第36話 おじぃちゃん、ダンジョン配信デビューをする。

 魔法陣をぬけて第七層につくと、見渡す限りの赤い大地と、赤い岩山が広がっている。


 わたしたちは、いつもの修行場に移動する。岩山に囲まれている窪地部分だ。三方を囲まれているから、モンスターに見つかりづらくて修行に専念できる安全の場所だ。(おじぃちゃんは居眠りをして、あやうく頭をかじられそうになったけど)


 六花りっかは、撮影用の浮遊カメラのチェックを終えると、わたしとおじぃちゃんに声をかけてくる。


「それじゃ、今日の撮影プランを説明するね。最初にアタシが企画内容を説明するから、その後でワンコはおじぃちゃんの紹介。おじぃちゃんは自己紹介をお願いね」

「わかった」

「ふむ、任せてくれ!」

「その後はいつも通り修行をして。アタシがふたりをカメラに収めながら実況をするから。あ、おじぃちゃんの顔認証を忘れてた!」

「顔認証? なんじゃそれは?」


 六花りっかは、浮遊カメラでおじぃちゃんを撮影すると、左手に装備したスマートウオッチで、浮遊カメラの顔認証機能におじぃちゃんの顔を設定する。


「顔認証に登録すれば、対象の人間を自動でフレームの中に収めるの。AIアシスト機能で、ピント合わせや画角調整を自動でやってくれるからめっちゃ便利なんだよ。ダンジョン配信のマストアイテムと言ってもいいかな」

「そういうのもあるのか。いやはや便利な時代になったわい」

「よっし! これで登録完了! SNSでの告知も済んだし。そろそろ配信始めるね」」

「わかった」

「ドキドキするのう!」


 六花りっかがスマートウオッチを操作すると、浮遊カメラのRECライトが赤く光る。


「はい! 今日もはじまりました『JKエクスプローラー』! ロゥファです!!」


 六花りっかは、スマートフォンをチラチラと確認しながら配信をつづける。


「そう。今日は探索コスなの! 裏鬼門うらきもんのダンジョンの第七層に来ています。今回は特別企画! ワンコの特訓風景をライブ配信しちゃおうと思います! ワンコファンのみなさん今回は永久保存版ですぞ? それじゃあさっそくワンコとワンコのお師匠さんを紹介したいと思います!!」


 六花りっかは、カメラに向かってしゃべりながら、器用にスマートウオッチを操作する。浮遊カメラは音もなく、わたしとおじぃちゃんを画角にとらえた。


「こんにちは、ワンコです。ワンワンわん!! 早速わたしの師匠を紹介しますね」

「お初にお目にかかる! 犬飼流剣術師範、犬飼いぬかい一心いっしんですじゃ!」


 うわ、おじぃちゃん、めっちゃ本名じゃん! しかも道場名まで言っちゃうし。


「自己紹介ありがとうございます! 早速、一心いっしんさんに質問です。ワンコとはどういったご関係ですか?

「ほっほっほ! わしのカワイイ孫娘じゃ!!」


 うぎゃ! それわたしの名字と住所言ってるようなもんじゃん!!

 わたしは、眼力で六花りっかに無言の圧力をかける。わたしがご立腹なのを察してか、六花りっかは素早く話題を変える。


「そ、それでは、一心いっしんさん、さっそく修行のほうに映っていただけますか?」

「あいわかった。それでは準備をするかのう」


 おじぃちゃんは、おもむろに道着を脱いで諸肌になる。なんで??


「うわ! すごい筋肉! 細マッチョってやつですね! 筋トレされてらっしゃるんですか?」

「筋トレ? そんなもの、いらんいらん! 剣の道に真摯に付き合っておるだけじゃ!!」

「うわぁ、すっごいストイック! カッコいい!」

「はっはっは、では修行を始めるとするかのう!!」


 おじぃちゃん、六花りっかにおだてられてノリノリだ。ちょっと恥ずかしい。


 ノリノリのおじぃちゃんは、袴から白いシェールストーンを取り出して真上に放り投げる。そして、そのまま目にも止まらぬ速さでバスタードソードを抜刀をすると、シェールストーンを真っ二つに切り裂いた。

 白いマナにふれたシェールカーボン製の黒い刀身は、ギラリと輝きながら青鈍に変色する。


「うわ! すごい早業!! 一心いっしんさん、お持ちになっている武器について聞きたいことがあるんですが??」

「うむ!!」

「質問はふたつです。まずはひとつめ。現在のダンジョン探索用の武器は鞘がないのが一般的ですが、お手持ちのバスタードソードは、なぜ鞘の中に入っていたのでしょうか。それからもうひとつ、先程シェールストーンを刀で割っていましたが、シェールストーンってめっちゃ硬いですよね!? どうやったんですか??」

「良い質問じゃな。この武器はプロトタイプモデルでの。現在の規制モデルとは違い、剣の片方に刃先があるのじゃ。特に切っ先は鋭利に造られておる。そいつでシェールストーンを切り裂いたんじゃわい。ま、わしのような剣を極めたものにしか出来ん芸当じゃがの!」

「なるほどぉ! 確かにそれは物騒ですね! 鞘が必要なのも納得です」


 ん? よくよく考えたら、これって銃刀法違反に抵触しない?? 通報されたら捕まるんじゃ……。


「それでは、我が犬飼流剣術の奥義をご覧入れよう!!」


 おじぃちゃんは、赤い岩山の前に立つと、バスタードソードを上段にかまえ、目を閉じて「ふぅぅぅぅぅぅぅ!!」と細い息を吐く。


「(こそこそ)奥義発動のために集中しているようです。わたしも静かに見守ることにします!!」


 おじぃちゃん、今日はえらいこともったいぶるな。いつもはちゃっちゃと岩山を切り裂いて、アウトドアチェアで休むのに。


「きぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」


 おじぃちゃんは、聞いたこともない寄声を上げると、思い切りバスタードソードを振り下ろす。


 ズ……ズズ……ズズズズズ……スドーーーーン!!


「えええっ!? 岩山が真っ二つになっちゃった!!」


 六花りっかが驚くなか、赤い岩山はてっぺんから斜め45°に両断される。


「どうじゃ! 犬飼流秘奥義『瞬伸の太刀』じゃ!!」

「すごい! すごすぎます!!」


 六花りっかが驚く中、わたしは至って冷静だった。てかなに? 『瞬伸の太刀』って! そんな名前、初めて聞いたんですけど!! 絶対に今適当につけたでしょ!!!


「わぁ、視聴者からも驚きの声が続々と届いています!!」

「はっはっは!! 犬飼流剣術道場は、絶賛門下生募集中じゃぞ!! 我こそはと思うものは我が道場の門を叩かれよ。剣の道の真髄を伝授しよう!!!」


 ……なるほど、うちの道場の宣伝も兼ねてるってことか。


 わたしは、おじぃちゃんの商魂たくましさに九分九厘あきれて、ほんのちょっとだけ感心をした。


 

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