30 合同訓練
家のトレーニングルームにて日課の鍛錬と魔石吸収を行っていると部屋に備えついているモニターに通知が来たことが示される。
「ん?」
訓練用に作られた模造剣を地面に置いて、鍛錬を一時中断してモニターに近づく。
表示された通知は探索者協会からのもの。
それを確認してすぐさまモニターを操作して通知の内容を確認する。
――――――――――
超長時間の適応訓練の修了を確認。
これをもって
日程は二日後。
訓練場所は昨日静岡にて出現した
これに伴い指導官に当たる
また、訓練が続行不能と判断された場合は、当該人物の安全確保後に
――――――――――
それを見て思わずため息が漏れる。
協会から送られてきたメッセージの内容は候補者たちの修行のステージの引き上げと、その日程、そして訓練を行う際の条件についてのものだった。
この訓練を行うのに条件が付けられていることは不思議ではない。
そもそも、特級と呼ばれる人間が
考えなくとも当たり前の話だが、本来あそこは訓練のために使っていい場所ではない。
訓練をした結果
だからこそ、拡がりすぎると判断される――訓練の続行が不能とされる事態に陥った場合の保険は用意しなければならないことは理解できる。
ただ、問題があるとするならばこれが合同訓練であるという点。
万が一の場合には俺が朱王さんと共に事態の解決に望まなくてはいけないということである。
これがやばい。
何がやばいってあの人は特級の中でもトップクラスで誰かとの共同で作業をすることに向いていないタイプの人であるということ。
兎にも角にも燃やしてしまえばいいという考えの
これがまだ
しかし朱王さんにはそんなものはない。
あの人の場合は戦場において燃えるような奴は
なんで俺があの人と組まなければならないのか、とも思ったがおそらくは指導者同士の相性ではなく、候補者同士の相性で決められていると思われるので仕方のないことであった。
「クッソがよぉ」
どうしようもない事態の予定に思わず悪態をついてしまう。
トレーニングルームに備え付けられている全身鏡を見ると、鍛錬のせいでかいた汗とは別の汗を全身に張り付けて、なんとも情けない顔をした自分が映っていた。
整った顔が台無しである。
「はあ……こんな顔、世間様には見せらんねぇか……」
鏡に映る自分を見て喝を入れる。
必要だから嘘をつく。
これまでもこれからも。
世間も騙したが、何より騙しているのは自分自身。
この程度楽勝だと心を騙して後ろを向きたくなる自分の顔を前向きに固定するようなことはいくらでもやってきた。
ならば今回も同じようにするだけだ、と鏡に映る自分の瞳を正面から見つめ返す。
鏡の中の自分は既にいつもの顔に戻っていた。
――――――――――—————
「よぉ、久しぶりだなァ。伏野。お前の顔面はいつもキラキラまぶしいなァ」
「こんにちは。朱王さん。
……なんか今日の朱王さんはギラギラがあふれ出てますね?」
合同訓練当日、訓練場所である
隣にいるアリアの様子をちらりと見る。
今朝合流した時のアリアはワクワクを抑えきれない表情をしていたが、今は猛獣を前にしたような表情をしている。
そうなってしまうのは分からんでもない……
どうしてこうなっているのかと疑問の目を柴犬君に投げかけると、こちらに駆け寄って耳を貸せとジェスチャーをしてくるので少し身を傾ける。
「その……姐さんは修行期間中に
それで協会からこの訓練が解禁になった通知を見た瞬間からあのテンションのままっス」
なるほど
説明の一部を聞けば遠足が楽しみで前日眠れないかわいらしい子供のような印象を受けるが、すべてを聞けばいかにも
いつもは『顔がキラキラしてる』なんてことは言わない人が変なことを言っちゃうわけである。
なんとも笑える話だ。
全然笑えないけど……
「それじゃ、俺が説明をしようかな……」
変な人がさらに変になっちゃってるせいで、万が一の際の俺の身の危険が増したが、動揺を表に出すことなく平然とした態度を保ったまま話を進める。
ギラギラした猛獣を見ていた今日のメインの二人の視線がこちらに向く。
「分かっているとは思うが一応伝えておこう。
これから君たちが入るのは
本来特級や一部の人間以外が入ることすら禁止されている
ここでの訓練では今までと同じように俺と朱王さんは基本的に干渉しない。
万が一のための保険のようなものだ。
言っておくが、君たちがその力を特級だと認めさせるには最低限俺たちの力を借りる必要がないということを示さなければならない。
分かったな?」
「はいッ!」「うすッ!」
「よろしい。
ではこの訓練の注意事項だが、……「おい、もういいだろ?」」
「私が育てたワンコはいちいちそんなこと説明されなくてもわかってんだよォ。
お前んとこのもそうだろ?」
どうやらもう待ちきれないらしい……
なんなのこの人……
一応アリアの方に目を向けると、「任せてください」と言わんばかりに輝いてる目をこちらに向けてくる。
「なら、俺からも特に言うことはない。
その力を存分に示せ」
一応最後に発破のようなものを掛けるとアリアは鞭をヒュンと鳴らし、柴犬君は拳をゴツンと打ち合わせ両者気合を示した。
なら後は、この二人に任せよう。
俺はもう帰る!(当然帰れない)
――――――――――――――――――――――――――――――
朱王:迷宮に潜らない日はなかったが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます