオオオ!」


【樹木壁】で木々の壁が形成される。

 そのてっぺんを掴み、上り、そこから更に【土壁】を発動させ、足場を増やす。

【シードレス】で数多の木々のうねりがフェンリルの脚と首に絡み付き、そしてそこにトマトが下から突き抜けるように殴りあげる。

 顔面が上がったところで、即座に描いた魔法陣を発動させ、【形成】の魔法で【土壁】を剣の形に形成し直す。

 そしてそれを、フェンリルの頭部に突き刺す。


 ●あっ、やっと連携プレイ……!

 ●なんで一日ずっと一緒にいて百層ボスが初めての連携プレイやねん

 ●トマトのパンチ威力上がってる~!


 フェンリルは怒り狂い大暴れ。

 フェンリルの腹の真下にいたトマトを【土壁】と【樹木壁】で護る。トマトはそれを殴り抜く。壁の破片がフェンリルの腹部に突き刺さった。


「うひょ」


 ●うひょ

 ●うひょ

 ●うひょ

 ●初めて嬉しそうな声してる

 ●自分と同じ思考回路してる奴は嬉しいだろうね

 ●風呂兄貴がトマト兄貴のイカレを認識しはじめたな

 ●トマト兄貴は自分の方のチャンネルで時々風呂みたいな言動になることがありその度に病院を薦められていた懐かしい事実があるね

 ●貸切風呂をはじめて見たとき「トマトのイカレをいつもやってる病気の人がいる!」って思ったもん


「おもしれェ男」


 フェンリルの前脚がトマトを襲う。

 そこで【稲妻】を放ち、その前脚を焦がした。


「旭!」

「雷は通じる」

「水は集めた」

「ありがてェ」


 寒河江の持つ【水集】というスキルにより、周囲にある水が編み目状になり浮遊している。


「一片は頭部。残りは心臓部」

「了解」


 稲妻を両手の平に溜めていく。


 いつもはすぐに放出させていたから第一段階というのも相俟ってとても弱小の稲妻しか放てなかった。

 しかし、こうして溜めてみる。

 まるでミルフィーユの様に薄く広げ重ねるように、何度も何度も圧縮と生成を繰り返す。何度も何度も何度も何度も。重ねるように。圧縮。生成。何度も。圧縮。生成。重ねるように。何度も。重ねるように。圧縮。生成。圧縮。生成。何度も何度も。重ねるように。重ねるように。何度も。圧縮。圧縮。何度も。生成。そして出来上がったのは青いいかずち



〝【稲妻】が第二段階あがった〟



 という認識が芽生えた。

 そして。


「準備完了。いつでもどうぞ」


 放つ。



 ──故に。



 勝利。


 ●はえーって

 ●早すぎる

 ●フェンリル討伐すら五分以内なのか

 ●フェンリルの必殺火炎ブレスが来る前に討伐するのやば

 ●でも最初は割と普通の戦い方だったな

 ●探索者やったことないけどフェンリルってどうやって倒すの

 ●モンスターの素材で作った紐で拘束すると討伐って認識される

 ●殺さなくても良いけど殺した方がいいかわいそうなモンスターだね


 魔法陣が光り輝く。


「さて」


 拳を握りしめると、ボキボキと指の関節が音を立てた。


「魔法の改造はおおむねマジックアイテムの改造と同じなので説明はしません」


 ●えー

 ●おしえて!

 ●教えろ

 ●教えろカス

 ●風呂カスさあ


「じゃあ今何をしたのか見極められたら教えてあげます」


 ●よしきた


 ゴーレムの核石を改造する。


「はい」


 ●は?

 ●????????????????????

 ●何を…?

 ●なにかしたか?


「やっぱりわからないじゃないか。マジックアイテムの改造と同じ事を行ったんですよ」


 ●あの一瞬で?

 ●腕動かしてなかったやん!!!!!


「腕なんか使わなくても改造くらいできます」


 ●何を言ってんの

 ●頭おかしくなったのかな

 ●脳みそがナポリタンになったんだこいつ!!!!!!


「みんなに教えたのは危険性の少ない安全なやり方です。俺が今やったのは現時点で俺にしか出来ないやり方です」


 ●見極めさす気がゼロじゃねぇかバカタレ……!

 ●性格悪すぎ

 ●才能ある性悪が一番嫌い

 ●なんなんこいつ

 ●こいつめちゃくちゃ苦労してて健気に頑張ってるからちょっと好きになってたのにここ最近ずっとカス……!

 ●緊急時に出る性格が本当にカス

 ●緊急時が一番本当の人間性が明らかになるけど、こいつ本当の人間性めっちゃカス


「…………というより、悪用される危険性があるので教えません。スローで見ても多分わからないし、本当に教えません」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る