第14話 ナポリタン食って待っててください

 ナポリタンを食べて、少し眠った。

 安全地帯を確保するために【土壁】を少し使ってしまったけど。

 でも戦闘に支障を来すような消費はしていない。


 階層ボスの部屋に入る。

 すると、敵対の意思を見抜かれたのか、クイーンビーが「キー」というような威嚇の叫び声を発した。


 寒河江さんとトマトさんが働き蜂に斬りかかっていく。

 深呼吸をして……剣を構える。


 踏み込み、針を向けてきたクイーンビーの腹部に剣を刺し、毒針を無理矢理引きちぎる。腹部の剣をそのままぐりっと回して、傷口に腕を突き刺す。


「キィィィィィィィィィィィィィィ!!」


 ●うるせえ!

 ●虫系のモンスターが「キー」って鳴くの意味わからん

 ●うるさい

 ●うるさすぎ


 痛みに絶叫するクイーンビー。

 クイーンビーは毒の炎球を撃ってくる。


「やば! なんかデカ炎球で働き蜂死んだ!」

「見境ないな……!」

「二人を狙ったんだなァ……テメェが死んだ後戦力を削られている現状はやべェからや……トマト! 羽を落としゃ機動力を奪えるから、羽を落としてからドタマ狙え!」

「わっ、ちょっ、素の口調こわ!」


 ●わかる

 ●わかる。そいつ素の口調こわいよね

 ●陰キャだけど多少ヤンキーみたいな男だからね

 ●風見組のヤンキー担当

 ●↑全員じゃねぇか!!!!!!!!!!!!


 クイーンビーに振りほどかれ、空中で孤立している頃、大顎が向かってくる。

 伸身を翻し、頭楯に剣を突き刺した。そこからその剣を足場にして頭の上に登ると、単眼に拳を何度もたたき付ける。


「養蜂杖寄越せや……!」


 はやく出ないといけない。

 はやく出て、はやく出て、卓也とナポリタン食うんだ。

 俺はナポリタンを一緒に食うためならなんでもする。


 クイーンビーは前脚で俺を突き放そうとする。

 その前脚に絡み付き、グンと身体を回転させることで、その前脚を引きちぎる。


「こん脚邪魔やなァ! そっちで持っとる杖寄越せやダボカス!」


 ●これこれ

 ●あっ、これ風見組で見た奴だ!

 ●やっぱりこっちが素なのか

 ●貸切風呂ってこんなヤンキーみたいな戦い方する人なの!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 ●いまモグッターに上がってる貸切風呂の「不思議ちゃん」イメージ、誤りであることが判明

 ●こわすぎるだろ

 ●生まれも育ちも岩手なのに変な鈍りあるの怖い

 ●菅原直樹関西の人だからちょっと移ってるのかな


「キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」


 働き蜂が一塊になって、突進してきた。

 突き飛ばされて、地面を転がる。


「ンニャロ、やったな」

「大丈夫か旭!」

「テメェの敵に集中しろやボケ!」

「あっ、わっ、ごめん!」


 ●寒河江からの呼び名がとうとう旭になりましたね

 ●旭くん戦うときだけ口調荒すぎる

 ●昔はずっとこれだったんだよ~

 ●懐かしくて泣きそう

 ●なんでキャラ変したんだこいつ

 ●前の配信では「弟が誇れる兄になる」とか言ってた

 ●前々からたくやくんの事は話してたんだ

 ●アキラに弟がいることは古参はみんな知ってる


 起き上がって、【土壁】を使い、足場を作り、跳躍して複眼を殴りつける。【身体硬化】で硬くなった拳で殴りゃ潰れるだろ、という思惑で。


「右眼やわいなァ!」


 右眼を手で掘り、脳みそに到達するとそこで【稲妻】を発動。

「ばちち!!」と光がほとばしると、クイーンビーが溶けはじめた。


「ニャハハハ! 死んだァ!」

「は!? もう!?」

「最低でも五分かかるのに」

「養蜂杖ゲット!! 養蜂杖!! 養蜂杖!!」


 ●よかったね

 ●よかったね~

 ●うれしそう

 ●【悲報】クイーンビーさん3分で倒されてしまう

 ●貸切風呂兄貴そういえば戦闘に魔法使ってなくて草

 ●スキル使ってた

 ●魔法使ってないことを笑ったのにスキル使ってたって何。頭悪いなら生まれなきゃよかったのに

 ●↑生まれなきゃよかったのに、は風呂兄貴が鬱になるからやめろ

 ●風呂はもうたぶん鬱では……

 ●あんな過去持っといて鬱にならないのは強すぎるからね

 ●↑高校時代の先輩兄貴のおかげでギリギリ鬱にはなってない感じがある

 ●養蜂杖ゲットできてよかったね~

 ●おい風呂!クイーンビーの養蜂杖を手に入れると蜂が一匹仲間になるらしいよ!クイーンビーの生まれ変わり説があるぞ!


「これマジ?」


 ●マジ


「やば。俺虫苦手です」


 ●草

 ●草

 ●虫苦手な奴の戦い方じゃねぇって!

 ●蜂の眼球をえぐって脳みそを掘った男「俺虫苦手です」


「二人とも、どうやら蜂が仲間になるらしいです」

「知ってるけど……」

「でも改造するんですよね。その場合どうなるんだろう」

「改造はどこでやるの?」

「ここです」

「やるの!? いま!? ここで!?」


 主を失った働き蜂が統率力を失ってブンブンブンブン飛び回っている。


「やりますよ。ナポリタン食って待っててください」


 さてやるか。

 マジックアイテムの改造はみんな難しいと感じているらしい。


「いきなりですが、マジックアイテムの改造方法をみんなに教えます」


 ●マジ!?

 ●お前のことだから教えてくれないのかと・・


「簡単な言葉選びが出来るかどうかはわかりませんが、なるべく努めるのでよろしくお願いします」


 ●チャンネル登録した

 ●お前これからずっとこういうことしてろよ

 ●お前マジックアイテムの改造とか教材だぞ

 ●いつか授業でこいつの声聞くガキが現れたりしそう

 ●うわ可哀相

 ●↑草


「まず、マジックアイテムは表面に大抵ムール回路という物があります。この養蜂杖の場合は杖の装飾にありました。このムール回路は光を当てると赤く反応するので、その中で鋭角三角形のような模様があるので、そこに【抑制】の魔法をかけます。ちなまにおさらいですが【抑制】の魔法の詠唱は『反すべきは凹 頷くは凸 夜とは紺 紺とは九尾 先鋭は締結 血統は波紋 一対の破砕機は初夜の乙女が如く』です。メモしておいてください」


 ●ちゃんと憶えてるんだ…

 ●まぁちゃんと憶えてないと無詠唱なんて真似できんしな

 ●俺らに教えるためにわざわざ詠唱してくれたの…?

 ●みんな忘れてるかと思うけど風呂兄貴はいい子だぞ

 ●風見組のいい子担当

 ●↑みんなじゃん

 ●風見組はみんな弱者に優しいヤンキーみたいな奴しかいなかった


「すると、連なった魔法陣が現れます。右上が『魔法機能』、左上が『対象権限』、右下が『対象指定』、左下が『魔力容量』、真ん中が『操作系統』です。これはそれぞれ皆さんが知っている……というか、使いたい魔法に書き換えてください。ちゃんと意にそった魔法がいいです。ちなみに、こういう魔法陣の書き換え方というのは、魔力操作を行ってください。指に魔力を集めて書き換えるんです」


 ●せんせい!魔力のタイプが自分の生命エネルギーのタイプに添った物じゃなかったらどうすればいいですか


「その場合は一度魔法陣を完全に消した方が安全です。ただ魔法陣を消した場合は二分以内に魔法陣を書きましょう」


 それぞれ二つずつ「魔力操作での書き換え」と「一度魔法陣を消してからの書き換え」をやってみせる。


 ●書き換えに遠慮がなさすぎる

 ●本当に凄い腕前で感服してしまう

 ●風呂兄貴って口だけじゃなかったんだ…

 ●無詠唱の時点で口だけではねーだろ


「これでマジックアイテムの改造は完了になります。簡単に思えますが、案外失敗しますから、慣れない人は安価のマジックアイテムを買うなりなんなりして練習をすることをおすすめします。最低でも『魔法陣を消してからの書き換え』を出来るようになってください」


 ●はーいママ

 ●ちゃんと気をつけないと抱心回路こわれちゃうからな

 ●マジックアイテムの改造で毎年何人もの学生が散っていく

 ●そういう仕事すればいいのに


「教師を考えてます」


 ●新潟の魔法偏差値カスだから新潟に来てくれ……!

 ●広島もなかなかうんちだゾ~

 ●北海道もだよ

 ●岡山もなんだよなあ


「みんなも頑張ってください」


 ●わかった!

 ●わりました!

 ●わかった!

 ●うん

 ●ありがと

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