49 引き留められる


「よく来たな!白斗!」


 牧下兵装の第一演習場のすぐそばにある装備開発施設の玄関口。


 そこには人間サイズの出入り口とは別に巨大な出入り口が存在する。


 そんな色々異色な玄関口の前に座る見るからに筋骨隆々な厳ついおじさんが声をかけてくる。

 ほかにも数人入り口付近に白衣を着た人がいるが、その人たちは座り込んだりせずにきれいに立っている。



「お久しぶりです。大吾郎だいごろうさん」


「おう、久しぶりだな。で、そっちの嬢ちゃんが噂の新人か」


「よ、よろしくお願いします!」


 先ほどまではウッキウキだったアリアも厳ついおじさんを前に緊張したように声を詰まらせている。


 ただ目の前にいるだけ、声を掛けられるだけならアリアもここまで緊張しないだろうが、今目の前にいる人物はその程度では済まない。


 この大吾郎という人間はただ人を見ているだけのように見えて、見られている本人からすると自身のすべてを見透かされているような気分になる。


 特に他人からの視線や気配に敏感な実力者ほどそれを違和感として強く捉えてしまう。



「ハハハ、いい警戒心だ。やっぱりわかっちゃうもんだよなぁ。

 それにしてもいい目をしている。いや、目だけじゃないな、身体もいい。よく鍛え上げられている。身体の奥に静かに眠る熱い魔力を感じる。それに実用的な体の筋肉だ。歩き方で分かる。ただ、少しクセがあるな……。左右で違う武器種を常に使い続けているからか?いや、でもその上でまとまっているようにも見える。装備次第で改良の余地はありそうだが、ここは本人と要相談か……。というか、装備だ装備、鞭を使うなら関節部分の可動域には細心のの注意を払うべきだろう。この辺りももちろん見るが、何よりも鬼化というスキルの影響も考慮しなければいけない。スキルによる装備への影響となると素材は元となったモンスターのものがいいが……しかし鬼化か……報告例が殆ど無いんだよなぁ。それにパッと思いつくものは素材が鞭に向いてないんだよなぁ。そのあたりを含めて色々試したいな……いや、でも鞭の方はもう確か特注で作ってるんだっけか?うちで作ったのも試してもらってその上で選んでもらう方が……」


「うるさいですよ、少しは落ち着きなさい」



 アリアを見るなり、ぶつぶつとつぶやき始めた大吾郎さんに対して、隣にいた若い女性が頭を叩きながら注意をする。



「すまんすまん。新しく強い奴に出会うとつい……な」


「は、はぁ……」



 アリアもさすがにドン引きの様子である。

 まぁ、当たり前だ。


 帆鳥ほとり先輩なんて最初に会ったときは思いっきり警戒していたし、なんなら握手を要求されても拒否していたくらいだ。


 まだドン引き程度で済ませているアリアは優しい方といえる。



 隣にいた女性に頭を叩かれ、アリアにドン引きされたが、そんなことは気にする様子はなく立ちあがってアリアに向き直る。


「よぅし!改めて、牧島大吾郎まきしまだいごろうだ。気軽に大ちゃんで良いぞ!今日は色々とよろしく頼むぜ嬢ちゃん!」


「はい!鬼嶋きじまアリアと申します!本日はよろしくお願いします!」


「おう、任せろ任せろ!」


 どうやら挨拶はまともだったからかアリアの方も気を取り直していつものテンションに戻っている。


 二人とも元気があふれる挨拶だ。片方は元気というか覇気があふれているようにも思えるが、ないよりはある方が良いとも思う。



「それでは、とりあえず先に色々と説明を行いますのでついてきてください」


 そう言って先ほど大吾郎さんの頭を遠慮なく叩いていた女性が建物の中へと案内をする。


 先に今から着ける装備についての説明を受けるのはいつもの流れなので、アリアに続いて建物の中へと移動しようとすると唐突に腕を掴まれる。


 腕をつかんだ犯人は大吾郎さんだ。


 一人だけ突っ立ったままだったが、この人は割と好き勝手動くタイプなのは知っていたので疑問を挟まずに置いていこうとしたのだが、なぜか俺だけ腕を掴まれて引き留められた。


「あの……?」


「白斗、お前はこっちだ」



 正直嫌な予感しかしないから是非とも断らせていただきたいのだが、大吾郎さんの目を見ればわかる。


 これはではない。


 冷静に人の奥を掬うような眼差し。

 こういう顔をするときは本当にまじめな話をする顔だ。


「分かりました……」



 ―――――――――――――――



 引き留められた俺はそのまま大吾郎さんの指示に従って移動する。


 アリアたちとが入っていった建物とは別の場所。

 この辺りには似つかわしくないプレハブ小屋のような場所へと案内される。



 そのまま中へ入っていった大吾郎さんに続いて中へ入るが中は思ってたよりも広い。


 というかこの建物、明らかに外から見てとれる大きさと中の大きさが釣り合ってない。



「これってまさか……」


「ああ、そうだ!

 と言いたいところだがこいつは違え。こりゃただのハリボテだ」


 不思議な建物の正体に気づいて内心ではかなり驚いて声にまで出してしまったが、どうやら俺が思っていた物とは違うらしい。



「違うんですか……なんでまたそんなものを……」


「ま、色々あんだよ。とはいえこいつもこいつで利用できる部分もある。

 誰にも聞かれたくないお話をする……とかな!」


「はあ……?」


「この辺でちょっと待ってな」


 そう言って俺を残して部屋の奥の方へと進んでいく。

 誰にも聞かれたくない話——つまりは密談に適した建物とのことだが、密談をしなければいけないような用事について特に心当たりがない。


 今から何が始まるのか全然分からないせいで、胃がキリキリするような感覚に襲われる。



 そうして待つこと三分。


 消えていった奥から再び大吾郎さんが姿を現すが、そこにはさっきまでいなかったはずの人物がもう一人増えている。


 というか後ろのに続いて出てきたこの人物には非常に見覚えがある。

 最近会ったばかりの人物で、この場にいるとは想像もしていなかった人物——



駒場こまば会長、どうしてここに……?」



「驚くのも無理はない。だが、万全を期すためにも事前の連絡もせず私が直接来た。

 掛けてくれ伏野ふしの君、緊急の依頼の話だ」



 牧下兵装に来るときはいつも色々とやらされるが、さすがに会長から直接緊急依頼を投げられることになるとは思いもしなかった。


 もう帰りたい……






――――――――――――――――――――――――――――――

謎の建物:白斗が勘違いしたのは、実用化されると迷宮の探索が変わると言われる技術を確立できたと思ったから。実際はできてない。ざんねん

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