第8話 モテすぎ女子とモテないくん

「この程度の男子すら魅了できるみゆの魅力……あなた、お答え出来る?」


 ……って急に言われても困るんだけど。


 というか、この程度って何だよこの程度って!


 顎に手をあてながら俺を睨んでいる金髪で翠眼の女子は、父親がフランス人で母親が日本人という日仏ハーフ女子らしい。


 ゆるふわなツインテールをしているが、彼女から柔らかい印象はまるで受けないどころか、俺を完全に敵対視している。口調だけで判断すればどこかの令嬢っぽいものの、それに関しては――。


「ハァ? どうしてあなたごときに答えなければいけないのかしら?」


 ――などと一蹴されてしまった。


 そんなギスギス感満載な空気でありながら、俺の口にはずっと児玉からのポテト攻めが続いている最中だったりする。


 児玉は児玉であまり藤木を構わないらしく、俺にだけ動きを集中している状態だ。


「中森、美味しい?」

「んぐ、おいひいヨ……」

「オ、オホン……みゆちゃん、わたくしの口もみゆちゃんの好きにしていいのだけれど……」

「……うん?」


 あれ、今好きって言ったけど、無反応だったよな?


 女子の言葉にはさすがに反応しない?


 しかし彼女たちはお互いに認識はしているはずなのに、何故か一方通行的な扱いをしている感じだ。俺だけどうすることも出来ないからどうしようも無い状況すぎる。


「そ、そういえば、みゆ。この男はウワサの男で違いないかしら?」

「……うん。合ってる」


 呼び方を変えると反応するのか。ちゃん付けが嫌だったんじゃ?


「フフフフ! そうするとわたくしとみゆは、モテすぎ女子……ということになりますのね!」

「…………んん」


 児玉はその意味を理解していないようで首を傾げているが、藤木は誇らしげな表情で俺を見下す表情を見せた。


「ウワサ? 俺が何だって?」

「フフフッ! どうしても聞きたいかしら?」


 何て意地悪い女子なんだこいつは。一見すると品が良さそうなのに性格は裏がありすぎるぞ。


「俺は思わせぶりなのは嫌いなんでね。それに、はっきり言ってもらわないと気持ち悪くなる性格なんだ」

「それは面倒くさい性格ですわね」

「中森、口を動かしちゃ駄目。コーンが入りづらくなるから」

「……んむむっ」


 児玉はあくまで俺の口をめがけてマイペースに食べ物を運んでいるだけで、俺と藤木のやり取りには全く関わってこないようだ。


「わたくしとみゆはモテすぎる女子……そう呼ばれているのはご存じなのでしょう?」

「まぁ……」

「では、あなたについた名は何だと思う?」

「さぁ」

「フフフ。モテないくん。ですわ! 正解でしょう?」


 くそぅ。正解すぎて反論出来ないじゃないか。


「あっ――中森、わたしの指も食べるの?」

「ふへぇっ!?」


 何も意識せずに口を動かしていたら、何でか児玉の指先が俺の口の中にまで伸びていた。


 嘘だろ、想定外すぎるぞこんなの!


 何でスプーンじゃなくて指でコーンを運んでいるんだよ。


「ひゃわわわわ……」


 言葉に変換できない俺を相手せずに、児玉の指は藤木によって強制的に引き離された。


「呆れるわね。モテないくんだからってこんな……今すぐ指を殺菌して差し上げたいところだけれど、わたくしはそろそろ帰らないといけないの。ごめんなさいね、みゆ」

「うん、大丈夫」


 人をばい菌扱いするとはひどい話だ。口の中は確かに心配事ではあるとはいえ、音もなく指が入っていたら気付くわけがないだろ。


 だからといって児玉に謝ることしか出来ないけど。


「それでは……ボンニュイ、みゆ」

「うん、おやすみ。クロエ」


 ん? 今のはフランス語か?


 しかも俺に一切見向きもしないでいなくなったし。何て厄介な。すでに夜になっているから仕方が無いとはいえ。


「中森、もう一度わたしの指、舐める?」


 藤木がいなくなったのもつかの間、児玉は自分の人差し指を俺に差し出しながらそんなことを言ってきた。


「ノ、ノーノー!! しないしない! そ、それよりもおしぼりで拭いた方がいいよ」


 不可抗力だったし自分でも気づいて無かったのに、変な誤解をされてる?


「ん、中森が言うなら拭くね。いいの?」

「いい、いい! 何も問題無いからね」

「分かった」


 良かった……彼女のことだからそのまま自分の口に入れるかとひやひやした。というか、何か彼女に俺の理性を色々試されてるんだろうか。


 それとも本物の天然女子?


 藤木とかいうお高い女子がいても児玉は全く変わらなかったのが驚きだったけど、あくまで俺を中心に見ているからっていうのは俺の勘違いなんだろうな。


 それに藤木から発した好きという言葉には無反応だったのは意外だった。俺が言うと別な意味に聞こえてるとかだったりして。


 まぁ、それは俺の自意識過剰ってもんだろうけど。


「中森はクロエが嫌いなの?」


 おおっと、いきなりきたな。


「よく分かんないだけだよ。初対面だったわけだし」

「体育で見てたのに?」

「――!?」


 まさか俺の視線に気づいてた?


 やっぱり鋭いことに変わりないのか。


「…………中森の顔、よく見てなかったから見てもいい?」

「えっ? ど、どうぞどうぞ……」


 一転して児玉が俺の顔をまじまじと見つめてきている。間近でこんな可愛さと綺麗さのある彼女に見られていると変な気分になりそうなんだけど。


 金髪クロエと違って黒くて長めの髪は綺麗に感じるし、普段から笑顔満載の彼女が真剣な表情を見せるとか、これはご褒美ですか?


 ふっくらきれいな唇とか、弾力ありそうな頬とか……間近に迫ってるのは何かの試練なんじゃ?


「中森は……わたしと――するの?」

「えっ……?」

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