第27話 女子高生、おじぃちゃんに指導を受ける。
魔法陣を抜けると、そこは赤い砂が一面に広がる荒野地帯だった。
ダンジョンから発生する高密度のマナで空間が歪んでいるためだ。
荒野地帯は、身長2メートルまでのモンスターが登場するエリアだ。
モンスターも凶暴性を増し、中でも群れを成して探索者を襲う恐竜型が最も危険なモンスターだ。
遭遇すると命にも関わる危険があるから、素人のダンジョン探索者はほとんど立ち入らない。
わたしも、この前、ササメさんのマンションにつながっているダンジョンで、初めて足を踏み入れた。
「さて、
「えええ!?」
「お前はすでに、
「確かに……」
「じゃが、それはあくまで対人戦のこと。ダンジョン、つまりはモンスターに対してはそれ相応の闘い方が必要になってくる」
「相応の戦い方って?」
なんだろう? モンスターの習性を覚える……とかかな?
でも、おじぃちゃんの答えはわたしのななめ上をいくものだった。
「ドーピングじゃよ!」
「ドーピング!?!?」
ドーピングってあれだよね。スポーツ選手が使うと失格になっちゃうやつ。後遺症もあるみたいだし、そんなもの使っていいの??
「はっはっは。どうやら勘違いをしておるようじゃの。お前にもすで使っておるじゃろう。これじゃよ。これをつかうのじゃ」
おじぃちゃんはジャージのポケットから、キラキラした宝石のようなものを取り出す。
「そうか! シェールストーン!」
「そう。人間とモンスターでは、身体能力に大きなへだたりがある。そのハンディキャップに対抗するために、シェールストーンを砕き、そこからあふれるマナの力を借りるのじゃ。赤で炎、青で冷気、緑で風と雷、そして白のシェールストーンで、刀身を鋼と化す。このようにな!!」
おじいちゃんは白いシェールストーンを空中に投げると、バスタードソードを鞘から抜いて、目にも止まらぬ速さで両断する。白いシェールストーンからは溢れだすマナは、瞬く間にバスタードソードに吸い込まれていって刀身が
「そうれ! 試し切りじゃ!!」
おじいちゃんは、歳を感じさせないフットワークで身の丈10メートルくらいの赤い岩山に駆けよると、上段に構えてバスタードソードを振り下ろす。すると、
ズ……ズズ……ズズズズズ……スドーーーーン!!
「ええ!?」
赤い岩山は、てっぺんから斜め45°に両断される。
どういうこと????
「はっはっは。これが白いシェールストーン、そして『表現の星』の力じゃよ」
「ちょっと何言ってるかわからない」
「ふむ、では段階的に説明することにしよう。まずは白いシェールストーンの力。これはお前も理解しとるじゃろう」
「うん。白のシェールストーンは金属に作用する」
「そう。剣術を攻撃手段とするわしらにとって、白のシェールストーンは勝手が良い。普段の稽古の成果を、そのままモンスター相手に活用できるからの。でも、それでは、人ほどの身丈の相手にしか通用せん。ダンジョンの深層には、10メートルを超える巨大モンスターもはびこっておるからの。その穴を『資質』」で補うことになる。ササメくんから聞いたが、
「うん。
「何を隠そう、わしも『表現の星』の持ち主じゃ。ササメくんの予想通り、どうやら潜在能力は遺伝的な要因が強く絡むようじゃのう」
なるほど。つまり、シェールストーンの扱い方もおじいちゃんから技の手解きを受ければいいってわけか。
「よし、さっそく実践じゃ。この剣を使ってみるが良い」
わたしは、おじぃちゃんが手渡してくれたバスタードソードを手に取る。
「うわ! これ、結構重くない?」
「うむ。市販品とはシェールカーボンの濃度が段違いじゃからのう。とはいえ、重量は真剣と大して変わらん。
「うん。それにしても量産品モデルとくらべると色々違うね。鞘に入ってたし……あれ? シェールストーンを砕くカードリッジがないよ??」
「ふむ。このバスタードソードを作ってもらったのは17年前じゃからの。まだカードリッジの規格化がされておらん頃じゃ。まあ細かい違いは後で説明するから、試し切りをしてみなさい」
そう言って、おじいちゃんは顎で赤い岩山を指す。
「えええ? いきなり?? コツとか何か教えてくれないの???」
「ふうむ……そう言われてものう。強いて言えば「伸びろ!」と強く念じることかのう?」
「え? そんなザックリな感じでいいの」
「素振りと同じじゃよ。「伸びろ! 伸びろ!」と、心で唱えつつ精神を統一し何千何万とバスタードソードを振っておったら、いつの間にか伸びるようになっとったわい。それが剣の道、修行というものじゃ」
「そんなぁ……」
うーん。もっとパパッと使いこなせると思ったんだけどな。でもしょうがない。剣の道に近道がないように、マナを使いこなすことにも近道はないんだろう。
「えい! やあ! えい! やあ!」
わたしは、赤い岩山の前に立つと、ちっとも伸びる気配のないバスタードソードを、両腕がへなへなになるまで延々とふりつづけた。
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