52 害獣駆除のお仕事依頼
◆◆◆
「……というわけだ。
「分かりました……でもそういう事なら
アリアの装備の新調に来たはずが、ここにいるとは思いもしなかった
依頼の内容は牧下兵装にいるであろうスパイの存在の拿捕だ。
会長の読みでは、協会内部にもいるこの状況なら、装備会社の最大手であり、そのトップが会長や特級などと親しい人間である牧下兵装にはスパイが紛れている可能性が十分にある、らしい。
とりあえず依頼の内容は分かったが、確実を期すなら間違いなく帆鳥先輩を連れてきた方が良い案件だ。
そう思って尋ねるが、会長は難しい表情をしている。
「いや、協会内部にどの程度のネズミがいるかも分からん。
先日立てた対策本部の者は基本的にないと考えているが、確実にありえないと言える人物は
私は今回抜けだすにあたりわざわざ影武者まで立ててくる程度には協会内部を疑っているのだよ。
その状況では個人的な連絡すら避けたかった」
一応会長の言っていることには納得できる。
とはいえ、連絡を取る手段は別に一つではない。
協会に潜む内部犯を考慮してもいくつかの方法は俺でも思いつく。
それでは帆鳥先輩を呼ばない理由としては弱い気がする。
そう訝しんでいると会長はひげを撫でながら有無を言わせない低い声で告げる。
「確かに特級の面々はすさまじい戦力だ。
ただ、だからこそ、そのカードの切りどころは慎重に選ぶべきだ。
確かに今回の件は初めてのネズミの確保となる大事な場面だ。
まだ捉えきれない奴らの影を掴むためにもここが大きな分岐点となるだろうし、そこに特級のカードを切るべきだという考えも理解できる。
だが、敵の諜報力が分からない以上
「っなるほど……」
そう言われるとこちらからは何も言えない。
確かに敵の諜報力が分からない以上こちら側で素性が割れていないはずの帆鳥先輩を出して万が一があるのは危険なのかもしれない……
スパイは捕えたが、帆鳥先輩の情報を何らかの方法で伝えられる、なんて事態になればまずいだろう。
すでに状況は以前までとは違う。
白黒魔石の調査に先輩を使えてた時期とは違い、今は明確に敵の存在がある。
ならば、可能な限り帆鳥先輩のカードは温存しておくべきだろう。
先輩はいうなればジョーカーのカードなのだ。
しかし……俺だけで対応しなければいけないとなると、それはそれで万が一が怖い。
そんな悩む俺を見て会長は目を細める。
「それに、だ。
今回の件は友禅君より君の方が適任だと私は考えている」
「……え!?」
どう考えてもそんなことはないだろう。
何においても俺が帆鳥先輩に勝っているところなんてない。
その程度のことは会長ならわかっているはずだ。
頑張って考えてみても、せいぜいが料理の腕前くらいしか勝っているところが思い当たらない。
料理の腕前が今回の依頼の成否に関わってくるとでもいうつもりなのか?
訳が分からず戸惑う俺を見て会長は呆れたように口を開く。
「確かに彼女の勘は鋭い。あれには協会も何度か助けられた。
ただ、相手がネズミなら話は別だ。
相手が嘘をついているかどうかを判別する点においては、おそらく君は他の追随を許さないほどの洞察を誇る。
そうだろう?」
あ、あったわ……
そういえばあった。
会長に言われるまで正直失念していた。
確かに他人の嘘を見破ることは得意だ。
俺は大勢の人の前で嘘をつく必要があったからこそ、その嘘が見破られないように対策を立てるべく、嘘を見破る方法についても詳しく学んだ。
おかげで俺の嘘は見破ることが難しくなった。
そして、その過程で逆に他人が嘘をついているかどうかを見分けられるようになったのだった。
確かにその分野に関してなら俺は先輩よりも高精度だろう。
先輩でも大抵の嘘は見破れるが、あれは先輩の勘に頼ったものだ。
ごくまれにだが、先輩にも嘘が通じるときはある。
だが、俺にそういったはないと言っていい。
ほぼ確実に見破れる自信は……ある。
少なくとも今までは嘘をつかれてもすぐに分かった。
「以上のことから、友禅君を敵のネズミの前に出すリスクを考慮すれば、君一人に任せる方が良いと判断したわけだ」
「りょ、了解です……」
ぶっ飛んだ依頼内容ではあったが、それを俺一人に任せる意味も何とか納得できたので、頑張って声を絞り出す。
「ああ、頼んだ。大吾郎、タイミングは任せたぞ。
では、私は協会で吉報を待つとしよう」
そう言って会長は席を立って、出口まで向かう。
途中で会長の姿が認識しづらい感じになったが、おそらくスキルか、もしくはなんらかの道具の効果によるものだろう。
会長はそこまでして俺に直接頼むためだけに一人でここまで来たのだ。
ならば、その覚悟にはこちらも答えなければいけない。
両手で頬を叩いて気合を入れる。
「フゥーーーー。よし、やるか!」
―――――――――――――――
会長が出て行ってすぐに装備の点検を済ませて、大吾郎さんと共に建物を出る。
その移動の道中でいろいろと事情を聴いた。
まず、現状で怪しいと思われる人間は六名。
ただ、その六名が牧下にいる期間は長い。
中には立ち上げから一緒のメンバーもいるらしい。
当然、その全員が魔石を活用した装備や道具に対して並々ならぬ情熱を持っている人たちだし、牧下の中でも高い技術力を誇るメンバーらしい。
それに加えてこの人物たちは牧下に来る前の経歴もハッキリとした人たちばかり。
一見するとスパイである要素が少ないように思えるが、大吾郎さん曰く、いるとすればこの中の六人のうちだれか、もしくは六人全員がスパイらしい。
どうやってスパイかどうかを判断したのか分からないが、この人は人を見る目がある。
じゃあなんでスパイが紛れてんだ、とも思わなくもないが、いったんは大吾郎さんの言っていることが正しいという前提で動くことにする。
「で、その六人は今はどこに?」
「ああ、そいつらとはもう会ってるぞ。今日お前らを出迎えた連中がそうだ」
「…………へ?」
一瞬思考が飛んだ。
ついさっき会った出迎えの職員たちがスパイの可能性がある?
彼らと俺が別れたのはアリアへの装備についての説明をする時だ。
それはつまり……今アリアの装備についてあれこれ説明して、おそらくその後演習場を使って試着テストさせたりしている面々の中にスパイがいるという事になる。
自分の前を歩くおっさんの正気を疑ってしまう。
いや、普通この状況でアリアを囮に使うとかする?
やっぱりこの人も十分にイカれてる気がする。
「はぁ~、なんだか失礼なことを考えてそうな気配がするが、安心しろ。
向こうには
仮に六人全員クロだとしても嬢ちゃんは安全だ」
「…………!?あの横にいた女性、一華ちゃんだったんですか!?」
「おう、だから安心しろって。それよりお前はお前の仕事のことを考えとけ。
俺も色々フォローはしてやるが、メインは任せるからな!」
最後に会ったのはいつだったか……
すっかり成長していて気づかなかった。
だが、そういう事なら確かにアリアも大丈夫だろう。
彼女は技術者ではあるが同時に数々の迷宮を攻略した探索者でもある。
急に来る異常事態の対応ならならアリアよりも経験があるだろう。
例えアリアがスパイの誰かに不意に襲われる事態になったとしても彼女がそばにいるなら大丈夫だ。
とりあえずは大吾郎さんに言われた通り、今は自分の仕事に集中しよう。
動揺して緩んだ気を引き締め直す。
駒場会長も言っていたが、ここは重要な場面だ。その自覚をもって適度に緊張した状態まで心と体を調整する。
焦らず慎重に、それでいて気づかれない程度に大胆に。
いつも迷宮でやっていることと同じだ。
そう考えれば問題ないだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――
牧下一華:アリアと同い年の十八歳……なのに迷宮いっぱい攻略してるとは……これいかに?
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