34 領外地帯のボス
本来であれば
そこに到達するまでに襲い来るモンスターを蹴散らし、道のない森を進まなければ目にすることすら不可能な存在。
それが今こちらに向かって動き出した。
――
ボスが本来の拠点から出てくることはあり得ない事態ではない。
主に迷宮への過度な破壊行為や生息するモンスターではどうあがいても歯が立たないと判断すれば、余計なリソースを割く前にボス自らが打って出ることはある。
それは特級の中でも実力のある人間ならば起こり得る。
今回のメインであるアリアや柴犬君では引き起こすことはまず不可能な事態。
これがまずい。
今回の訓練はボスのいる神殿までの探索とボスを狩ること、そしてボスをどれだけ狩り続けられるかを把握するためのものである。
それなのに色々な工程をすっ飛ばしていきなりボスを呼んでしまった。
――朱王さんが。
こうなってしまっては元の状態に戻すことなど不可能である。
この訓練が終わった後で協会から何か言われるだろうがそれはもう諦めた。
元来『待て』状態の
何ならむしろこちらから文句を言おう。
今後のことを考えながら頭を落ち着かせる。
起きてしまったことは仕方がない。
ならばあとは対処しするだけ。
いつもなら覚悟を決めて対処するのは俺だが、今回は違う。
いや、今回も覚悟は決めるがその覚悟はいつもとは違う。
後で協会に謝ることと、文句を言うこと。そして最悪の場合はその前に
今回起こった異常事態——ボスに挑むのはアリアと柴犬君。
朱王さんからの突然の『ボス来る』警告に固まったままの二人と目を合わせる。
「ボーっとするな!
言っただろう。
何が起きたとしても思考を放棄しないよう教えたはずだろう?」
その言葉にハッとした様子で二人の意識が臨戦状態に戻る。
「りょ、了解ですっ」
「いきなりボス戦に移っちまうのカ」
本来の意味で想定されていた異常事態とはまた別の異常事態ではあるが、それでも二人はすぐに意気を取り返す。
「まあ、ちょっとした手違いはあったが
今のうちに慣れられるから得だったな。
そんじゃ、こっから私らは手ェ出さないからな」
この事態を引き起こした張本人はふざけたことを抜かしながら離れていく。
この後ここはボスとの戦場の中心になる。
今までは届くことはなかった敵の攻撃もさすがに届くようになる。
別に防ぐことはできるが、その分二人へのボスからの攻撃の圧力が減る。
異常事態になったが今回の訓練は二人だけでどこまでやれるのかを見るのが本来の目的である。
既に二人とも戦う準備はできているので俺もこれ以上ここに残る必要はない。
「そんじゃ、がんばれよ!」
心の中で二人に向けて手を合わせながら朱王さんの後を追う。
◆◆◆
既に師匠たちが去った現場にて二人が顔を合わせる。
「そっちは大丈夫ですか?」
「ああ、問題なイ」
二人とも朱王さんの攻撃に巻き込まれて多少ダメージを負っているが、それでも問題なく動ける程度でしかない。
ボスが動き出したことはこの場にいてもよくわかる。
なんせ普通は障害物となるはずの森をお構いなしに突き破ってくる音が響いているのだから。
その音から巨大な体躯を持つ敵なのがたやすく想像できる。
「初撃は私がもらってもいいですか?」
アリアはその顔に自信を覗かせながら
「ん?分かっタ。
下がった方が良いカ?」
「いえ、この場にいてもらって大丈夫です」
「了解!任せタ」
その返答を聞いて今まで使わなかったスキルを開放していく。
柴井が見せた『犬化』の変化と比べれば見た目の変化は少ない『鬼化』。
体から漏れ出る紅いオーラが弾ける。
ただ、途中からそのオーラには紅以外の色が混ざる。
全体から漏れ出る紅と比べると少ない黒が線のように漏れ出る。
そのまま体の表面を迸るオーラを鞭へと流すと一瞬で鞭は紅に染まり、表面には黒で模様のようなものが刻まれる。
そのまま数度鞭を振り感触を確かめる。
確かめ終わった鞭を大きく引きその力を開放する。
『
練習してきた鞭術と『鬼化』のスキルを合わせた技を展開する。
自身の前方に向けて振るわれた鞭は紅い軌跡を残す。
一瞬で前方を埋め尽くすほどの軌跡を生み出し、そして仕上げに魔力を込めることによって鞭の振るわれた痕跡が消える。
「どういう技ダ?」
「カウンターみたいなものです。
相手が突っ込んでくるなら紅い軌跡が敵を粉砕します。
黒はその軌跡を隠すためのものですね」
「便利そうな業だナ。俺にはそういうのないから羨ましイ……」
「私は柴井さんの破壊力が羨ましいですけどね~」
今からボスが突っ込んでくるとは思えないほどゆったりとした会話をしている。
ただ、それは間違いではない。
気を抜くことは許されない
『戦い続ける』ためにどんな状況でも油断はせずに、でも軽口くらいは叩けるようになれと常々言われてきた。
二人とも師匠たちの教えに忠実であった。
「そろそろ来るナ」
「ええ……来ますね」
そうはいっても初めての
緊張せずにはいられない。
ただ、それでも動きを鈍らせることはない。
技を放つために黒が入り混じった状態となったが、それを元に戻す。
体の周りで弾けるオーラが紅に染まり切った状態に戻して敵を待つ。
待つこと数秒。
高速で森を突き破りながらボスがその姿を現す。
見た目は動物。
されどもその表面は鉱物で出来ている。
まるでスフィンクスのようなその姿をさらす。
咆哮を上げたりはしない。
しかしその顔にははっきりわかる怒気をにじませて二人を見下す。
「これガ……」
「ボスですか……」
ボスは自身のうち払うべき敵の姿を認識した瞬間、これまでの移動とはまるで違う速さを以て襲い掛かる。
二人までの距離が縮まりあと、一歩踏み込めばその喉元に食らいつける距離まで詰めた瞬間、その体が爆ぜる。
事前に設置した技が炸裂したことを確認すると同時に、最大限の力を以て鞭を飛ばす。
「シィッ!」
音速を超えた先端は正確にボスの目を撃ち抜き、大きく抉る。
いきなりの反撃によって吹き飛ばされたボスは顔の半分を吹き飛ばしながらも毅然と立ち上がる。
その姿を見てもアリアにも柴井にも動揺はない。
「さ、楽しもうゼ!!」
「ええ、やってやりましょうか!!」
どちらもこの程度は超えて当たり前だと言わんばかりの表情でボスと対峙する。
――――――――――――――――――――――――――――――
鬼食・○○:オーラの色に合わせて出せる技が変わる。
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