47 蠢く悪意


 ◆◆◆


 微かな光しか入らない薄暗い部屋。


 そこにつながる唯一の扉が開き複数の人影が遠慮もなしに入ってくる。


 先頭で入ってきたその人物は迷いなく部屋の中を進みいつもの場所へ腰を下ろす。


 その後から続いてきた人物たちも同じように決められた場所へと向かっていきその席に着く。



 この部屋には窓がない。

 それにも関わらずこの部屋を照らす明かりは小さな燭台に乗せられたろうそくの光しかない。

 当然お互いの顔なんてほとんど見えないし、ローブを纏っている者はそのシルエットすら分からない。


 だが、この場にいる者たちはそれをなんとも思わない。


 相手の顔が見えようが見えまいがひたすらに


 全員がお互いのことを仲間だとも思っていない。



 そもそもここにいる全員は自分たちのやりたいように動くためだけに集まったのだと各々が理解しているからこそ干渉しない。

 最終的な目的やそこに至るために達成しなければいけない条件の中で、自身の目的が叶うから同じところにいるだけだ。


 時に手を組んで動くこともあるが、その最中に何かあれば自身の目的を最優先に動く。


 自分たちのやりたいことは今の社会では達成するのは難しい。

 大なり小なり社会から受け入れられない者たちだからこそ、ある意味で集団として成り立っている。


 全員がとは言わないがここにいるほとんどの人間は自身がまともでないことを理解している。



「で?俺らを呼びつけたあのイカレ野郎はどこにいんだよ?」


「しらなーい」


「ワシが知るはずもなかろう?」


「どうせまた実験だーとかいって遊んでんでしょ?いい加減殺そうよ、あいつ」



 自分たちを呼びつけたはずの人物は部屋の中に見当たらない。

 この部屋に一番最初に入った男がそのことについて問いを投げかけるが返答してくれたのは三人。


 残りの人はもはや反応すらしていない。


 そんな反応をしなかった連中の中でおそらく最も小柄な人影が何を思ったのか席を立つ。

 そしてそのまま歩き出し出口の方へと向かっていく。


「おい、ちょっと待てや、がきんちょ。

 誰だか知んねぇけど、てめぇ何さっそく帰ろうとしてんだコラ?」


 男は別に集まっている理由について知っているわけでは無い。

 出ていこうとした小さな人影が何者なのかも知らないし、出ていこうが知ったことではない。

 それでも何かしらのためにわざわざ集められたのだから、せめて自分たちを集めた人くらいは待つのがいいと思ってて適当に声をかける


 特に何かしらの理由があったわけでは無い、ただなんとなくで声をかけただけだった。



 そして、その声掛けに対しての返答は――


 であった。


 とても小さな体から放たれているとは思えないほど濃密な意思表示。


 その場にいた全員の視線が出口に向かう人物に行く。

 それを受けて出口に向かっていた小さな人影は後ろに振り返り、その上で浴びせられる視線をものともせず口を開く。


「だまれ。何の権利があって止めてくる?既に三十秒は待った。呼ばれて集まってやった義理は果たしただろう?」



「……あっそ。もういい。好きにしろ……」


 その返答を聞いた男は面倒くさくなってすべてを投げ出した。

 他の人間も面倒そうだとそれ以上はの行動をとらなかった。


 自身を止める者がいなくなった小さな人影もそれ以上干渉することなく帰るために再度扉へと体を向ける。



 そして振り向いた視線の先、先ほどまでは閉まっていたこの部屋の唯一の扉がいつの間にか開いてる。


 そして開いた扉の先には気配もなく立ち尽くす人影がいる。



「いやぁ~。遅れてごめんごめん。

 ちょっと実験が良いところでね~。

 ああ、こいつかい?こいつはね~さっき使い物にならなくなったゴミだよ」


 そう言って扉の先で立ち尽くしていた人影の後ろからさらにもう一人の男が出てくる。


 男は自身の目の前にいる人影——先ほど自らが「ゴミ」と称したモノの首あたりを掴みながら部屋の中へと入ってくる。


「『笛吹き』ちゃんも席に着きな~面白い話が始まるからさ~」


「だまれ、殺すぞッ!」


「あはは、ごめんごめん」


 男は軽薄そうに謝りながら部屋の中を突き進む。

 そのままこの部屋の一番奥にある席に腰を掛けて改めて集まった人たちに視線を巡らす。


「それじゃ、始めよっか。英雄殺しの時間だ」



 ◆◆◆


 ―――――――――――――――



 アリアとの訓練もお互いにアップは済んだという事でスキルも交えた実戦形式に移行しようとしていたその時、帆鳥ほとり先輩からの呼び出しで一時訓練は中止となった。



 そうして集められたリビングでは先輩が協会から送られてきたメールを見せてくる。



 うん……仙洞せんどうさんがまた襲われたらしい。


 あの人が強い人で本当に良かった。

 強い人じゃなければ、もう数回は死ねているくらいには襲われているだろう。

 いや、逆に襲われすぎたせいで強くなったのかもしれないが……



「この短時間で再び襲ってきたんですか……?」


 隣ではアリアがメールの内容を確認して戦慄している。


「そう、この短時間でまた……でも違うところもあるっぽい」


 そう言いながら先輩はタブレットを操作して別の画面を見せてくれる。



 こちらは協会からの連絡というよりも仙洞さんが協会に送った報告書の一部らしい。



「仙洞さん曰く、敵の数は多かったけど相手の評価は約半数が『ギリギリ弱かった』で、もう半分は『相手にならなかった』らしい……」


「なるほど……参考になりませんね」


「えぇ……」


「いや、それがどうも仙洞さんが強すぎたとかいう話じゃないらしいよ」


「どういうことですか……?」


 てっきり仙洞さん基準での尺度で強さを評価しているせいでそんな報告書になったのかと思ったがどうやら違うらしい。



「報告書には『敵の半数は何もしていないのに勝手に体が崩れた』だって。

 それと、戦って思ったのは『在庫処分みたいだった』とも言ってる」



 なるほど、自分が強すぎて相手にならなかったのではなく、文字通り相手が勝手に死んだので相手にならなかった、という事か。



 そして『在庫処分』とくれば、なんとなく言いたいことは分かる。



 これまでのこともあって考えていた一つの仮説だが、 おそらく今までの襲撃はこちらの戦力を正確に測るためのものだったのだろう。

 そして今回の同時襲撃でその戦力に目途が立った。


 そして戦力としては使えない――勝手に崩れて死ぬような使えない戦力を一気にまとめて破棄するついでに仙洞さんを襲わせた。



 となれば今後の動きはおそらく……


 確実にそろえた戦力でこちらに対しての戦争を仕掛けてくるだろう。



 ふつふつと収まったはずの気持ち悪さと変な感情が込み上げてくる。


 上等だ。

 既にこちらは覚悟ができている。

 そのクソみたいな願望ごとこの世から一片も残さず消し飛ばしてやろう。






――――――――――――――――――――――――――――――

これにて第二章が終了となります。


いやー、途中で更新途切れたりと色々とすみませんでした。


次の章からは本格的に敵も描いていきますのでもう少し首を長くしながらキリンになってお待ちください。


そしてここまで読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございます。

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