第2話 とりあえず膝枕?

 トップ3圏外になったからといって、女子も男子も彼女の悪口を言う人はいなかった。


 悪口のようなものを言われているのは俺だけだ。


「よぉ、中森! お前、やらかしたんだってな!」

「圏外になったからってちょっかい出すのは違わねえか? みゆたんはオレらのアイドルだ! 変なことするなよ、マジで!」

「とりあえずアプリ入れとけよ。みゆさまを想うならな!」


 などとアイドル研含め、友達であるはずの仲西の言葉が中々に手厳しい。仲西には一応言っておこうと夜に呟いたのが失敗だった。


 俺が何かを児玉みゆにやらかしたことになってるっていうのが意味が分からない。


「……してないぞ、何も」

「無理やりケーキをあ~んさせた話じゃなかったっけ?」


 変に尾びれつけまくるのは悪友の悪い癖だ。つばきならこんな風に変な広め方はしないはず。児玉みゆの友達って言ってたしな。


「してねーよ!! 初対面の女子に出来る奴がいたら逆にスゲーよそいつが!」


 話しかけたのも初めてなのに、何でそんなことが出来るっていうんだ……。


「そうか、それは悪いな。オレの聞き間違いだったわ! 許せ、健」

「お前には言わないことにするから問題無い」

「……北原には?」


 仲西も恐れる北原つばき。あいつには本人の口から聞かされてるだろうな。


「すでに色々言われてるからな。お前らに広まった話とは別の話が通じてるはず」

「お前も大変だな……しかもお前らは単なる友達にしかならない――って笑えねーわ。すまん」


 男子が一目置くつばきだからこそある意味助かってるところがあるから、児玉みゆのことは多分大丈夫だろう。


 とはいえ、何となくつばきの席に近づけない俺がいる。


「……健。あの子のことで後ろめたさが無いなら話しかけろよバカ」


 気まずさがあったが、珍しくつばきから声をかけてきた。


「いや、何となく」

「ふ~ん? で、本当は何をしでかした?」


 とか言いながら、みんなが見ている前で……。


「――っつうううう!!!!」


 目に見えない早さでつばきに頬を叩かれていた。マジかよ……。人間離れしてるじゃないか。


「ぼ、暴力反対! いちちち……」

「大げさに痛がるの禁止。私のビンタは愛のムチ……あんたに愛は送ってないけどね。不意打ちだったから痛い気がするだけだから許せ」


 いきなりビンタされたから驚きがあっただけで、確かに痛がるほどの痛みは無かった。本当は痛みとかよりもクラスのみんなの視線の方が痛い。


 そんな気配に気づいたのか、つばきが俺に耳打ちしてくる。


「安心しろ。あの子に嫌われてないから」


 それだけを俺に言い残して自分の席へと戻って行った。後はまた俺からつばきに声をかけるしかないってことか。


 しかし、俺が何かやらかしたから逃げられたんじゃなかったのか?


「え~と、つばきサン。俺はこれからどうすれば?」


 ということで休み時間、早速声をかけた。


「あんたは今日から窪頭くぼがしら公園前のネットカフェに通え!」


 何を言われるかと思いきや、指示とか。


「……ネットカフェ? なぜに」

「漫画嫌いじゃないだろ?」

「そりゃまぁ……どっちかというと好きだけど」


 好きなシリーズは買い集めてるし、アプリ漫画のゴールドランカーってくらい課金してるし抜かりはないけど。


「喜べ! 二人きりにさせてやるから。そこに行ったらVIPルームのAを予約済みって言え。そしたら後は……どうとでもなるから。以上」

「ええ?」


 べらべらと一方的に言われてそのまま会話を打ち切られてしまった。


 何でか知らないけど、つばきが急に冷たくなったのは何でだ?


 くだらないことでも言い合える友達だったはずなのに。


 昨日のことが関係しているのかは不明ながら、つばきは放課後まで目も合わせてくれなかった。もちろん仲西も同様に。


 何かやらされてる感がありつつも、俺は言われた通り窪頭公園前にあるネットカフェにやって来た。


 ネットカフェとかカフェは学園からさほど遠くない所にあるせいか、倉貴の生徒の姿がちらほら見える場所だ。


「あの~VIPのAを予約済みなんすけど~……」

「――! こちらへどうぞ」


 訳も分からずに、やけに腰の低い店員に案内されたのは広々とした個室だった。俺としては途中にある無数の本棚に寄り道したかったが。


 とりあえず靴を脱いで個室に入ることにした。しかし誰もいない……。


 今のうちに張られている料金表を見ようと身を乗り出すも、後方の扉が開いた気がしたのでその体勢で出入り口を見てみるとそこにいたのは……。


「…………」


 無言で立ち尽くす彼女が俺を見つめていた。


「あっ、えっ!? 児玉みゆ?」


 おっとフルネームで呼び捨てしてしまった。そんな俺の態度を気にしないのか、彼女は淡々と名前を名乗ってくれた。


「うん。わたし、児玉みゆ。えっと、名前を……?」

「お、俺は中森健……かな」

「…………」


 ついつい疑問形にしてしまったせいか、彼女が首を傾げてポカンとしている。


「……中森健です」


 断言しないと駄目な奴だこれ。実は天然なのか?


「うん、覚えた」

「ど、どうも」


 とりあえず適当な漫画を持ってくるか。そうすればそれで会話が成り立ちそうだし。


「ま、漫画読みに来たし、取りに行こうか?」

「大丈夫。今日は読む漫画決めてるから。中森も同じのを読もう?」


 俺に選択権は無かった。このお高い個室も俺だけじゃ払えそうに無いし、言うことを聞いておこう。


 この個室にはマットがあって、リクライニングは置いていない。2〜4人くらいは自由に寝そべる広さがあるが、だからといってって話だ。


 そんな俺の反応に対し、彼女は正座をしだした。それも生足むき出し状態で。


 スタイル抜群なだけあって、胸元も気になるが太もも辺りも目のやり場に困る。


「えっと、正座して漫画を読むとか?」

「膝枕希望って聞いたから、頭をこっちに」

「はい? えっ誰から?」


 いやいやいや、なんだこの急展開。


「つばきちゃん」

「…………あ〜」

「する?」


 何か変な意味に聞こえてしまうな。


「それをしないと漫画読まなかったりして?」

「だってそうしないと怒るって」


 あいつ、なんてことを吹き込んでくれやがったんだよ。


「お、お願いします……」

「うん」


 あれ、このあと俺は死ぬのかな?

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