第2話
「来月って、姫の誕生日ですよね...」
この離宮に来て半年が経った。何事もなく平和である。でも本当に何事もないのだ。誰からも連絡がなく、デビュタントを控えているはずだが何の連絡もない。ミリューユはこれでも一応第1王女なのだ。14歳の誕生日でデビュタントをしない王女など、前代未聞だろう。
「私は社交の場にでる予定もないから、いいのだけど」
「だめですよ姫!!デビュタントをしないとお友達も、婚約者も出来ないのですよ!!」
「デビュタントをしてもしなくても、私は呪われた子だから、どうせ友達すら出来ないわよ」
「よくわかっていますのね!!!!」
勢いよく扉が開いた。そこから現れたのは13歳くらいの少女だった。歳に似合わぬきらびやかなドレスを来ていて、どこかアベリエール王妃の面影を感じる。
「初めましてお義姉様!わたくし、アベリエール王妃の娘、第2王女のベリアンヌですわ!!」
「あら、私、妹がいたのね」
「反応薄いですわね!!!」
ミリューユは家族と過ごした日はほとんどない。義妹が居ようが関係ないのだ。
「それで妹さん、こんな離宮になんの御用かしら」
「あ、そうでしたわ!」
義妹から告げられた内容はこうだった。
2ヶ月後にベリアンヌの誕生日があり、その時にデビュタントを2人まとめて行う。
つまり、ミリューユは完全にオマケである。
「お義姉様は第1王女ですが、今は正妻であるアベリエールお母様の娘のわたくしの方が位が高いのですわ!」
「あら、そうなのね。」
「だから反応が薄いですわね!何か、悔しいとか悲しいとか、感情はないのでしょうか!!」
もちろんミリューユは何も感じなかった。ただ知り合いが増えただけ、そんな感覚だ。
「感情...?そんなの、とうの昔に忘れました」
「なっ.....!」
ベリアンヌはミリューユが泣き喚くか、怒るかすると思っていたのだろう。想像とは全く違う反応をする義姉に怒りが込み上げてきた。
わたくしが1番なのに。どうして思いどうりにならないの。他の事は思いどうりになるのに。
愛されて育った少女は見事に自分中心になっていた。自分の思いどうりにならないなら無くなってしまえばいい。そう思った。そして、義姉を虐めるようになった。
◇◇◇
「姫ぇ〜!今日の為に用意していたお洋服が切られています!!」
「あら、またベリアンヌね。可愛い妹だわ」
「可愛くないですよぉ」
ベリアンヌの虐めは実に幼稚なものだった。急に現れて罵声をあびせてきたり、ミリューユの物を傷つけたり、その程度だ。普通の人なら少しは傷つくだろう。だがミリューユは虐められても何も感じない。このときミリューユが感情をもっていたら、王宮は存在しなくなっていたかもしれない。彼女の能力は歳を重ねるごとに強くなっていたのだ。それは彼女自身でも実感していた。ただ、感情のない今は能力が発動する恐れもない。今後も、ないだろう。
そしてベリアンヌによる虐めは、デビュタントの日まで毎日続いた。
◇◇◇
「久しいなミリューユ」
「はい、お父様。お久しぶりでございます。」
王宮の中でも1番広い部屋、国王への謁見を行う広間で、親子にしては堅苦しい会話が続いていた。
「実はお前に縁談が来た。」
「縁談...ですか...」
「あぁ、隣国のスウェルド帝国の第2皇子だ。」
「スウェルド帝国といえば、我がトワン王国と長年敵対関係にあったはずではないのですか。」
スウェルド帝国は世界の流通の中でもトップで、中心と言われ続けていた。しかし50年前、トワン王国が急激な経済発展を遂げ、スウェルド帝国から流通の中心を奪ってしまったのだ。
それ以降は醜い争いが続いている。
「今回はその和解の意として、我が国の第1王女であるミリューユ、お前をスウェルド帝国に送ることになった。」
「わかりました。」
「素直でよい。だが、和解というのはただの建前だ。今から流通の中心を譲るなんてことはせん。そこで、だ。お前はあの帝国に潜り、その醜い能力を使い、スウェルド帝国を荒らしてきてほしいのだ。わかるよな?」
このときにミリューユは全てを理解した。
やはり私には普通の生活は手に入らない。
皆から嫌われ、虐められ、捨てられ、次は利用されるのだ。
だけど、何も感じない。
「6年振りだったか.....今見るとエルにとても似ている」
エルとはミリューユの母親、前王妃のエルリのことだ。ミリューユは母親譲りの白い綺麗な髪に透き通る青い瞳をしている。
「アベリエールは、お前が感情の制御が出来ないから離宮に移したと言っていたが、今は大丈夫そうだな。明後日のデビュタントまでは王宮で過ごしなさい。準備もこちらが進めよう。」
そうして、ミリューユは2日間王宮で過ごすことになった。
◇◇◇
「姫、このドレス、なんというか、地味じゃ無いですか?」
「まぁ私はオマケみたいだから」
ミリューユに渡されたドレスはどう見ても流行りのものではなく、飾りもデビュタントに使うドレスにしては質素だった。
「姫には絶対ピンクとかが似合いますのに!!どうしてこんなうっすい青のドレスを...!胸元ももう少し空いてていいのに!!」
テルはミリューユの分まで怒ってやろうという勢いで怒っていた。
「私は目立ちたくないので、こんなものでいいです。」
「だめですよ!!!デビュタントで地味な令嬢に婚約を申し込む方なんて...!」
「私、婚約者が決まったみたいよ」
「え?」
どうやら初耳だったようだ。テルは信じられないとばかりに口を開いている。
「ひ、姫が、婚約...っ!」
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