第34話 女子高生のおじぃちゃん、ダンジョン配信動画にハマる。

「ただいまぁ」


 放課後、わたしは大急ぎで家に帰ると、茶の間でくつろいでいるおじぃちゃんの元へと直行する。

 おじいちゃんは無線イヤホンをつけて、スマホの画面をみている。スマホを横にしているから動画を見ているのかな?


「おじぃちゃん」

「…………………」

「ん おじぃちゃん?」

「…………………………」

「おじぃちゃんってば!!!」

「…………………………………」

「おじぃちゃん返事してよ!!!」

「…………………………………………」


 返事がない。スマホの画面に夢中のようだ。

 わたしはおじぃちゃんの背後にまわると、大きく生きを吸ってから両耳のワイヤレスイヤホンを抜き取る。


「おじいちゃん!! ダンジョン行くよ!!」

「ふぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!?」


 おじぃちゃんは、奇っ怪な声を上げて、あわてて後ろを振り向く。


「なんじゃ? 一子かずこか。まったく、そんなに怒鳴らんでもええじゃろう」

「さっきからさんざん呼んでいるのに、ずっと動画に夢中なんだもん。なにみていたの?」

「ほっほっほ、これじゃよ! これ!!」


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『それじゃあ、最後の合言葉♪ L・O・V・E・L・O・K・A! ラブロカチャンネル!! チャンネル登録よろしくね♪』

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「え? ロカちゃんのダンジョン配信??」

「ふむ。田戸蔵たどくらくんが出演しとると聞いて観始めたんじゃがの。いやー、ロカちゃんはキャワユイのう。すっかりファンになってしまったわい!!」


 おじぃちゃんのスマホの画面には、ヘソ出しミニスカの探索コスチュームに身を包んだロカちゃんが満点の笑顔で映っている。

 なんだなんだ? 今までダンジョン配信なんて全く興味が無かったはずなのに。


「おじぃちゃん。今日も修行するからダンジョンにつきそってよ」

「おぉ! もうそんな時間か! ロカちゃんの配信動画にハマっとったらあっと言う間に時間が溶けてしまったわい!!」

「今日は、六花りっかと待ち合わせをしてるから、急いでよ!」

六花りっかちゃん? 彼女も剣の修業をするのか? 確かあの子は田戸蔵たどくらくんたちが稽古をつけていると聞いておったが……」

「それなんだけど、六花りっかは黄色以外のマナも身体に吸収して溜め込んじゃう体質らしくって、シェールストーンを使うことができないんだって」

「なんじゃそれは? そんな体質、初めてきいたぞい」

「ササメさんも知らない現象らしくって、今、詳細を調査してもらってるの。だから六花りっかは見学ってゆうか、わたしの修行の様子を生配信するみたい」

「なんと!!」

「おじいちゃんも、動画に映ることになるけど問題ない? もしイヤだったらカメラの撮影設定で、フレームに収めなくすることもできるけど」

「いや、構わんよ。てゆーか、わしも映りたい!!」


 なんだなんだ? おじぃちゃん、ヤケにノリノリだな。


「あ、あと、撮影するから配信コスチュームに着替える予定なんだけど、問題ない?」

「おお! ロカちゃんの初期コスチュームのレプリカじゃな!! 大丈夫じゃ、問題ない!! よし出かける準備をするかの!!」


 おじぃちゃんは座椅子から立つと、スキップしながら自分の部屋に入る。

 配信コスチューム着ても問題ないんだ。初めて観たときは破廉恥な衣装って言ってたのに……ロカちゃん効果すんごい!

 って、感心している場合じゃない。わたしもはやく着替えなくっちゃ。


 数分後。


「おじぃちゃんー! まだぁ?」


 わたしは玄関でおじぃちゃんを呼ぶ。どうしたんだろう? いつもは『早くしろ!』ってわたしを急かすくらいなのに。


「すまんすまん、待たせたな」


 おじいちゃんは、刺し子の入った濃紺の道着に、同じく濃紺の袴を履いている。


「なに?? そのカッコ」

「なにって、犬飼流剣術の正装に決まっておるではないか」


 なに? なに? いつもはヨレヨレのジャージ姿なのに、今日はやけに気合が入っているな。


「はっはっは! 犬飼いぬかい一心いっしん69歳。ダンジョン配信者デビューじゃわい!!」


 あ、なるほど……つまりは、わたしと六花りっかとおんなじだ。ロカちゃんにあこがれて、おじぃちゃんもダンジョン配信者になりたくなったんだ。


「さあ、ゆくぞ一子かずこ! 裏鬼門うらきもんのダンジョンに出陣じゃ!!」


 わたしは、袴姿で意気揚々と駅に向かうおじぃちゃんの背中を追った。

 

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