39 爆走移動
元々いた四人に
この五人での移動となると車などの移動手段を用いるよりも各々の足で移動するほうが早い。
そのため全員道を走っている。
本来であればそんなことはしない。
迷宮外でいたずらに力を振るうことを探索者は良しとしない。
その身に余る力を常に開放することは、ひいては社会の治安に影響を及ぼすことが分かっているからこそ、上位の探索者であればあるほど気を遣う。
しかしながら帆鳥先輩から告げられた緊急事態はそれをすっ飛ばしてでも急ぐほどの理由のようである。
「それで、緊急事態とは?」
よほど急ぐ事態なのかその場での説明をなしにしてとりあえず移動を開始したので現状が分からない。
もし仮に、戦闘においての緊急事態で俺たちを戦力として必要とするほどの事態であれば、改めて覚悟を決めなければいけない。
そんな質問に対して先輩は少し考えてから口を開く。
「
一応その場の人間全員は命に別状はない……けど、空霧さんが負傷したみたい。
今から向かうのは本部付の病院。
多分戦闘になることはないけど、そのまま
告げられた内容を聞いて脳が理解するのが遅れる。
「マジですか……」
「は?あいつがやられたのか!?」
「え……」
「ええええええッ!?」
その説明を聞いたて内容を理解した全員が驚いている。
だが、それは当たり前だ。
こちらにも白黒魔石関連と思われるモンスターの襲撃はあった。
だが、それは
仮に向こうが同じように襲われても空霧さんが負傷する事態になるとは想像できない。
少し考えれば白黒魔石のモンスターに関してはその強さに大きなばらつきがあることもわかる。
俺が遭遇したモンスターはお世辞にも強いといえる相手ではなかった。
しかし、別の白黒魔石のモンスターは遭遇した相手があの
今回の事態はまったくあり得ないという事態ではない。
いや、違う。違うくはないが、問題はそこじゃない。
空霧さんがやられたのも十分やばいが、驚くべきはそれ以上に相手の動きがあまりにも組織だっている。
向こうの組も今日初めての
おそらく襲われたタイミングもこちらとほぼ同じくらいだろう。
それを同時に襲撃。
片方は特級探索者に負傷を負わせられるような存在まで引き連れて。
明らかに何らかの意図を持った存在が裏にいなければ起こり得ない。
さっきから黙っている朱王さんもおそらくはこの事態の異常さに気づいているだろう。
報告を聞いて驚いていたが取り乱すことなく静かに移動している。
もしかすると
そのあたりについての情報もこの後の話し合いで出るだろう。
となると、この後の話し合いに向けて事前にどういった情報が必要かを今のうちにリストアップしておいた方が良い。
現状では俺は何も分からない。その上どんな情報を求めるべきかも分からないとなれば、迅速な話し合いはできない。
そのためにも朱王さんに話しかけようとしたその時、今まで黙って正面を向いて走っていた彼女の顔が急に後ろを振り向く。
後ろ……というか、帆鳥先輩のいる方。
その顔はさっきまでの冷静さはどこに行ったのか、少し怒りのようなものが見てとれる。
「つまり、わざわざお前が私たちのとこに来たのは万が一の保険ってわけかァ?」
「そう」
「チッ、随分となめられたもんだなァ」
「別になめてるわけじゃない。緊急だったから……」
「ああ?」
「……あ、電話だ」
全然冷静じゃなかったわ……この人。
黙ってたと思ったら、それはモンスターについての考察ではなく、帆鳥先輩が駆け付けた理由について考えていたらしい。
そしてそれが万が一に備えての保険だと気づいて怒っちゃた感じである。
そして先輩は先輩でマイペースを貫いている。
今の会話の最中に電話が来たから逃げられるのは先輩くらいなものだろう。
少なくとも俺には無理である……
さすがは先輩だが、朱王さんをあまりイライラさせないでほしい。
怖いし……
そんな先輩はすぐに電話を切り上げて顔をこちらに向けてくる。
「駒場会長が着いたらしい。
少しスピードを上げるよ」
どうやら電話の内容は向こう側の状況だったらしい。
急ぐのは分かるし、俺はスピードを多少上げても大丈夫だが、アリアと柴犬君は少し心配になる。
シンプルなスピードの問題ではなく、走り方の問題で。
なんせ現状人が少ない道とはいえ迷宮外の道を走っている。
たまに建物の屋上を跳んだりもしているが、もし仮に本気で走るような真似をすれば踏み込みの力で道路や建物側に被害が出る。
本来出すべきではない力を出して爆走している以上被害が出るような真似はさすがに避けたい。
ある程度慣れていたりコツを知っていれば壊さずに走れるが、二人がその方法を知っているかは分からない。
「二人とも道を壊さずにスピード上げれるか?」
「…………」
「俺はいけるっす!姐さんからそういう外での戦い方も教えてもらったんで!」
念のための確認だったが柴犬君は問題ない。ただアリアの方は返事がない。
ちらりと顔を見ると、どうも何か考え込むように集中している。
「アリア、大丈夫か?」
「……」
「アリア!」
「っはい!?」
確認のため立ち止まって声を掛ければようやく気付いたように向こうも急停止する。
「おい、大丈夫か?疲れてるなら担いでいくぞ?」
「いえ、大丈夫です……」
「そうか。で、スピード上げてもついてこれるか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「そうか、しんどいならしっかり言えよ?」
「はい……ありがとうございます」
うーん。心配である。
特級がやられたと聞けば不安になるし、考え事をしてしまうのは別にいいが、返事が即座に帰ってこないほど集中して考え事をしているとなるとさすがにそちらの方が心配になってしまう。
まぁ、向こうにつけば病院で休むこともできるし、もう少し頑張ってもらおう。
そこまで行くのも無理そうなら担いでいくことにしよ……
――――――――――――――――――――――――――――――
空霧さん:系統は違うけど強さで言うと朱王と同じくらい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます