第6話


スウェルド帝国の屋敷での生活はとても快適なものだった。こちらに来てから1週間が経ち、少しずつ生活にも慣れてきたのだ。今までの生活とは違い、テル以外の侍女もミリューユを慕ってくれていた。ミリューユは見た目よし中身よしの少女なのだ。トワン王国の王城では、ミリューユの能力が悪いように脚色され、広まってしまった。ここの人達はなにも知らないから...知ったらすぐに離れてしまう....アルハイル様も。そう思いながら、ミリューユは窓の外を見つめた。


「いい天気ですよね〜。そろそろ街に行ってみたいですね、姫!」


ミリューユが窓の外を見つめていると、テルが近寄ってき、そんな提案をしてくれた。ミリューユも、ずっと屋敷にいたため少し外が気になっていたのだ。

そうと決まれば話は早い。早速執事さんを呼ぼう。


「構わないですよ」


執事さんは二つ返事で許可してくれた。大人数で行くと目立ってしまうから、今回はミリューユ、テルと執事の3人で行くことになった。



◇◇◇


「見てください!!このドレス屋さん、とても素敵じゃないですか?!絶対姫に似合うと思います!」


テルは大はしゃぎだ。街はトワン王国と同じ、いやそれ以上に賑わっていた。ミリューユはまともなドレスは、デビュタントで使用したあの地味なドレスしかない。新しいドレスを新調する必要があった。


「ここのドレス、少し見てもいいかしら」


ミリューユが執事に問うと、彼は一緒眉をひそめたが、すぐに許可してくれた。


店に入ると既製品のドレスがたくさん並べてあった。どのドレスも綺麗で、流行りの最先端のものだ。

さすが流通の中心と言われた国である。

トワン王国が今では中心だが、ミリューユは街に出たことな無い。あの国も同じようなものなのだろうか。

ミリューユは婚約者となるアルハイルの帰りを迎える日には、せめてまともなドレスを着ようと思い、既製品の中から選ぼうとした。が、選び始めた時に、執事から声をかけられた。


「ミリューユ様。なぜ既製品から選ばれるのですか?」


彼の目はまるでこちらを試すような、そんな目をしていた。彼は何を考えているのだろうか。分からないから正直に答えることにした。


「私の所持金はそんなに多額ではないので。オーダーなんてできないのです。既製品の中でもできるだけ値段のしないものを選ぼうと思っています。」


ミリューユは彼と向き合い無機質に答える。

執事はミリューユの発言に少し驚いた顔をしたが、その後すぐに安心したような笑みを見せた。


「アルハイル様から頂いたお金があります。それでオーダーしましょう。」


その後3人で、色やデザインを考えながらオーダーした。ミリューユは1着だけの予定だったが、執事からのアドバイスにより、3着オーダーすることになった。どれだけのお金を預かっていたのだろう.......。



◇◇◇


オーダーしたドレスは1週間後に届いた。どれも綺麗で、刺繍も細やかな、とても上等なドレスだった。3着ともデザインは全然違うが、どれもミリューユにとても似合っていた。


「やっぱり姫は元が素敵ですもの!!!今日はこれを着ませんか!!特に何も無いですが、新しいドレスがあるなら着てみたいじゃないですか!!」


「そうね、それを着ようかしら.....え?」


テルが差し出してきたのは、アルハイルの髪と瞳の色に合わせたドレスだった。一生袖を通すことはないだろうと思っていたものだ。


「テル、それはだめだわ。他のものにしましょう」


「えー!でも姫、そろそろ、いつアルハイル殿下が戻ってくるか分からないのですよ?!今日着ていたら、帰ってきてくれたりして...!」


「尚更嫌だわ.........。」


ミリューユはこの国を荒らすために送られたのだ。アルハイルに好かれようとするなんて以ての外である。

だがテルの押しはすごく、最終的にそのドレスを着ることになった。


「姫!!!とても綺麗です!!!!青のグラデーション、とても綺麗です!!アルハイル殿下の髪の色のようで!」


この国では、上が白、下にかけて婚約者の髪の色のグラデーションというデザインが流行っているそうだ。

意味は、あなたに染まっていっています。だそう。つまり、ほとんど会ったことないアルハイルに、このドレスを見せる訳にはいかないのだ。ミリューユ自身、全く染まっていないし。


仕上げにテルが赤い髪飾りを付けてくれた。ミリューユのストレートで美しい白い髪に、赤い髪飾りは映えていた。

そんな姿を見て、テルが大はしゃぎしていると、急に使用人に呼ばれた。


「ミリューユ様!!!すぐに、応接間へと!!!そちらの執事.....さん.......様?もお願いします!!!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る