31 頷き
アリアと柴犬君が
それに続き俺と
どこまでも拡がっていくその迷宮はどこからでも侵入が可能となっている。
どこからでも入れるのでどこからでも抜け出せる。
ただし、簡単に抜け出せるかどうかは全く持って別の話となる。
『猟獣の双神殿』は
しかし
四人が入り込んだ瞬間にそれを察知したかのように周囲に散っていたモンスターの気配がこちらに向かってくるのが分かる。
「一発だけ、一発だけやらせろッ!」
「ダメに決まってますよ……協会からの条件忘れたんですか?」
もう待ちきれないとばかりに体から炎が噴出している
どうやら我慢が限界に達しそうになっているらしいが、俺たちの出番となるのは最低限アリアと柴犬君が限界に達してからだ。
「俺らは手を出さない。この物量をさばききるのはすべてお前たちだ」
「任せてくださいッ!」 「もちろんっス!」
二人は意気揚々と答えながら迫るモンスターに対して構えをとる。
アリアの姿は何度か見た右手に鞭と左手に短剣を構えた姿。
まだ、『鬼化』のスキルは使っていない。
まだまだ全力は出さないようである。
それに対して柴犬君は徒手空拳ではあるものの、その四肢からジェット噴射のように炎を噴き出している状態になっている。
ただ、一番変化しているのは炎が出ていることではない。
その体は当初の二倍ほどの大きさになり手は爪が伸び、耳が変化し、牙が生える、そして何より全身毛深くなっている。
獣化系統スキル『犬化』——獣化の中では割とポピュラーなスキルだが、その風貌はもはや犬というよりも狼とかの方が近い感じになっている。
彼の炎系統と獣化系統のスキルに対する適性がすさまじく高いからこそ、ここまで自由な形でスキルの行使ができるのだろう。
二人は一瞬で準備を済ますとお互いに無言で背を向け合って迎撃方向を分担する。
基本的に一人での戦いが多くなる特級ほどの戦力を持つ人間ではあまり見られない『背中を預ける』という行動を躊躇なくとったのはそれだけお互いの実力を認め合っている証拠であるといえる。
「「「「グゥルルルアアァァァァッッ」」」」
「「「「ガアアアァァァァァァッッ」」」」
周囲の森からモンスターたちが咆哮と共にその姿を現す。
首が四つある犬、爪が1mほど伸びている虎、全身の鱗が鋭利な刃物のようになっている蛇、腕が八本の熊、全身が泥のような猿、翼が燃えている鳥、角と角の間にエネルギーをためた状態の鹿、家屋のような大きさの猪などなど。
最前列で迫ってくるモンスターは見てとれるが、この後ろにもまだまだ控えている。
いきなり多種多様なモンスターが姿を現す。
どれもこれも普段の迷宮では見ることが少ない特殊な形や能力を備えている。
目に見えて迫りくる脅威に対して二人はというと――非常に落ち着いていた。
森から大量に姿を現しても自身の攻撃力が最も有効に発揮される距離に近づかれるまで何もしない。
とりあえず、ここで狂乱状態になるようなことはないらしい。
今まで探索してきた迷宮ではありえない状況でも、冷静に対応できるのはこれまでの訓練の賜物であるといえるだろう。
そんな中一番最初に攻撃に移ったのは柴犬君。
おそらく見えるモンスターの中で最速を誇る虎型モンスターに向かって踏み込み、一気に肉薄する。
相手も気づいてその長い爪で迎撃を試みるが、その迎撃が当たることはなかった。
爪が振るわれた瞬間に一瞬ステップバックしてギリギリの間合いを制し、振り切った体勢となった虎に対して再度接近、そのまま炎を纏った貫手で首を貫き、内部から炎を噴出させ首を焼き切っていた。
彼が戦う姿は初めて見たが、だいぶワイルドな戦法をとる。
その体が示すような野生を感じさせる戦いっぷりである。
隣を見ると弟子の戦いっぷりを見てどこか自慢げな様子でうんうんと首を振っている朱王さんが目に入った。
おそらくこの戦闘方法も彼女が教えたのだろう。
ワイルドすぎである……
俺は直接戦闘に関しての指導はしていないが、もしかしてうちの子も……
と思って反対方向を見ると、アリアは鞭を振るうたびにモンスターの体の一部が消え去っていくという不思議な光景を作り出していた。
こっちも別方向でワイルドな戦いを繰り広げていた。
迫りくるモンスターたちに対して横なぎに鞭を放てば横一列のモンスターのが上下で別れ、遠距離から攻撃を仕掛けてこようとしているモンスターには直線で鞭を動かし一点集中した先端でモンスターの頭部を爆散させている。
範囲攻撃も一点集中の攻撃も可能とはやはり多彩な戦い方をしているようだが、相変わらず彼女の左手に構えられている短剣は活用されていない。
『鬼化』以外のスキルもまだ使っておらず力は残した状態のようである。
その判断は正しい。
特級の仕事は
それを成すまで戦い続けられることが最低条件となってくる。
だからこそ、訓練時のメニューはそれらの能力を鍛えるためのものとなっていた。
常に最低限の動きで動けるように、そしてたとえ全力で動いてもそのまま動き続けられるように。
常に万全の状態で挑めるわけでは無い。一度入れば迫りくるモンスターや環境がそう簡単に逃がしてはくれない。
全力を出さずに対処する方法と、全力を出し続ける方法、そして全力が出せなくなっても戦い続ける方法、
だからこそこの状況である意味で手を抜いた対処をしている彼女の様子を見て、満足げにうんうんと頷いてしまう。
先ほどの朱王さんと同じことをいつの間にかしていた。
なるほど、弟子を持ったら分かる。これはついつい頷いてしまうみたいだ……
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柴井炎珠:燃え盛る半人半獣が超スピードで肉弾戦してくる。こわいね
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