第3話
「...そんなに驚くことかしら?」
「驚きますよ!!!姫にはまだ婚約なんて早いです!」
ついさっき、デビュタントで婚約者を探せと言ってたのに、婚約は早いだなんて.....結局どっちなのかしら
ミリューユは少し考えたが、婚約は決まってしまったことだから仕方がない。そう割り切ることにした。
デビュタントまでの日を王城で過ごすことになったのだが、そうのんびり出来るものでは無かった。マナーの講義、ダンスのレッスン。覚えることはたくさんだった。だがミリューユは物覚えがよく、普通の2倍のはやさで、その全てを終わらせた。
「お義姉様?!どうしていらっしゃらなかったのですか?!」
夕食の時間の後、義妹が部屋に押しかけてきた。部屋と行っても、客室なのだが。原因はおそらくあれだろう。夕食に呼ばれたが、義母と義妹が不快に思うだろうと思い断ったのだ。だが、その断るという行為が彼女の癪にさわったのだろうか?よく分からない人である。どの行動をとっても彼女はミリューユを罵るのだろう。そしていつものように可愛らしいいじめをして、部屋を出ていった。
「姫、言い返しましょうよ〜」
「言い返す必要、あるかしら」
「私が悔しいです!!!」
テルは昔から少し気の強い少女だった。今回もやり返したくてたまらないのだろう。だがミリューユは決して仕返しなどしなかった。
◇◇◇
「姫!お綺麗です!!」
今日はデビュタント当日。テルが気合いを入れてミリューユの身だしなみを整えた。ミリューユはもとの顔がいいため、渡されたドレスが地味でも、周りの令嬢に負けないくらいに美しかった。それどころか、地味なドレスが更にミリューユの顔の美しさを引き立てていた。
ミリューユの髪は、幼い頃に感情を失うと共に、色を失ってしまった。元は美しい金色の髪だったが、今では真っ白だ。だが、何のくせもなく真っ直ぐに伸びた白い髪はとても神秘的であった。
「姫の青い瞳にはやっぱりこの宝石ですね!!!」
そう言いながらテルが出してきたのは、母の形見であり、とても希少価値の高い、淡いピンク色の宝石、ヴェイリネナイトだった。とても希少価値の高い宝石なのに、イヤリングとネックレスがミリューユの手元にある。母はきっと、とても愛されていたのだろう。母の瞳はこの宝石の色に、とても似ていた。
◇◇◇
「遅かったですわね、第一王女殿下。」
アベリエールはとてもキツイ赤色のドレスを身にまとい、ミリューユを見下すように話しかけた。
「今回の主役は貴方ではないのです。覚えておいてくださいまし。...あら?そのイヤリング。とても高価なものみたいですわね。わたくしに譲っていただいてもよろしくて?」
アベリエールはとても宝石が好きだった。一目見ただけで価値もわかるみたいだ。すぐにミリューユの宝石に目をつけた。だがミリューユも、そう簡単に母の形見を渡す訳にはいかない。
「お譲りできません。無理やり奪ってもよろしいですが、貴方の身に何が起こるか、保証はできません。」
ミリューユは自分の能力、体質が嫌いであったが、アベリエールはこの能力を恐れている。脅しに使うには最適だ。彼女はすごく嫌そうな顔をしながら身を引いた。
「第一王女殿下、第二王女殿下。会場の準備が整いました。ご入場をお願いします。」
使用人に呼ばれ、ミリューユは大広間の扉の前に立つ。その隣には、勝ち誇ったような顔をしたベリアンヌが立っている。彼女も、アベリエールと同様、キツイ色のしたドレスを着ていた。化粧もとても奇抜で、とにかく目立ちたいようだ。
しばらくすると扉が開き、2人のデビュタントが始まった。
◇◇◇
ミリューユに挨拶する者はほとんどいなかったため、彼女はずっと、舞台の上の椅子に座っていた。本当ならば、色々な人と交流し、気になった殿方何人かと踊るのだ。ベリアンヌは既に何人かと約束しているようだ。
(私は婚約者が決まっているから必要ないわ)
そう思い座っていたが、ある事に気がついた。
(婚約の発表、されてないわ)
まだ発表されていないということは、ミリューユが誰とも踊らないというのは常識知らずと思われる。だが、誰かと踊った後に、婚約していたと言われれば、婚約しているにも関わらず、他の男と踊った常識知らずと思われる。つまり、どっちに転んでもミリューユは責められる。
(まぁ責められてもどうともないから、踊らなくていいわ)
そう思い、ミリューユは椅子に座り前をじっと見つめていた。すると、その目線の先にあった、大広間の扉が勢いよく開いた。
そこから現れたのは、とても綺麗な男性だった。
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