第12話 傷なんてナポリタン食えば治りますし
今一度戦力を確認した俺たちは進みはじめた。
階層ボスのいる部屋を探すためだ。
道中、ホムラノバチやミズバチなんかと応戦した。
ホムラノバチは漢字で書くと「焔蜂」となる。炎を飛ばして来る。刺針のところからガスを放出して尖針の所を打ち合わせて火花を発生させることで、炎を飛ばす。
ミズバチは針から高圧縮の水のビームを飛ばして来る。
「痛いです」
「腕に突き刺さったもんね」
まさか【土壁】と【樹木壁】はまだしも【障壁】の魔法すら貫通して来るとは思っていなかったので咄嗟に腕でガードしてしまった。
うーんやはり経験不足が足を引っ張ってしまったか。
「まだ大丈夫なので治癒の魔法はやりません」
「やりなさい」
「嫌です」
「どっちにしろ痛ェだろ……」
「魔力の消費が激しいからどっちにしろできませんけどね」
腰に提げていたポーチから消毒液を出して、腕にぶっかけた後、包帯を巻く。
「それにまだ動くので重傷ではないです」
「前は割とすんなり受け入れたのに」
「頭が壊れてたので治さなきゃなと思ったので」
「腕は割と大事だろ……」
●まぁ腕だけなら何とかなるしな
●なんとかならないんだよなあ
●よしんば何とかなったとしてめちゃくちゃ痛いんだからいずれにせよダメだろ
●風呂ならなんとかなるんじゃないの
●風呂兄貴も万能ではないだろ
●風呂兄貴は万能だろ
●治癒の神に嫌われてる、人間とのコミュニケーションが苦手
●それだけなんだよな。貸切風呂の悪いところって
●性格も悪いぞ
●顔は良いから性格の悪さは寧ろプラスに働いてそう。トマトを見る限り
●トマトは別に色恋の目で俺の貸切風呂を見てはいないと思うけど
●誰も色恋とか言ってねぇけど
●トマトはどちらかというと庇護欲みたいなの湧いてそう
「スペース見つけたら治せよ」
「嫌ですけど」
「治せよ」
「嫌です。傷なんてナポリタン食えば治りますし」
「治せって」
「嫌です」
「死ね」
「え?」
「死ね」
死ねと言われてしまった。死ぬつもりは毛頭ない。
はやくクイーンビーを討伐して、ゴーレムの核石をゲットして、百層まで行かなければいけない。
「百層か……そこに至るまでにスキルの段階を第三段階までにはあげておきたいです。なので、なるべく積極的にトマトさんにも戦ってもらいたいんですけど」
「嫌だ」
「なんでついて来たんですか」
「なんでそんなこと言うのさ」
「なんかやることやらないなと思いました」
「なんでそんなこと言うのさ」
せめて【身体硬化】の段階をあげてほしい。
【身体硬化】さえあげておけばなんとかなる。
俺みたいに『咄嗟の時に【身体硬化】が使えなくて負傷!』なんてのいうのもなくしたい。
なるべく『何かあれば【身体硬化】をする』みたいな反応を身体に染み付かせておいて欲しい。
「でもまぁ確かにトマトはなんか……程度が低いしな」
「一番の暴言だ!」
「スペース見つけたら戦い慣れをしておきます」
「決定事項だ……!」
その時、皮膚がビリッとなる感覚。咄嗟にトマトさんの頭を地面に押し付けた。
ゴーストゴーレムだ。
やはり怖い。俺はおばけが怖い。この世に未練を遺して死んだ魂が人に何かを伝えようとするのを見ると、とても悲しい。
「行きましたね」
「怖ェ~……マジでゴーストゴーレムが一番怖ェ」
「額から血が……」
「【治癒】をかけますか」
「かけてくれんの」
「痛みを伴います」
「他者にも通用する呪いなんだ……いいよ! かけろ!」
「想像を絶します」
「いいって! 痛みには慣れてる!」
「やりますよ。いいんですか」
さっさとやれ、とトマトさんが言うから、俺は魔法陣を描いた。さっき「魔力を消費するから」とか言い訳したけれど、小規模の治癒なら、「傷の箇所」を中心にした半径十センチの円の面積分の魔力しか消費されない。
簡単に魔力を十等分したとすると、トマトさんのこの怪我は「十分の一」しか消費されない。
「ヴッ……ギギギィィ!」
トマトさんが激痛に顔を歪める。
傷が塞がると痛みが引いたのか、パッと顔を上げた。
「でも、そんなでもなかった……少なくとも菅原みたいな」
●貸切風呂→貸切→菅原
●どんどん呼び方が雑になっていく
●とうとう苗字呼びになってしまう風呂兄貴に哀しき過去
●黙れ
「俺か俺じゃないかの違いじゃないですか。俺じゃないなら意地悪する必要とかないじゃないですか」
「なんで弁明しねェの。許してくれるだろ」
「神様が一度嫌いになった人間の言葉に耳なんて貸すわけないでしょ。それに俺も許しはいりません」
「またそんなこと言って」
「いや普通に」
感情は嫌悪。
「言わせないでくださいよ」
信じてない神の許しなんて得たところでなんだって話なんだよな。
本当の事を言うと、「お前はどの立場で俺を恨んでるんだ」と思っているし。
あいつはただの神で、俺は菅原旭だ。
なのに、まるで親だとでも言うみたいに、馬鹿みたいに。
「お前がしねばよかった」なんて言われたし。
そりゃそうさ。俺が死ねばよかったなんて俺が一番思ってる。
お前に言われる筋合いがないだけで、俺が一番思ってる。
俺が一番、今この世で一番俺を恨んでる。
なのに、何処からともなく現れた、「知り合いだっただけの赤の他人」がしゃしゃり出てきた。
なんでお前が一番哀しんでるみたいな顔をするんだ。
普通に思うよ。一番嫌いなタイプなんだ。
他人の幸せを喜んで、他人の不幸に涙を流すヤツは。
一番嫌いな、嫌いな嫌いなタイプなんだ。
「まぁいいか! 耐えれるレベルの痛みだったからまた頼むね」
「イカレてるんですか。俺の治癒は痛みが伴うんですよ。疲れますよ。精神が。気が狂って、なにもわからなくなる。死にたくなるんですよ。ナポリタン食えなくなりますよ!?」
「だから何さ。痛いだけなら我慢すればピーカンよ」
「えー……えー……」
●あの貸切風呂が困惑してる
●トマトのアレな部分が徐々に出てきはじめたね
●トマト兄貴も貸切風呂と同じタイプだと知らしめてやれ!
●貸切風呂だけがイカレてると思わせてトマトもイカレてる
●痛いだけなら我慢すればピーカンよ! ←本当にそうでしょうか?
●貸切風呂を困惑させる男
●類が友を呼んだだけだったのか
●トマトとかいう頭の中がちょっと人とは違う男
●そういえばなんかずっとちょっとずつ言動おかしかったしな
●言動はおかしかったけど、よくあるおかしさだから
●社会不適合者の化けの皮の奥からイカレ出てきたの怖い。
●多少タマネギのような男
●チンポでっけーヤツがイカレてねーわけねーだろハゲ
●下着つけないしな
●風呂兄貴に乳首見せ付けるしな
「ほら行くぞ!」
「というか、思ったんだけど、菅原の魔法でゴーストゴーレム倒せないの」
「人間の魔法では絶対に死なないんだ」
「そういう仕様?」
「いや、気合いと根性。なので、大抵はサモナーとかテイマーとか、そういう人たちがモンスターや召喚獣を使って攻撃する。けど、俺達の中にサモナーもテイマーもいないので無視するしかないのです」
「核石を取り込んでモンスターになれば戦えるのか」
寒河江さんが呟く。その手があったか!
「変な真似はやめろ!」
「なんですか、急にさけんで」
「モンスターになろうとしたろ! 寒河江さんも変なこと言うのやめてよ~。やれそうでやりそうな男がいる前でさ」
「悪ィ」
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