第11話 ナポリタンサイコパスみたいな

 うんこを終えて。


「とはいえ、ゴーレムを探しながらなのでそれなりに時間はかかりますよ。それでもいいですか」

「別に構わないけど」

「俺も」


 寒河江さんとトマトさんは微笑んでくれる。

 うーむ、調子を取り戻して来たため先程取り乱していた所を思い出して、とても恥ずかしくなってしまう。


 どうか忘れてほしい!


「隠すのも悪いので、ちょっと言うんですけど。ほんとにもう大丈夫なので、なんかそういう、なんつーのかな、なんか、変に生暖かい目をやめてください。ガチキンタマ潰しますよ」

「別に生暖かい目では見てねェよ」

「じゃあなんですかさっきの微笑みは。ずっとそんなことしなかったじゃないですか。出会ってからずっと」

「そうかなあ。僕はまぁ、正直に言って君のこと感心してただけだけど」


 感心だって! トマトさんが? 俺を?


「なんらかの呪いにでもかかりましたか?」

「なんだそのレスポンスは。だってほら、君って人の気持ちとか考慮できないし、自分にも他人にも興味ないし、簡単に言えばソシオパスみたいなサイコパスみたいな感じの人だろ。言うなればナポリタンサイコパスみたいな……」

「違いますけど」

「そういう人なんだよ、君。……知らなかったの?」


 普通に失礼だと思った。

 しかしトマトさんは話を続ける。


「なのに、一生懸命それが正しいのかとか、考えてる」

「一回頭の中で文章書いて、見直すと矛盾とか文法の破滅とか防げるのでおすすめです」

「あーもー。なんかこんがらがるね、君と話してると。つまりは! 君は良く頑張る人なんだよ! よく自分にむけて小さく『諦めるな』って言ってるだろ」

「よくは言ってないです」


 寒河江さんが「あんまり茶化すな」と耳打ちして来る。

 よくは言ってないから注釈を入れただけなのに。

 いまのは俺が間違えたんだと思う。


「君、ちょっと前にナポリタン作ってくれたろ。それって、僕が精神的なショックを受けてたからだろ。多分君のことだから『気まずい』みたいな理由がメインだろうけど。でも、君が四苦八苦して僕に気を遣ってるのわかってたから、君のこと信用してみようと思えたんだよ」

「っすか」

「返事が軽い……! 死なすぞ……!」


 ワンチャンないかな、と寒河江さんを見てみる。


「俺は特になんも言う事とかはねェけど」

「っすか」


 それじゃあもう行こうぜ、と地面に魔法陣を描く。


「転移の魔法陣って酔いがあって嫌なんだよなあ~」

「柑橘系おすすめ」

「ほら行きますよ。アホさん、寒河江さん」

「あれ、菅原旭くんいま僕のことアホっつった?」

「なに言ってるんですか。そんな訳無いでしょ。転移の魔法陣の中だと声が揺らぐんですよ。バーカアーホマヌケー」

「言ってんじゃねぇか」


 以下略。以下、略。

 キーキーとトマトさんが喚くから俺もキャンキャン言い返していたら寒河江さんに怒られた。

「お前らは犬と猿か」って言われた。

 それはまぁ、置いておいて。

 バッジも返してもらったし。あとはもう大丈夫。


 転移の魔法陣の上に立つと、視界が揺らいだ。

 俺の【転移】はあまり完璧ではないから、なんやかんや言っても系統を専攻している人達にゃ敵わない。

 錠みたいに転移系のスキルを極めてる訳でもないし。

 なんだかんだ言っても、専門家には劣っちまうなあ。

「魔法全部使える」なんて魔法魔術に明るくない人が見れば「すごいすごい!」って感じかもしれないけれど、実はそういう人間はもっといると思うんだ。

 それを証拠に、俺は二年間陰でうだうだやってたし。

 知名度はあんまり高くなかったし。

 いまこうやって眠化したダンジョンに巻き込まれていなければ、きっと日の目を見る事はなかった。

 けがの功名って奴なのかな。

 俺はあんまり恵まれすぎてるなあ。

 なまじ才能も実力もあるから、大して苦労はしなかった。学校の頂点に立つのも、一日十五時間の鍛練と勉強を毎日。ただそれだけでぽぽぽんと完了したし。


「転移完了です」

「あれ、酔わなかった」

「転移後の酔いは空間に魔力が響くのが原因です。だから、その魔力の波形と逆位相の波形をぶつけるんですよ。転移後に酔いが来るのはそんな簡単な事も出来ない三流の魔法だからですよ」


 ●魔法魔術発展局局長「転移後の酔いの除去は魔法使い二十年の望みであります」 VS 学生「転移後に酔いが来るのはそんな簡単な事も出来ない三流の魔法だからですよ」

 ●炎上しそう

 ●才能無い奴の悩みなんて天才にとっちゃ苦難ですらないのなんかめちゃくちゃ悲しいな

 ●なんで二層でずっとスライム狩りしてたんだよ

 ●なんで魔力の波形をわかってるんだろ。どんなマジックアイテムでも読み取れなかったからみんな困ってんのに

 ●こいつ魔法に関する感知能力モンスター並だよな

 ●多分【魔力見極め】のスキルのお陰だと思うんですけど


「なんか酷いこと言ってる」


 なにはともあれ、五層である。

 五層には蜂系のモンスターが現れはじめる。階層ボスがクイーンビーといい、蜂系モンスターの大元締だから。

 俺はそのクイーンビーが落とす「養蜂杖」が欲しい。

 養蜂杖は操る魔法を持っている。

 固有の能力がアイテムに宿っているタイプのモンスターだ。

 その操る魔法をすこしアレンジして座標の固定と変更を操作できるようにする。

 俺にはそれができる。なんたって俺は強いから。

 なんでもは出来ないけど、知識と才能は全てを凌駕する。

 だから出来る。出来ると思えば俺は出来る。出来ないことは出来ないけど。

 でも養蜂杖の改造は出来る。前もやったことがあるから。

 ちゃんとやり方は憶えている。

 一回目と違い、手探りでもなんでもないただの作業だ。

 一回目はなにもわからないままにやったから緊張したけど、もう二回目だからなんでも出来てしまうんだ。


「とりあえず今回はクイーンビーを倒します」

「クイーンビーって階層ボスか」

「はい」

「えっ、階層ボスとたたかうの!?」

「そりゃそうでしょ。クイーンビーが落とす『養蜂杖』が必要なんだもん」

「そこら辺の杖で代用しろ!」


 無茶を言うなバカタレ。


「えーっ! ほんとうに戦うの!? なんか飛び道具とかないの!? 飛び道具とか無いと戦うのきつくない!?」

「【稲妻】のスキルがあります」

「第一段階じゃん心許ねぇ!」


 寒河江さんが「攻撃系の魔法とかねーの」と言う。


「あるけど、魔力の消費が激しいのでスペースがあるかどうかもわからない時に使いたく無いんですよね」

「スペース探しが一番だな。スペース無かったらどうする?」

「近接戦闘に持ち込みたいけど、働き蜂達の戦闘妨害がちょっと悩みの種です」

「じゃあ俺とトマトは働き蜂を散らすか」

「僕も!?」

「そうですね。というわけなので、この際だから【身体強化】と【身体硬化】を教えておきますか」

「アッ……やっと……!!」


 そういえば教えてあげるの忘れてたなあーと思い出した。

 それから二時間程かけて【身体強化】と【身体硬化】についてのレクチャーをあらゆる方向からしてみた。


「ミエルプレートみせてください」

「配信に映すから嫌だ!」

「じゃあバッジを避けてみせてください。第三者の確認が必要だ」

「しょうがないなあ、見せるだけだよ」


 トマト 浅丘林檎 1998年8月2日

 身体強化・第一段階 身体硬化・第一段階


「へー。本名かわいいですね。トマトさんらしい本名だ。スキルも習得してますね」

「うるさい」


 ●反応がかわいい

 ●トマトの本名、苫東なのかな

 ●うっかり零さないの成長してて偉い

 ●どっかで漏らしそうだな

 ●というかもうわかる人はわかる感じになってるとは思う

 ●だとしてもてめぇの配信ならともかく、他人の配信(しかも眠化ダンジョンに閉じ込められているハプニングつき)で本名バレるのはわりと嫌だろ

 ●それはそう


「俺のも見るか」

「えっ、なんで……」

「戦力の確認的なアレで」


 戦力の確認的なアレか。なら仕方ないか。

 エッチだなあ。見せてくれるのエッチすぎ!


「ほら、はやく見て」

「ひゅっ……」

「やめなよからかうの~」


 寒河江五郎 1995年10月12日

 身体強化・第一段階 身体硬化・第一段階 シードレス・第二段階 植物索敵・第二段階 樹木壁・第二段階 水集・第一段階


「凄い優秀……!」

「なかなか昇級できねぇんだ」

「かなしいね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る