第6話 おかしいの?

 児玉と手繋ぎをしてたどり着いた場所は家じゃなく、まさかのファーストフード店

だった。


 児玉の家がどこなのかはともかくとして、幸いにして俺の家から近い店だったのが救い。だからといって俺の家に連れて行くわけにはいかないけど。


 肝心の彼女は家に帰るつもりがないかのように、力強く店内に入ってしまった。もちろん注文はモバイルオーダーなので、言葉がどうとかという問題は起きなかった。


 さすがにここには個室は無いものの、常連が居座るような席はあるようでそこはちゃんと確保しているっぽかった。


「一応訊くけど、いつもここに来てたり?」

「うん。毎日」

「えっ? ま、毎日?」


 俺の驚きに児玉は首を傾げながら笑顔を見せている。


 家に帰らずにここにいる可能性もありそうだけど、いくら何でもそれは考えられないし、深く聞くのはやめることにした。


 とはいえ、気になることだけは訊いておく。


「家がここっていうオチはないんだよね?」


 あまり頼りたくない相手だが、つばきに教えてもらうっていう手もあるな。


「……オチ?」

「ああ、いや、何でもないよ、うん」


 家のことはともかくとして、モバイルオーダーで頼んだバーガーやらポテトを店員が運んできた。


 気のせいか、ネットカフェと同じように児玉に対する店員の態度が畏まり系すぎるんだが……毎日来てればそんな風になるものなんだろうか。


「――って……そ、そんなに食べるの!?」

「うん。おかしい?」

「え、いや……」


 おかしいも何も、山盛りすぎるポテトと特大サイズのハンバーガー、それと大盛にもほどがあるサイドメニューの数々が、俺と彼女の顔が見えなくなるくらい目の前に並べられている。


 俺が頼んだのはSサイズのドリンクだけだからとはいえ、これをスタイル抜群の児玉が一人で平らげるのは正直信じられない。


 そう思っていたのに。


「……えぇぇぇぇ!?」

「うん、美味しい。ごちそうさま。中森も食べていいのに食べなかったね。お腹空いてない?」


 ものの見事に彼女一人だけであっさりと食べきってしまった。すらりとした体つきの彼女の体にどうやって入っていったのやら。お腹の部分も膨らんでもいないみたいだし。


「う~ん……」

「もしかして中森。わたしのお腹、気になるの?」

「ご、ごめん! そんな見たつもりは……本当にごめん」


 気づかれるくらい見つめていたとかアホか俺は。

 

「……じゃあ、はい」

「へ?」


 彼女は俺にだけ見えるように、シャツの裾を一瞬だけたくし上げてみせた。


「ひえっ!?」

「大丈夫? 何でも無かった……?」

「う、うんうんうん……白くて透きとおった肌……じゃなくて、健康そのものだったよ」


 不意打ちにも程がある。


 何の恥ずかしさもないまま自分の下腹部を見せるなんて、この子ってやっぱり経験とか無いんじゃ?


 気を取り直して――。


「俺はお腹は空いてないから、食べるのはまた今度でいいかな」

「うん。また来た時、中森に食べさせてあげる。いい?」

「児玉さんが俺に?」


 何やら誇った表情で頷いているようだし、次来た時は奢ってくれるみたいだ。しかし、まさか彼女がジャンクフード大好き女子だとは想像していなかった。


 成績上位だし顔も性格も……それは関係無いとしても、ファーストフードを主食にしていて今までトップ3に君臨していたとか、全然イメージが異なりすぎ。


 モテすぎる反動でなっているわけないけど、近すぎる存在だと勘違いしてしまいそうだ。


「食べさせてあげたい。そういう人、他にいない」

「あれ、つばきは?」


 友達のはずだよな?


 つばきの俺に対する態度と暴力は児玉みゆに対しての過保護レベルだし、一緒に食べに来るぐらいの仲だと思うんだけど。


「あの子は真面目。だから……誘わないの」

「つばきが真面目~? あははは! あいつが~?」

「駄目。つばきを笑ったら駄目。だって中森のことも――とにかく駄目」


 怒られてしまった。そんな本気な感じじゃなかったけど、つばきのことが大事な友達だってことが分かったしからかうのはやめとこう。


 それよりも、今はこれだけでも真面目に訊いておかねば。


「……あ、あのさ、児玉さんはどうして自分から話しかけないの?」


 誰にでも笑顔を振りまいて、好かれている彼女なのに誰かに話しかけられないと自分からは話をしない――なんて、何か悩みがあるからに違いない。


「楽だから」

「そ、それだけ?」

「うん。あと、疲れちゃうから……中森はわたしが話しかけないと、駄目?」


 う……これは究極の選択だ。素直に言えば肯定だけど、駄目ってレベルでもないのが正直なところ。


 彼女なりに悩みがあってそうしているのだとしたら無理強いは出来ないし、どうしたものなんだろうか。


 でもネットカフェまで行ってをしてしまった以上、俺の本音を伝える方が今後の彼女の為になる気がする。


「お、俺は話しかけられたい……。児玉さんに声をかけられたら、えっと何というか、近くなる感じがするし」

「中森がわたしに言ったことよりも近くなる?」


 俺が何か言ったっけ?


「も、もちろん。そしたら俺ももっと児玉さんを身近に感じて、もっと話がしたいって思えるからね」


 特別感じゃないけどそうなったら嬉しいってなるよな、きっと。


「身近に……中森に教えてもらえるの?」


 一体何を教えられるんだろうか、成績下位に近い俺なのに。会話をするって意味なら知らないことは教えることが出来ると思うけど。


「も、もちろん! 俺が出来る範囲なら!」

「……もう二回も言われてるから、だから中森にする。わたし、決めたの」

「んん?」


 何か話が噛み合って無いような?


 この話って彼女が自分から話しかけるようにするって話だったよな、確か。


「中森。わたしにいっぱい教えて? そしたらわたし、中森にいっぱいしてあげるから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る