29 報告とこれから
修行に関して常に付きっきりで行う必要はない。
というか、そもそもその強さに関しては教えることはあまりない。
そのため俺の仕事はというと、有効な戦い方や気を付けるべき点を伝えた時点で大部分は終わった。
現在は週に二度ほど直接会って修行の成果を確認して、それ以外は指示出し状態である。
基本的にはノータッチ、あとは本人がそれを身に着けられるかどうか。
疑問点や行き詰ったらいつでも質問や相談に乗るとは言ってあるが、今のところそういったことはない。
せいぜいが、言われてたことができるようになったので次の修行にステップアップしましょうと連絡が来るくらいである。
相談どころかむしろ成長スピードが速すぎるまである。
この前
どうも彼女はさっさと
意欲的なのは大いに結構であるが、きついかなー?とか考えながら出したメニューを平然とこなしてくるのはやめてほしい。
なんで休みなしで一日中迷宮はしごとかを初めから平然とできちゃうわけ?
普通に困惑するからやめてほしい……
どうやら彼女は性格面ではごく常識的なタイプかと思ったが、余裕でイカれた
まあ、それも特級らしいと言えば特級らしい。
そんな弟子の強さに胃が痛くなるが、今日はそれをリフレッシュできる一日となる……はずである。
なんせ今日は
実は会うのは本当に久しぶりである。
予想通りに帆鳥先輩には
そのせいで家に帰ってくることが少なく、帰ってきてもたまたまタイミングが合わないせいで会えていなかった。
もう帆鳥先輩成分が足りていない。
本来あったはずの、イレギュラーに対しての対処がいつでもできるという安心感がない現状で、胃痛の原因がすぐそこにあるとそれはもうしんどい。
だからこそ今日という日を迎えられることがうれしい。
帆鳥先輩がいるという事実は、全てにおいて安心感がちがうのだ、安心感が。
そんなこんなでソファーでくつろいでいると背後に冷たい気配を感じる。
「なんでそんなにニマニマしてるの?
せっかくの顔が台無しだよ?」
いつの間にいたのか後ろには帆鳥先輩が立っていた。
「……いつ、お帰りに?」
「さっき」
「気配消して後ろに立つのはよくないと思います……」
「消してない。
ハクが気づかなかっただけ。いつでも警戒してないそっちが悪い」
「なるほど……」
どうやら安心感のせいか周りの気配を感じることすらやめてしまっていたらしい。
せっかくの再開が台無しである……
「まあ……それは置いといてご飯でも食べましょうか」
「うん、私も久しぶりに
「今日チキン南蛮らしいです」
「それは、楽しみ」
ごはんの話を聞いて冷たかった先輩の表情に少し笑顔が湧いてくる。
―――――――――――――――
食卓に作り置きされていた料理が並び二人でご飯を食べているが、先輩は久しぶりに食べる鵜飼さんのご飯にご満悦なようで、大皿に盛られたチキン南蛮はどんどんと先輩の胃の中へと吸い込まれていく。
どうやら最近の仕事では満足のいく食事をとれていなかったらしい。
お互いに一緒にご飯を食べるのは久しぶりだが、やはり話題はお互いの仕事の話になってくる。
「先輩の方はどうなんですか?
「仕事は順調とは言えないかな……
今のところ手掛かりが少ない。
ただ、何かあるって部分だけは私も仙洞さんも会長も一致してるから不気味なくらいかな……」
「何かあるんですか……」
「たぶんね。
だからそっちも常に気を着けて。
さっきみたいに気を抜いてるよ危ないよ?」
「わ、わかりました」
その三人が警戒する何かなど遭遇したくはない。
絶対に俺では対応できない事態でしかない。
「そっちは順調?」
「ええ、今度の訓練を通過できたら合同での
「早いね」
報告を聞いた感想は『早い』。やはり帆鳥先輩から見ても早いらしい。
俺と帆鳥先輩で立てた訓練メニューでは
他の三名の候補者なら別かもしれないが
それを覆したのは彼女本人の才能ときつい訓練を乗り越えられる精神力の賜物だといえる。
「ま、彼女は才能もですけど努力量がすごいって感じですね。
俺は進捗を聞くくらいしかしてませんけど感心せざるを得ないですね」
「へ~、アリアちゃんとは仲良くできてそうだね?」
「……ッスー、いえ、はい、まあ仲はいいんじゃないですか?」
この話題は危険だ。この前も帆鳥先輩の機嫌は随分と悪くなってしまった。
もしや嫉妬なのか?これが嫉妬というやつなのだろうか?
そうであればなかなか面白いというか愉快な事実ではあるが、それはそうとして機嫌が悪くなることは避けたい。
前回は何とか高級プリンによって手を打ってもらったが今回も同じ手が通じるとは限らない。
「まあ、今は会う機会も少ないですしね。
先輩が心配するようなことはないですよ?」
「心配なんてしてないけど……?
別に誰と仲良くしててもハクの自由だし?関知しないけど?」
次の発言は気を付けなければいけない。
必要なのは勇気。この後の機嫌を保つためにもあえてここでチャレンジ精神を発揮する。
「せんぱ~い、嫉妬しちゃってかわい~な~」
前回のような重い空気を作らないためにあえてふざけたことを口走った瞬間、なにかが顔のすぐそばを高速で通り過ぎる音が聞こえた。
ゆっくり後ろを振り向くと壁には箸が突き刺さっていた。
一瞬の出来事だったが認識と同時に冷や汗が出てくる。
「じょ、冗談ですよ……?先輩?」
「言っていいこととダメなことはある」
どうやら今回も安全なルートは踏み外してしまったらしい。
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鵜飼の料理:自称執事さん、料理もできる。
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