第4話
突然開け放たれた扉に会場がざわめく。
この国でそのような無礼、王族以外の者が行えば、すぐに罰が降りるだろう。だがその男性は悠々とした足取りで真っ直ぐこちらへ向かってくる。美しい仕草に誰も彼を止めることができず、そのまま、ミリューユの前にたどり着く。
ミリューユはこの人誰だろう。程度だったが、周りの者たちは大慌てである。仮にも彼女は第一王女。その身に何かあっては一大事である。
「あなたがミリューユ第一王女様でしょうか」
「はい。」
ミリューユは微動だにせず答える。するとその男はミリューユの前に跪いた。
「私はスウェルド帝国第二皇子、アルハイルと申します。急な訪問、お許し頂きたい。」
「トワン王国第一王女のミリューユです。」
ミリューユは慌てることなく綺麗なカーテシーを披露した。他国の王族が顔を合わす機会など、ほとんどない。会場はザワついたままだった。
「もうすぐダンスの時間のようですね。ミリューユ様。私と1曲、踊っていただけませんか?」
アルハイルは美しい仕草でミリューユの前に手を出した。だが、その手は少し震えていた。会場の人には背中しか見えていないため、その手の震えは、ミリューユにだけしか見えなかった。ここでミリューユが断ってしまえば、スウェルド帝国の名に傷がつくだろう。アルハイルはミリューユに断られるかもしれない、そう思い震えているのだと、ミリューユは悟った。
「はい。」
ミリューユはそういいながら彼の手を取る。アルハイルは安心したかのように、にかっと笑いミリューユをエスコートした。その笑顔は、先程までの威厳さは感じられず、年相応の少年のように感じた。
◇◇◇
周りからすごい視線を感じながらも、デビュタントは無事に幕を閉じた。その後、王城の応接間へ来るように言われたため、ミリューユは大広間から少し歩いたところにある応接間へ向かった。
「お義姉様。お待ちくださいませ!」
一筋縄では行かないようだ。ベリアンヌが何の用だと思い振り返った。と同時に胸元を掴まれた。
「あの殿方は誰ですの?!まさか婚約なさるのでしょうか?!わたくし、聞いていませんわ!あんなに綺麗な方、お義姉様には釣り合いませんわ!!!わたくしに、くださらないかしら?」
ベリアンヌはものすごい剣幕で捲し立てる。ミリューユからしたらどうでもいい事だが、父の決定であり、あのスウェルド帝国との和解の印なのである。(ほぼ人質みたいなものだが)簡単に渡すなんてことは出来ないだろう。
「ごめんなさいねベリアンヌ。それは父の決定に背くことだから、できないわ」
「なによそれ!!それはお義姉様の意思ではないじゃない!!!何でもかんでも、父が言ったからなんて言って!!!!お父様に愛されているのはわたくしなのに!!!わたくしの前でお父様の話をしないで!!!目障りなのよ!!!!!」
ベリアンヌは大声で叫ぶ。そしてどんどん、ミリューユの首元を持つ手に力が篭もる。ミリューユとベリアンヌは同い年だが、まともな食事も出来なかったミリューユと、裕福に暮らしてきたベリアンヌでは、体格差があった。ミリューユの力では振り払うことはできない。周りの者に助けを求めようとするが、みなベリアンヌ側の者なのだろう。目を伏せており、助けてくれる気配はない。はぁ、いつまでこうしていればいいのだろう、そう思っていると、遠くから聞き覚えのない足音が聞こえてきた。
「そちらの方々は何をしておられるのだろう。」
その足音と声の主は、アルハイルだった。
ベリアンヌはアルハイルの姿を見ると、急に人が変わったのかのような行動に出た。ミリューユの胸元を掴んでいた手を離し、ミリューユを背後に隠すようにしてアルハイルに話しかけ始めたのだ。
「貴方はアルハイル殿下でいらっしゃいましたか?
とても素敵な殿方ですわ.....!それにこの高価なお召し物.....公爵あたりのお方でしょうか?わたくし、ベリアンヌと申します!今からお茶でもどうです?」
この子.....ほんとになにやってるのかしら。
スウェルド帝国に対する侮辱、以外にどう捉えろというのだろうか。一国の王族を公爵扱いだなんて.....。
「失礼ですが、私は公爵ではありませんよベリアンヌ様。あと、お茶は結構です。貴方の後ろにいるミリューユ様にお話しがあるので。」
そういうとベリアンヌの前を通り過ぎ、ミリューユの前に手を差し出した。
「立てますか」
「お気遣い...ありがとうございます...」
ミリューユはアルハイルの手を借り、立ち上がった。
そしてそのまま彼にエスコートされるがままに、応接間に向かった。
応接間には父である国王が既に座って待っていた。
「遅かったな、ミリューユ」
「お待たせしてしまい、大変申し訳ございません。」
「いいや、大丈夫だ。今から大切な話がある。」
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