第13話 いわばコミュ障ナポリタンだな

 探し出してから四時間。

 とうとう階層ボスの部屋を発見した。

 トマトさんは息を切らせていた。

 寒河江さんも少し疲れを見せている。

 スペースは見つけられなかった。

 どうやらスペースが存在していない階層だったらしい。

 前に見た攻略配信では確か五層には二箇所あったが……やっぱり眠化でダンジョンの構造が変化してる。


「なるべく体力回復しておきましょうか」

「ありがとう……ひー……何でお前は疲れてねぇんだよ!」

「疲れていないので、疲れてません」


 ●疲れてないなら疲れてる訳がないもんね

 ●??????????????????

 ●もはや馬鹿の言葉だろ

 ●なるべく無駄な体力消費をしない様に動いてたからな

 ●トマトと寒河江はなんか無駄な動きが多かった


 階層ボスのクイーンビーと戦う前に、休むことになった。


「ちょっと水を汲んできます」

「俺B型だぞ」

「俺もです」

「血液型?」

「魔力と生命エネルギーには『タイプ』があるんですよ。『A型』『B型』『C型』の三タイプ。生命エネルギーがC型の奴はB型魔力しか吸収できないし、B型生命エネルギーの奴はA型魔力しか受け付けない。A型生命エネルギーの奴はC型魔力だけ。おわかり?」

「別タイプの魔力摂るとどうなるの」

「死にます」

「オイ!! 僕の生命エネルギーは何型だ!?」

「A型です」

「オイ!! いまから君が汲む水を飲んだら僕死ぬぞ!!」

「なのでその水は貴方のです」

「そうなの?」

「はい。いまからナポリタン作るので水汲むんです。わかりませんか?」

「うるせぇ! 死なすぞ!」


 なんかトマトさんはずっとこの調子なので、なんか型を崩してるのだと思う。

 たぶん夜なのでめちゃくちゃ眠いのだと思う。俺もたぶん眠いんだと思う。

 あんまり言いたくないけどたかが眠気ごときで機嫌が左右される人は探索者向いていないと思う。

 でもまあ言ったら「性格悪い」とか言われるんだろうな。

 視聴者に嫌われたらなんかいろいろいけない気がする。

 トマトさんに嫌われるのは別に良いんだよな。

 でも、寒河江さんに嫌われたくねェ!

 いやもしかしたらもう嫌われてるのかもしんないけど。

 いやもう、もしかしたらとかではなく、コメント欄とかを見ても俺の言動はおかしいらしく、なんなら割と普通寄りの感性を持っている寒河江さんからは、もう完全に嫌われているだろうけれど。

 嫌われていることを自覚したくない。嫌うならせめて陰で嫌っててほしい。俺は陰口OKの人間だから。全然陰口とかなら言ってもらっても構わないから。

 俺のこと嫌いでいても良いから頼むから態度に出さないでほしい。俺も頑張って馴染めるように頑張るから、表に出さないで欲しい。

 俺もあんまり表に出ないようにしよう。


「殺さないでください」


 ●殺さないでください

 ●殺さないでください

 ●殺さないでください

 ●殺さないでください

 ●殺さないでください

 ●現時点で推定人類最強に命乞いをさせた男、トマト

 ●トマトはチンポでかいからな

 ●なんかちょっと腹立つんだよなこいつ

 ●こいつ基本的に人のこと馬鹿にしてるからな

 ●旭が考える面白い返しなんやろ

 ●笑いのセンスが終わっとる

 ●風見組にいた男だからな

 ●風見組のおもしろく無さすぎるやり取りを見たことのある人間はこの男のこの面白くなさすぎるセンスが懐かしいと思えるけど初見は腹立つだろ

 ●センス死にすぎグループのセンス死にすぎ担当だからな

 ●↑全員じゃん

 ●センス死にすぎグループ全員天才肌だからな、言っとくけど

 ●魔法の天才、製図の天才、転移の天才、オカルトマニア。

 ●圭一郎と旭の鳥と猫みたいな絡み好きだからまた見たい

 ●風見組集まってくれ~~~!!!!!!!!!!


 コメント欄を見てみる限り、また間違えてしまったらしい。

 俺としてみれば、面白い返しを出来たと思っていたけれど。

 どうやらそうじゃなかったらしい。

 腹を立ててる人が現れてしまった。

 どうすれば好感度を高くすることが出来るのだろう。

 もしかしたらもう「こいつはなにをやってもダメだ」という、なにをしても嫌われるフェーズに入っているのだろうか。

 もしそうなのだとしたら、俺はもうどうすることも出来ないんだろうか。もしそうなのだとしたら、俺はもう、どうすればいいんだ。


 ●というかこいつ前「五層にはなにもない」とか吐かしてたくせにバチバチにクイーンビーという目的あるじゃねェか!!

 ●そういえばそうで草

 ●切り抜きに矛盾を晒される予定がある男

 ●こいつちょくちょく矛盾するよな


「菅原、なんか落ち込んでない?」

「落ち込んでませんよ。どうしましたか」

「いや落ち込んでるでしょ。子供は多感でいいね」

「二歳しか歳が離れていないくせに子供扱いしないでください」

「二年の差は大きいよ、菅原クン」

「俺と貴方の身長差くらい?」

「死ね」

「え?」

「死ね」


 それから。

 水を汲んで来て、鍋で沸かしていると寒河江さんがやってきた。


「なにか悩みでも」

「まだ思春期から脱してないだけですよ」

「そうか? いやでも悩みはあるんだよな?」

「他人に打ち明けられる悩みは全部明かしました」

「俺もなるべく協力するよ。思い悩んだら打ち明けて」

「何故ですか」


 すこし訝しむ。


「赤の他人なのに」

「他人じゃねェよ。少なくとも俺からしたら友人だ」

「そうですか。申し訳ありませんでした」

「他人だと思ってたんだ」

「申し訳ありませんでした。ただ、むかしから、人間との距離感がわからず、はじめて出来た友人はすこし特殊な奴らでして、トマトさんや寒河江さんのような普通の人がどういう思考をしているのか、というのかがわかりませんでした」

「いわばコミュ障ナポリタンだな」


 コミュ障ナポリタン?

 寒河江さんは肩を叩いて「お前のペースで理解してきゃいいよ」と言った。そうなのだろうか。本当にそうなのだろうか。

 友人と言ったのも実はお世辞なのではないか。

 親娘に対して「姉妹みたい!」という類のお世辞なのではないか。

 もしかしたらそうなのではないか。というかそうに決まってるな。

 俺は何を信じればいいんだ……!?

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