第35話 おじぃちゃん、孫娘の友達と推し活トークでもりあがる。

 電車に揺られること20分。


『次はうしとら町~、うしとら町~』


 わたしとおじいちゃんは、裏鬼門うらきもんのダンジョンの最寄り駅を降りる。

 今日は平日、降りるお客さんもまばらだ。夕方も近いと合って、むしろ裏鬼門うらきもんのダンジョンから帰る人達とすれ違う。

 ダンジョン帰りの人たちの手には、武器のほか、お土産の紙袋とかゴールデンカナヘビの等身大ぬいぐるみを抱えてたりしている。


「ふむ、ダンジョンも今やすっかり観光地じゃの」


 おじいちゃんが、すれ違う人たちを目で追いながらつぶやく。


「ダンジョンが観光地なのは昔からでしょ?」

「とんでもない! ダンジョンが発生した17年前は、未曾有の災害に世界中がおののいたもんじゃ。なかでも日本は九州が分断される世界最大のダンジョン、九州大坤溝だいこんこうが発生したからのぅ。国の存続も危ぶまれたくらいじゃわい。学校で習っただろう?」

「そうなんだけど……生まれる前のことなんだもん。やっぱり実感がわかないよ」


 おじいちゃんはため息をつく。


「ふうむ。わしらも子どもの頃、じいちゃんに戦争の恐ろしさを教わったもんじゃが、いまひとつピンとこなかったからのう。何事も当事者にならないと本当の気持ちは理解できない。何時の時代でも同じものかもしれんのう」

「ふうん……」


 わたしは、おじいちゃんの言葉にあいまいな返事をする。

 日本が戦争をしていただなんて、ますますピンとこない。でも今も戦争をしている国とかもあるんだよな。


 当事者にならないと本当の気持ちは理解できない……か。


 ひょっとしたら、六花りっかにも、わたしでは理解できないこととかあるのかな? 端から見たら能天気の塊みたいな娘だけれど。


 駅から歩くこと5分。裏鬼門うらきもんのダンジョンの前に着くと、先に六花りっかが待っていた。すでに配信コスに着替えている。


「もう! 遅いよワンコ!」

「ゴメン、ゴメン、すぐに着替えてくるから!!」

「あ、おじいちゃん、コンニチワー! わぁ♪ 道着姿カッコいいですぅ!」

「ほっほっほ。そうじゃろうそうじゃろう」

「今日は、突然の配信なのに、快諾してくれてありがとうございます!」

「なんのなんの。一向に構わんよ」


 わたしが急いで更衣室に駆け込むなか、六花りっかとおじいちゃんは、なごやかにトークをつづけている。絵に書いたような陽キャマインドが本当に羨ましい。


 わたしが、配信コスに着替えて広場に戻ると、六花りっかとおじぃちゃんのトークは、さらなる盛り上がりをみせていた。


「へぇ! ワンコのおじいちゃんも、ロカちゃんのファンなの!?」

「先週からのじゃがの! そのコスチューム、ロカちゃんの初期コスチュームの色違いじゃな。良うできておるわい」

「わかる? おじいちゃん通だなぁ! これ、アタシが作ったんだよ。モチロン、ワンコのコスも!」

「こりゃあたまげた! 六花りっかちゃんは裁縫の才能もあるのか! てっきりカワイイだけのJKかと思ったわい!」

「もう、おじいちゃん。おせじがうまいんだからぁ♪」

「おじぃちゃん! 六花りっか!! 着替えたよ!!」


 おじぃちゃんと六花りっかがロカちゃん推しトークで盛り上がってるところに、わたしは大声で割り込む。


「では、ダンジョンに潜るとするかの」

「ん? ワンコ、なんか怒ってなぁい?」

「べっつにぃー!」


 ウソ。


 内心結構イラツイた。たまぁーにだけど、わたしは六花りっかの陽キャ過ぎるところ。全く人見知りしないで誰とでも仲良くできる性格がうらやましくて、嫉妬しちゃうときがある。わたしの悪いところだ。


 だめだ。気持ちを切り替えよう!


 わたしは、両手で頬を軽くぴしゃンと叩いてから、おじぃちゃんと六花りっかの後ろをついていく。そして、裏鬼門うらきもんのダンジョンに入場すると、修行の場にしている第七層に通じる魔法陣へと入った。

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