感情を忘れた令嬢ですが、隣国の第二皇子に溺愛されました。
らい
第1話
「あの女、こんなガキを残して死ぬなんて...。しかも彼女を殺したのがこのガキなのでしょう?信じられないわ。」
派手なメイクに派手なドレス。見るからに位の高い女性が、質素な服を着た幼い子供の前で声を荒らげている。
「そんなに質素な見た目をして、虚しくないのかしら?第1王女殿下?わたくしはあの女の子どもなんて見たくもないの。そうね、もうそろそろ虐めるのも飽きてきたわ。あの廃れた離宮にでも移しておきなさい。」
「し、しかしアベリエール王妃殿下...!」
「使用人ごときがわたくしに口答えするのかしら?身の程を弁えなさい。」
王妃とは思えないような態度で使用人の反対を押し切ろうとする。
10年前、正妻であった王妃はミリューユの能力により亡くなってしまった。そして1年前、側室の中で1番寵愛を受けていたアベリエールが王妃となったのだ。
「わかりました」
王妃と使用人が言い争っていると後ろから少し高い、鈴のような声がした。
「あら、物分りがいいじゃない。ほら早くなさい。」
王妃は汚いものを見るような目で少女を見て去っていった。
「いけません!ミリューユ姫!!国王様もこのようなこと、本当は望んでおられないのです。どうかお考え直しを...!」
「いいのです。私は、呪われた子なので。」
使用人は泣きそうな顔をした。
ミリューユはなんとなく分かっていた。お父様はこんなことしろなんて言わない。きっと、あの王妃に誑かされているのだ、と。
しかし別に悲しくもないし怒りがこみ上げてくるわけでもない。別に、なんとも思わない。
◇◇◇
ミリューユはすぐに離宮に移った。そこは長年手入れされておらず、とても暗くて、綺麗とは言い難い場所だった。
「ミリューユ姫、まずはお掃除、しましょう!」
唯一ついてきてくれた使用人のテルは16歳の女性だった。彼女は庶民の出で、両親を幼い頃に亡くし、弟と妹を養うために使用人として働いているのだ。ミリューユは彼女の妹と歳が近く、どうしても世話がしたいとついてきたのだ。
「ミリューユ姫は悲しくないのですか?」
掃除をしながら、テルは呟くようにミリューユに聞いた。
「悲しくないです。それに、私が悲しいなんて思ったら、なにが起こるか分からないですから。」
ミリューユは遠くを見るように呟く。
「私、感情によって環境を変えてしてしまうのです。悲しいと思えば大雨が降り、強く怒ると雷が落ち、辛いと思えば周りの大地が荒れ果ててしまう。こんな能力を持った私が、心を動かしてしまうと何が起こるか分からないですから。母が居なくなったあの日から、感情なんて捨ててしまいました。」
「ミリューユ姫.....。私はなにがあってもお傍を離れませんから!!!」
テルはいきなり泣きながらミリューユに抱きついた。姫の分まで、私が泣いてあげよう。そう思いながら。
◇◇◇
離宮に来てから1ヶ月が経った。人の出入りはほとんどなく、基本ミリューユとテルの2人だけで生活している。外出も許されていないので、ほぼ幽閉状態である。
「ミリューユ姫はほんとうに愛らしいですね!4年後のデビュタントが楽しみです!!」
「あら?私のデビュタントは1年後よ?」
その瞬間、部屋に沈黙が流れた。
スワン王国では、15~17歳の貴族女性はデビュタントをすることが義務付けられている。
しかし王家のものは14歳でデビュタントを行うと決まっているのだ。
「え?姫、今一年後って.....。え?13歳なのですか?こんなに細くて小さくて.....本当に13歳なのですか?!」
「そうですよ...。今まで何歳だと思われてたのですか?」
「すみません...10歳くらいだと.....。」
ミリューユはとても13歳とは思えない容姿をしていた。正妻が亡くなってから国王はショックで塞ぎ込んでしまった。そしてミリューユは、王妃を殺したと、呪われた子と言われ使用人からも離れられ、まともな食事すら出来なかった。アベリエールが王妃となってからはもっと酷かった。そのおかげでやせ細ってしまっていたのだ。
「姫.....。お腹が空いて、辛くなかったですか...?私はとても...ぐすっ、辛いです。」
「私はなんとも思わないわ。だから泣かないで。」
そう、私はなんとも思わない。何も思わないようにしないと。全部心の中に隠して、しまい込んで置かないと。
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