第7話 ライバル現る?

「中森ぃ! シュートだ~!!」

「ま、任せろ!」


 体育の時間。


 あまり得意ではないものの、クラス対抗サッカーの時間をそれなりに楽しんでいた。学力の成績こそ下位よりではあるものの、スポーツ勝負ならそこそこ出来るのでそれだけでも救いだった。


 倉貴学園では夏本番前になると、隣クラスとの合同授業が多い。特に夏休み前とか体育祭前が多かったりする。


 隣クラスには児玉みゆがいるが、少なくとも俺は今までまるで接点が無かったので意識することは無かった。


 しかし今では――。


「やっぱ、トップ3に君臨していただけのことはあるよな~! お前もそう思わねぇ?」

「……ん? それって児玉みゆ?」

「他に誰もいねえだろ。……と言っても、彼女に今話しかけてる女子が現トップ3女子なんだけどな~どっちもいい! 捨てがたい!」


 仲西の奴、児玉に気があるのか?


 悪友の仲西はうちのクラスにいるつばきが怖すぎるせいか、隣のクラスの女子ばかり目で追っている。女子はバドミントンを選んだらしく、気楽に楽しんでいるようだ。


 それはともかく、それに加わらないつばきからの謎圧を感じて思わず児玉に目をやっているが……。


「か、かなりの運動音痴なんだな……」

「知らなかったのか? 児玉みゆは運動だけはまるで駄目なんだぞ? もしかしたらそれで圏外になった可能性もあるな~」


 頭を使ったりするのは得意そうなのに、運動とか体を動かすのが苦手だとは意外だ。


 いや、ネットカフェの動きだけ見ればそうなのか?


 逆に、児玉の近くで動いている女子は動きが機敏で瞬発力が半端ない。あの女子が児玉を圏外にした原因なのでは?


「ちなみに隣に見える女子の名前は?」

「あん? お前、児玉みゆを諦めんのか?」

「諦めるも何も、何も起きてないけど……」


 こいつ、まさかと思うけどつばきと何らかの情報のやり取りを?


「まぁいいや。新トップ3女子は、確か藤木クロエって名前だ。オレもまだ情報はつかめてないが、金髪女子もいいよな~」


 ……なるほど。


 児玉以外の女子の名前を知る必要は本来は無いと思っていた。だけど、児玉とペアを組んでいる女子が妙に気になった。


 金髪女子は別に珍しくないが、スタイルの良さは児玉に引けを取らない。


 仲西や他の男子はとにかく可愛い女子って認識で見るんだろうけど、あの児玉のカバーに入ったり守ったり、児玉が打ち返せないシャトルを全部拾っているしただ者じゃない気配がある。


「まさか中森……お前、いよいよモテたい期に突入か?」

「何だよそれ。俺はいつもモテたいっての!」


 それにしても児玉の笑顔って、女子から見ても憎らしいほど可愛いレベルなんだろうな。


 藤木とかいう女子も常に嬉しそうにしているし、対戦相手の女子達さえも虜になっているし、圏外になったからって関係無いみたいだ。


 嫌な予感はこの時点で感じなかったものの、合同体育が終わって教室に戻ると向こうからやってきた。


「ちょっと、健。どういうつもり?」


 つばきの危機管理はどうなっているんだ?


 友達想いなのは認めるが……何で速攻で責めてくるんだよ。なので、とりあえずとぼけて誤魔化すことにする。


「え、何が?」

「とぼけんな! みゆじゃなくて、隣の女子をずっと見てただろ! あんたが気にしてつきまとってるのはみゆのくせに、どういうつもり?」


 断じてつきまとってない――はず。


「そうはいっても見るだろ。児玉さんのペアの相手くらい目に入るぞ?」

「あんたまさか隣の女子も狙ってるとかじゃないよな? モテないくせに」

「う、うるせー! モテないのはほっとけよ! 狙うも何もいちいちお前に言われる筋合いは……」

「――あ?」

「……いや、ごめんなさい」


 俺の目の前で拳を振り上げるのをやめて欲しい。以前から感じていたとはいえ、児玉みゆと色々あって以降からつばきの暴力性がおかしなことになっている気が。


「こら、中森! 北原を怒らせるな。席に着け!」

「ひっ、はい~」

「……ふん、馬鹿め」


 先生の注意で事なきを得たが、つばきからの警告は放課後まで続いた。


「反省したか? 健」

「した。しましたとも!」

「じゃ、みゆが待ってるから急ぎなよ?」

「……どこへ?」


 俺がそう言うと、つばきは両手で何かを挟んだものを口に持っていく動きを見せた。


 あぁ……それのことか。言葉に出せば簡単なのに、クラスの連中に探られたくないからって律儀な奴だな。


「私はついていけないから、あの子のことよろしくね」

「わ、分かった。じゃあな、つばき」 

「あんたごときだとしても頼りにしてるんだかんな! ばぁか」


 お? つばきが俺を褒めた?


 多分気のせいなんだろうけど、とにかく昨日のファーストフード店に行くか。

 

「――って、え?」


 てっきり児玉だけがいるかと思っていたら、彼女の隣にはすでにもう一人の女子が座っていた。


 それも体育の時に見ていた新トップ3女子が。


「……あ、中森。待ってた」

「や、やぁ!」

「――! …………!!」


 おぉ? 児玉から声をかけてきた?


 いや、それよりも何よりも藤木クロエという女子がどういうわけか、児玉の隣にぴったりとくっついていて俺を睨んでいる。


「中森。あのね、この子はクロエ。知ってる?」

「いや、初めましてだと思うよ……」

「クロエ。彼は中森っていうの」

「……みゆちゃん。もしかしてわたくしから挨拶した方がいいってことでしょうか?」


 う、見た目に反してハスキーボイス!


 それにまさかの児玉からの紹介に対し、隣の女子は俺を見ることなく児玉に確認を取っている。


「うん」

「コホン……でしたら仕方ありませんわね、わたくし、児玉みゆちゃんの大親友の藤木クロエと申しますわ。以後、覚えなくて結構ですから」


 何なんだこの女子は。


 まさか、まだ恋にすら到達していない俺と児玉みゆとの関係を邪魔するライバルなのでは?


「中森。今日は一緒に食べよ?」

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