第5話
父からの内容は至ってシンプルだった。
とても簡単に要約するなら、明日ここを立ち、スウェルド帝国に向かえだそうだ。かなり話が急だが、ここにいても虐められるだけだし、出る準備も、ドレスなんてほとんど持っていないからすぐ終わる。何も問題もなかったため、二つ返事で了承した。その後父は退出し、応接間にはミリューユとアルハイルの2人だけになった。
「ミリューユ様、もうひとつお願いがあって.....。」
「なんでしょうか。」
「ミリューユ様は侍女を何人お連れするつもりでしょうか。」
「侍女、ですか.....。もしそちらで雇っていただけるのでしたら、こちらからは誰も連れていかなくて結構です。」
ミリューユがそう口にすると、アルハイルが驚いたような顔をした。ミリューユからすれば、この王城に信頼出来る侍女なんて、テルしか居ない。だが彼女はずっとミリューユに着いてきてくれたのだ。今回も来させるのは気が引ける。そろそろ自分の好きにしてほしいのだ。
「ミリューユ様は、見知らぬ土地に1人で来るのに恐怖などはないのですか?侍女を誰も連れて行かないと言われるとは思っていませんでした。貴方は歳の割に御心は大人びているようです。ですが、無理に強がる必要はないのですよ?」
「本心ですので、御心遣い感謝いたします。」
ミリューユはまた無機質に答える。ミリューユは14歳。普通の令嬢であればまだ周りに甘えたい年頃だろう。だからこそ、アルハイルの目には、彼女はただ強がっているだけのようにみえたのだ。
「そういうのであれば、こちらで用意しましょう。
それともうひとつ。私は戻ってすぐ公務があるので、御一緒出来るのは途中までとなります。1ヶ月以内には終わると思うので、終わり次第戻らせて頂きます。」
「アルハイル殿下とは、1ヶ月ほど別で暮らすのですね。わかりました。お戻りになられるまでに、スウェルド帝国の作法などを身につけておきます。」
また歳に似合わぬ発言をするのだな...アルハイルはそう感じた。実はアルハイルは一度婚約に失敗しているのだ。帝国の皇子としてはあってはならぬ事だった。だが、相手が相手だったのだ。その時の婚約者は少しわがままで甘えてくる人だった。その人との正反対っぷりに少し、彼は困惑した。
◇◇◇
「もうすぐで到着です。」
長いこと馬車に揺られていたが、どうやらもうすぐで到着するようだ。予定通り、アルハイルとは途中で分かれた。これから1ヶ月、1人で見知らぬ土地で過ごすとなるとさすがのミリューユも思うところはあった。だが、1人でだったらの話だ。
「姫!!見てください!!!とても大きな御屋敷です!!!」
「テル、身を乗り出しちゃ危ないわ」
昔からミリューユの世話を続けていたテルは、今回も着いてきた。姫を1人にしたくないと言って無理やり着いてきたのだ。ミリューユとしては、もう彼女とは雇用関係をきり、自由に生きて欲しいと願っていたが、そう簡単にはいかないらしい。誰にも何も言わず、ひっそり家を出ようとしたところ、テルに泣きつかれたのだ。自分が力不足だったのかと泣きわめくものだから、連れてくるしかなかった。だがテルはとても優しい人である。着いてきてくれて心強かった。
ミリューユたちが案内されたのは、立派な屋敷だった。だが帝城ではないようだ。さすがに警戒されてるのかなと感じ取った。
「ようこそいらっしゃいました。ミリューユ様」
屋敷に入ると男性の執事のような人が迎えてくれた。
だが彼はなんというか、少し幼い見た目をしていた。
この人の赤い瞳.....どこかで見覚えが.......。
どこかで見た気がするが、思い出せなかったから、その疑問は心の奥にしまった。
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