28 今後の方針
とりあえず、迷宮内で見るべき点は既に見たので、そのまま迷宮から出る。
攻略した迷宮は一時的にボスを倒した地点に出口が開くためすぐに出られる。
出口がすぐそこにあるので帰りは楽ちんとなる。
大きめの魔石だけ取り出した状態でもほかの部位は素材として売り払えるため、倒したボスはそのまますべて持ち帰る。
迷宮から出た後は倒したボス蛇を外に派遣されている素材買い取り業者に引き渡す。
それらすべてを後ろから眺めているが、おおよそ問題となるような点はない。
業者への態度、コミュニケーション能力においてもかなりしっかりしている。
若さもあってか業者の人たちからは驚かれているが、本人は気にすることなく対応している。
もしかすると本当に彼女は特級の常識枠の人間になれるのかもしれない。
強さもあって何より常識的とはなんとも理想的な人間なのだろう。
そんな人間なんて
もしかすると協会側もそんな彼女の一面すら評価していたのかもしれない。
控えめに言って素晴らしい人選だと言わざるを得ない。
俺が師匠枠に選ばれたことを除けば完璧な采配だったといえる。
本当になんで俺がこんな立場にいるのだろう……?
そんなことを疑問に思っていると業者とのやり取りを終えたアリアがこちらに駆け寄ってくる。
これにて迷宮探索の一連の流れがすべて終了する。
今日一日だが、彼女の探索を見ていて問題となるような部分はなかった。
むしろその能力の高さにには舌を巻くほどではあったが、なぜか彼女の顔には不安の様相が浮かんでいる。
何か不安になるような点があったのだろうか?
もしかすると彼女的にはまだまだやれた部分があったのだろうか?
あいにくながら俺はそんな潜在能力的なものを測ることはできないため、表面上のものしか見れない……
とりあえず、先ほどから浮かべる笑顔は崩さずに声をかける。
「お疲れ様。俺の所感だと、とりあえず今日の動きを見る限り十分に動けてると思ったけど……もしかして今日は調子悪かったとか?」
優れない顔色の正体はいったい何なのか。
もし仮に今の探索で気にすべきところがあるのであれば逆に聞いてみたい。
「よく……できてましたか?
テストだったんですよね……?」
「うん?確かにテストの側面がでかい探索だったけど、今日の動き自体は十分だったと思うよ?
最初に出した条件も守ってたし」
どうやら不安そうな顔は今回のテストでの評価を気にしてのことらしいが、あの快進撃っぷりでまだ気にする余地があるとは末恐ろしい。
とりあえず落ち込む必要がないことは伝えておかねばならないので、今回の評価を伝えておく。
「今回の探索において評価してたのは立ち回りと最低限特級になれるだけの実力があるかどうかを見てた。
そう意味で言うと今回の探索で見せてくれた立ち回りと実力はは
だからこそ評価するならいい動きだった、となる」
見ていて感じた評価をそのまま伝えると目に見えてアリアの表情が良くなる。
まあ、評価が悪いと修行に差支えがあると考えるなら今回の件を気にするのだろう。
「よ、よかったです。
あと、ボス戦が終わってからもずっとニコニコだったのでなにか失望させるような戦いだったかと思ってました」
どうやら俺が暇すぎてモンスターをスケッチしていたことや、強すぎるなーと思いながら微笑んでいたことがマイナス評価だと勘違いさせてしまったらしい。
申し訳ない……
「いや、その、ごめんね……
気散ったりしてた?」
「いえ、そんなことはなかったです!」
「そう、ならよかったけど……」
暇でスケッチしてたこともそうだが、顔が良すぎるあまりただの微笑みが何かしらの圧を与えるとは思いもしなかった。
まったくもって困った顔である。
どうあれ、テストで見た通り彼女は十分に強い。
強さに関して俺が、どうこういう必要はないだろう。
ならば、当初の予定通りに修行用のメニューを始めることにしよう。
「とりあえず、今回の評価の詳細と合わせて、今後の修行の方針とかの話もしたいから場所を移動しよう」
「わかりました!」
今後の修行の方針は主に
これらの情報は外でペラペラとお話ししていい内容ではない。
特別機密に指定されているわけでは無いが、内容が内容だけに聞かせる人物には注意する必要はある。
とりあえず探索者協会まで移動して会議室を借りて話した方が良いだろう。
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迷宮から一番近かった探索者協会支部の会議室。
申請すれば探索前や後のブリーフィングや反省会などにも活用できる。
持ち込みの資料などを映すプロジェクターなども用意された部屋で話し合いが行われている。
「それじゃ今後の方針についてだが、一応聞いておく、
「あまり、知らないですね。
普通はそうだろう。
一級で歴が長い探索者だとどんなものか知っていたりする情報だが、探索者になってから三か月もたっていないアリアは知りえないだろう。
「じゃ、そこから説明を始めるか。
とりあえず今後は
最終的にはそこでの活動を行ってもらう予定だ。」
「はいっ!」
「まず、
その上で何よりの問題点は
「侵食……!?」
「そうだ、他の迷宮と違って広がり続ける。
止めなければおそらく際限なく。
だからこそ、特級の仕事はコレを食い止めることになる。
正確には食い止めるというよりも消滅させる。」
「え、消滅!?
「おそらく理論上
迷宮の進化を食い止めるのと原理は同じだ。
ボスの攻略を繰り返すことで
これが特級の仕事になる」
「それって……
「そうなる。
侵食が止まるまでその場に留まってひたすらにモンスターを狩り続ける。
ボスが出現すればボスを狩る。
力を削ぐために侵食されて作り変えられた内部の世界の破壊も行う。
当然向こうからすれば紛れ込んで破壊活動を行う異分子を排除しようと常に大量の敵が押し寄せ続けるが、そのすべてを粉砕し続けられる実力と対応力がなくてはいけない。
これが特級が特級と言われる理由だ」
そんな事態に対応し続けられる個人達。
集団で行っても個々の力がなければどのみち対応できないからこそ最強の個である特級がいる。
話を聞いたアリアは驚きと、そして何より分かりやすく期待を感じさせる顔をしていた。
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