第28話 女子高生、おじさんに修行をつけてもらう。

*今回よりしばらくの間、六花りっかの視点でお送りします。


 非常ドアを抜けると、そこは赤い砂が一面に広がる荒野地帯だった。

 ダンジョンから発生する高密度のマナで空間が歪んでいるためだ。


「よし、これからシェルストーンについて色々教えていく」


 今日のアタシはジャージスタイル。稽古をつけてらうおじさん……じゃない田戸蔵たどくらさんもジャージ姿だ。


「さて、ロカから教えるのが上手だと言われたが、あいにく自分にはその自覚はない。完全に自己流の教え方になるがかまわないか?」

「はい。問題ありません。ご指導ご鞭撻べんたつのほどよろしくお願いいたします。おじさ……じゃなかった田戸蔵たどくらさん」

「おじさんで構わん。ロカからも、ロカのチャンネルの配信者からもおじさんて呼ばれてるからな」

「わかりました! おじさん!!」

「よし、じゃあ早速だが……」


 そう言うと、おじさんはポケットの中から黄色いシェールストーンをどりだすと、左手でパキリと砕く。すると……


 しゅううううううううううううう!


 シェールストーンから、黄色いマナがあふれ出してきた。


六花りっかちゃん。この煙を吸ってごらん」


 そう言って、おじさんは煙の立ち込める左手を差し出す。こころなしか、その表情がどこかにやついている。


「うーん……怪しいなぁ。おじさん! 何か罠を仕込んでいない?」

「な!? そんなわけないだろう! いいから早くこの煙を吸ってみろ」

「やっぱり怪しい。動揺しちゃってる。でも、まあいいわ。おじさんの企みに乗っかるとしますか!」


 アタシは、おじさんの手から立ち込める怪しい煙を吸ってみる。すると……


「どうだ? 身体が軽くなっただろう?」

「身体が、軽く……? ううん。特に変わったところなんてないよ??」

「本当か!? まあいい。だったら、クロスボウを引いてみろ」

「無理だよ!! このクロスボウの弦、めっちゃ硬いんだから!! ワンコとふたりでようやくセットできたんだよ!?」

「いいから、だまされたと思って引いてみろ!!」


 アタシはおじさんから言われるがまま、クロスボウのめちゃ硬の弦をひっぱる。


「ふん! ふぬぬぬぬぬぅ……はぁはぁ。ダメ! やっぱり全然動かないよ。うわーん!! おじさんにだまされたぁ!!!」

「? 本当か? 本当に弦を引くことができないのか?」


 なになに? おじさん、めっちゃ驚いてる。


「ウソつくわけないじゃん!!」

「本当か? マジメにやってないだけじゃあないのか?」

「だから違うってば!!」

「こんなこと初めてだ!! ちょ、ちょっと待ってくれ」


 もう、どうして信じてくれないんだろう。

 おじさんは、慌てふためきながらジャージからスマホを取り出す。


「もしもし? 俺だが、六花りっかちゃんの様子がおかしいんだ」


 む! 様子がおかしいって何よ!? ヘンなのはおじさんの方じゃない!! ニヤニヤしながら煙を吸わそうとしたり、むっちゃ重いクロスボウの弦を引かそうとしたり、引けなかったらめっちゃ驚いたり。


「そうなんだ。六花りっかちゃんには、黄色いシェールストーンが作用しないみたいで……ああ。ちょっとこちらに来てくれないか? ああ、お昼寝の途中だったのか、すまない。じゃあ、頼んだぞ!!」


 おじさんはスマホをジャージに収めるとアタシに向きなおる。


「すまない。俺には手に負えそうにないから、ササメに協力してもらうことにした」

「協力?」

「ああ。六花りっかちゃん、君の能力は俺の理解を超えている。通常、黄色いストーンは生命に作用する。黄色いマナを吸うことで、人間の運動能力を飛躍的に向上させることができるんだ。副作用として、そのあと強烈な反動が襲ってくるがな」

「あぁ! さっきニヤついてたのって、その反動ってやつ? なんで最初に教えてくれなかったのよ」

「黄色いストーンのメリットとリスクを、一度身体に覚えさせたほうが早いからな。基礎体力の不足を痛感できるし」

「あ、そう言えば、アタシにも副作用ってあるのかな? メリットなくて、デメリットだけだなんて、悲しすぎるんですけど!!」

「そこなんだが。もうとっくに、効力が切れてもおかしくないんだがな。どこか身体に変わったところはないか?」

「ううん。何にも」

「そうか……これはもう完全にお手上げだな。おとなしくササメを待つことにしよう」


 おじさんは両手を横に広げて『降参』のポーズをとると、赤い砂の地面にどっかと座ってしまった。

 ちぇー。ロカちゃんの師匠だって聞いたから期待してたのに、当てが外れたな……。

 アタシはおじさんの横でちょこんと体育座りをすると、ササメさんを待つことにした。

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